カテゴリー別アーカイブ: 明るい課長講座

生き様-明るい課長講座

仕事をしない大企業幹部

半導体大手エルピーダメモリの社長を務めた坂本幸雄さんが亡くなられました。2月28日の日経新聞、西條都夫・編集委員の「坂本幸雄氏死去 世界標準の半導体プロ」に、次のようなことが書かれています。

・・・「知る人ぞ知る存在」から、一躍脚光が当たったのが2002年に経営危機にひんしたエルピーダメモリに再建の切り札として招かれ、社長に就任した時だ。同社はもともとNECと日立製作所のDRAM事業が統合して発足。その後、三菱電機の同事業が加わり、寄り合い所帯感が強かったが、坂本氏の剛腕で組織に心棒が通った。

「大企業出身の幹部は何がダメといって、まず仕事をしない。朝来るとお茶を飲みながら同僚と雑談したり、新聞を読んだりする。外資系の長い私にとって、日本企業にはこういう手合いが一定数いて、しかも組織のなかで比較的大きい顔をしていることが新鮮だった」と後々振り返った・・・

皆さんの職場にも、こんな上司がいませんか。

管理職が管理職の仕事をしない

職場の悩みは人間関係」の続きです。豊田自動織機の調査報告書では、次のようなことも指摘されています。豊田自動織機「調査報告書(公表版)」2024年1月29日

・・・当委員会のヒアリングにおいて、これらの管理職は、「設計グループ出身であり、適合業務の経験がなかったため、適合業務に詳しい適合グループの担当者らや高浜工場の担当者を信頼し、劣化耐久試験に関する業務を一任していた。」、「船舶用エンジンの出身なので、フォークリフト用エンジンのことは分からない。」、「適合業務に関する知識や経験がなかったため、適合業務の担当者に対して、日程に関するコメントや設計者の視点からのコメントはしていたものの、基本的には担当者に劣化耐久試験を含む適合業務を一任していた。」等と述べ、自身が経験してこなかった業務やエンジンについては、知見・経験がないため、管理職としてのチェック機能を果たせていなかったと述べている。
しかし、管理職のこれらの発言は、管理職としての責任を全く自覚していなかったことを自認するに等しいものである。
管理職が自らの所掌する業務を全て担当者として経験することは、むしろ稀である。その上で、管理職としては、所掌する業務の基本的な知識や管理上の要諦を身につけ、部下からの報告の内容に耳を傾け、問いを発するなどして問題の有無の発見に努め、適正な業務執行がなされるよう管理する必要がある・・・(169ページ)

「管理職のこれらの発言は、管理職としての責任を全く自覚していなかったことを自認するに等しいものである」という指摘は、厳しいですね。しかし、指摘の通りでしょう。
「管理職が自らの所掌する業務を全て担当者として経験することは、むしろ稀である。その上で、管理職としては、所掌する業務の基本的な知識や管理上の要諦を身につけ、部下からの報告の内容に耳を傾け、問いを発するなどして問題の有無の発見に努め、適正な業務執行がなされるよう管理する必要がある」とは、当然のことです。
これまでは「部下に任せる上司」が、よい上司と考えられてきました。しかし、それでは、いてもいなくても一緒です。

職場の悩みは人間関係

日本を代表する企業であるダイハツ工業と豊田自動織機が、トヨタ自動車向けの車種やエンジンで不正を行っていました。豊田自動織機の調査報告書では、次のようなことが指摘されています。豊田自動織機「調査報告書(公表版)」2024年1月29日

・・・当委員会がヒアリングしたエンジン事業部の従業員の中には、「開発スケジュールが厳しいことを上司に伝えても、上司が L&F に対しスケジュールの見直しを申し出ることはなく、むしろ、決められたスケジュールに間に合わせるよう指導を受けるのみであったため、スケジュールが厳しくても、上司に相談することはしないようになった。」などと述べる者もいた・・・(164ページ)

ここから読むことができるのは、不正が起きた、そしてそれが是正されなかった原因は、人間関係だということです。
部下は悩んでいる、しかし上司に言っても無駄だとあきらめている。上司は部下の悩みを聞くどころか、その原因になっているのです。
拙著『明るい公務員講座』で、職員の悩みは人間関係だと説明しました。仕事に悩んでいるのではなく、人間関係に悩んでいるのです。
管理職が管理職の仕事をしない」に続く。

仕事の進め方、市町村アカデミー

市町村アカデミーでの仕事についてです。
昨年から、運営に関して新しく大きな仕事を始めました。専門家を交えて、1年間の検討の結果です。仕事を増やしたのは私なのですが。これについては、紹介する機会もあるでしょう。

この仕事は方針を決めてあるので、担当者たちに任せておけばよいのです。とはいえ、気になるので、時々状況を聞きに行っていました。すると、職員が定期的に報告してくれるようになりました。さらに、それを様式にして、日を決めて電子メールで送ってくれるようになりました。ありがたいですね、効率化を考えてくれるのは。

もう一つは、先日書いた動画配信です。「まずは試行してみよう」と言ったのは私ですが。誰を対象に、どのような内容にするか、見ることができる範囲はどうするか、その仕組みはどうするかなど、いろいろ課題はあるのですが、それを解決してくれました。
で、私に「出演しろ」と要求してきました。断るわけにはいきませんね。

市町村アカデミーの任務は、市町村職員への高度な研修の実施です。それは変わりません。「百年一日の研修をしているのだろう」と思われる方もおられるかもしれませんが、そうではありません。市町村現場での課題は、急速に変化しています。
研修主題、内容、講師などは、毎回、受講生の意見と教授陣の検討を元に、見直す仕組みができています。さらに今回書いたような、業務運営や研修方法なども、社会の変化に応じて変えていかなければなりません。資料を、紙から電子情報に変える試みも始めています。
職員が積極的に取り組んでくれるのは、うれしいです。

再雇用職員の戦力化

1月31日の日経新聞経済教室、奥田祥子・近畿大学教授の「人事制度を現役並みに シニア層戦力化の課題」が勉強になりました。多くの職場で、悩んでおられると思います。詳しくは本文を読んでいただくとして。現役世代の給与体系を変えないと、解決しないようです。

・・・まず、定年後の働き方の現状を整理する。労働政策研究・研修機構の「60代の雇用・生活調査」(19年実施)によると、60〜64歳男性のうち「会社、団体などに雇われて」が最多で70.7%を占めた。雇用形態は非正規雇用が58.1%で、正社員(37.1%)の1.6倍である。
賃金と仕事内容はどうか。パーソル総合研究所が21年に行ったシニア従業員への調査によれば、定年後再雇用の人々(男性405人、女性186人)の年収は定年前と比べ、平均して44.3%低下していた。ところが半数が「定年前とほぼ同様の職務」(55.5%)で、「定年前と同様の職務だが業務範囲・責任が縮小」(27.9%)と合わせて8割強がほぼ同じ職務に就いていた。
再雇用の多くが1年単位の契約更新制の非正規社員だが、仕事が変わらないのに正社員と差をつけるのは、本来は「同一労働・同一賃金」の原則(パートタイム・有期雇用労働法)に抵触する。処遇に合わせて仕事の質や責任の程度を下げる企業もあるが、本末転倒な面は否めない。

筆者の長期継続インタビューを中心とする研究では、社会の中枢に位置する男性は、多くが「出世競争に勝たなければならない」「高収入を得て、社会的評価を得るべきだ」といった旧来の「男らしさ」のジェンダー(社会的・文化的性差)規範にとらわれている。その結果、年収や待遇の低下は、モチベーション低下に直結する。
定年前に部長など上位の役職を経験した人ほど不満を募らせ、働く意欲を喪失する傾向が強いことが、筆者の調査からも明らかになっている。具体的には、「元部下にあごで使われるのが我慢ならない」「定年までの実績を否定されたようでやる気が湧かない」といった声が聞かれた。
シニア層の意欲低下には、こうした人生やアイデンティティーに不安や葛藤を抱く「中年の危機(ミッドライフ・クライシス)」が長引き、定年を境に、抑うつ症状などの心理的危機の新たな波が押し寄せるケースが増えていることが背景にある。実際、「仕事にやりがいがない」「自らの働きが会社に認められていない」などの声があった。

この主因として挙げられるのが、定年後のシニア社員に対する人事制度である。定年に達すると、機械的に以前適用されていた職務や役割、能力によってランク分けする等級制度からは対象外となり、人事評価も行われないケースがほとんどだ。成果報酬、多面評価などを取り入れているような企業であっても、定年後は突如、通常の人事制度から排除される。
多くが定年前後でほぼ同じ業務に就いているにもかかわらず、期待される役割や責任が明確に示されず、報酬も激減する。どのように貢献すればよいのかわからないまま、期待役割を担い、会社の役に立っているという実感を抱きにくくさせていると考えられる・・・