カテゴリーアーカイブ:人生の達人

嘘をつく人工知能

2026年1月9日   岡本全勝

2025年12月29日の日経新聞オピニオン欄に、ピリタ・クラークさんの「AI過信の失敗リストに学ぶ」が載っていました。大きな事件を列挙しています。
・イギリスの公共放送BBCが、スペインの有名なテニスのナダル選手が「ブラジル人になった」「同性愛者であることを明かした」と伝えた。この嘘のニュースは、アップル社のAI機能が作成しました。
・アメリカの新聞紙、シカゴ・サン・タイムズが、存在しない書籍を含む推薦読書リストを提供した。記者がAIを使って書きました。
・オーストラリアでは、殺人事件の裁判で、ベテラン弁護士が提出した文書に、架空の引用と存在しない判例が含まれていました。AIの助けを得て作成しました。
・国際的コンサルティング大手のデロイトが、オーストラリア政府から受託した報告書が間違いだらけで、代金を一部返済しました。

まあ、立派な嘘をつくものですねえ。「機械は間違えない」という観念が揺らぎます。人工知能が嘘をつくことは、このホームページでも紹介してきました。
それに関連して、私の経験を思い出します。県の税務課長をしていたとき、電算機で作成した課税通知が間違っていて、記者に厳しく追及を受けました。その際に「ミスは人為的なものか、機械によるものか」という質問がありました。担当者に聞くと「機械は間違えません」ときっぱりと言われました。潔いことは良いのですが、それだと職員が間違ったと「自白」したようなものでした。記者たちも、即座に納得してくれましたが。

間違えること、これまでにないことを思いつくのが人間です。すると、人工知能はそれほど人間に近づいたということでしょう。取り上げられている事案について、どのような「意図」や「経緯」で人工知能が間違えたかを知りたいです。

正規・非正規の待遇格差、是正は道半ば

2026年1月8日   岡本全勝

2025年12月2日の日経新聞経済教室、水町勇一郎・早稲田大学教授の「正規・非正規の待遇格差、是正は道半ば」から。

・・・雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、非正規という言葉をこの国から一掃してまいります」――。2018年の通常国会冒頭の施政方針演説で、安倍晋三首相(当時)はこう述べた。時間外労働の上限規制と並び、正規・非正規労働者間の不合理な待遇格差の禁止(いわゆる「同一労働同一賃金の原則」)を定めた働き方改革関連法は、同年6月に成立した。
同一労働同一賃金に関する部分は20年4月(中小企業は21年4月)に施行された。現在、施行5年後の見直しが検討されている。

改革の目的は、日本的雇用システムがもたらした弊害の解消にあった。正社員を中心とした日本の雇用慣行は、正社員の過重労働と非正社員の低処遇・不安定雇用を深刻化させた。
1990年代後半以降のグローバル競争は、低賃金で雇用調整が容易な非正社員を増加させ、日本全体の実質賃金の停滞や労働生産性の相対的低下につながった。また人口減少・人手不足のなか、多様で魅力的な働き方を広げ人々の能力をフル活用することも重要な課題となっている。改革には社会的不公正の是正とともに、日本の労働生産性や成長力の回復という経済政策としての側面もあった。

働き方改革関連法による同一労働同一賃金の改革によって、実務には一定の変化がみられた。短時間・有期労働者については、通勤手当、法定外休暇、慶弔休暇、賞与等の諸手当・福利厚生の面で待遇改善が進んだ(労働政策研究・研修機構「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査〈企業調査〉」2023年)。
基本給も格差は縮小傾向にある。非正社員の所定内給与額平均は、正社員比で19年の64.7%から22年には67.5%に上昇した。ただ23年以降は正社員給与の増加幅が大きく、24年は66.9%と低下した(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。
もっとも住宅手当、家族手当、退職金など改善が不十分なものもあり、基本給格差もなお小さくない。
派遣労働者については、かつて低待遇であった事務系派遣、製造業派遣も含め賃金は上昇傾向にある。一般労働者と比較しても高水準で推移している(厚労省「労働者派遣事業報告〈年度報告〉」等)。
以上のように待遇改善は一定程度進んでいるが、それが改革の効果なのか、人手不足や最低賃金引き上げの効果なのか明らかでない部分もある。また改革の趣旨に対する理解が十分に及んでいない点もあり、改革はなお道半ばといえる・・・

・・・正規・非正規の壁をなくし、潜在的な労働力も含めた働き手全体の活躍を促していくためには、日本的な正社員制度そのものを見直すことも重要である。
人口減少とデジタル化が進むなかで、日本企業でも正社員制度を、多様で本人の主体性を重視するものに変えていこうとする動きが広がっている。生活関連手当を縮小・廃止して職務価値や生産性を重視する基本給制度への移行、同意のない転勤制度を縮小・廃止して職種や勤務地を本人が希望・選択できる制度への移行、企業主導の人材育成から本人の意思に基づく自律的キャリア形成への移行、週休3日やフルフレックス制といった柔軟な働き方を実現する動きなどである。
この動きは、拘束度や負担の重さの違いといった、旧来の「正規・非正規の壁」の前提を消失させていくものといえる。正社員と非正社員の区別を相対化し、多様な人びとを包摂できる公正な人事制度や人材活用制度を作り上げていくことが、改革の目的達成に向けた最も有効な道である・・・

働き方改革、生産性重視に一定の成果

2026年1月7日   岡本全勝

2025年12月1日の日経新聞経済教室、小野浩・一橋大学教授の「点検・働き方改革」「生産性重視に一定の成果」から。

・・・働き方改革は、2016年に発足した政府の「働き方改革実現会議」の議論を契機に動き始めた。19年には残業時間の上限などを定めた働き方改革関連法が施行され、本格始動した。改革の成否を数値で評価するのは時期尚早かもしれないが、働き方に対する人々の意識を変えるきっかけをつくったことは確かである。
働き方は量から質へと確実にシフトしており、そのモメンタム(勢い)が醸成されてきた。ここでは働き方改革で日本人の働き方がどう変わったのか点検したい。働き方改革は長時間労働の是正、柔軟で働きやすい環境の整備、非正規雇用の処遇改善という3本柱から構成されるが、主に最初の2点について論じる・・・

・・・日本で長い間主流であった「昭和型の働き方」は労働人口が増え続け、労働力を常に確保できることを前提とし、成果が出ない場合は労働時間で賄うインプット重視の働き方であった。実際に昭和期には労働者1人あたり年間の総実労働時間が常に2千時間を上回ったが、長時間労働はあまり問題視されなかった。
また安定や組織への忠誠が重視され、個人の幸福度は軽視された。男性中心の働き方でワークライフバランスは考慮されず、長時間労働は忠誠心の証しであり、美徳とされた。
しかし平成に入り、生産年齢人口(15〜64歳)が1990年代後半にピークを迎える一方、長時間労働がもたらす生活の質や幸福度の低下、過労死、少子化への影響が問題視されるようになった。
このため政府は働き方改革関連法を通して、それまでは行政指導であった残業時間の上限を法律で明確に規定し、罰則も科すようになった。働き方改革は生産性と幸福度を重視する働き方、つまり量から質へと働き方の軌道修正を図るものだったが、その意図はどこまで実現しただろうか。

図に示すように、日本の総実労働時間は1990年代から減少の一途をたどっている。ただし背景には非正規労働者の拡大もある。労働時間が短い非正規労働者の比率が正規労働者に対して拡大すると、労働者全体の平均値をとった総実労働時間は減少する。
一方、非正規を含まない一般労働者のみの労働時間の推移を見ると(図参照)、2010年代後半までほぼ横ばいであることが分かる。働き方改革関連法が施行された時期に注目すると、18年には年間2010時間だった労働時間が翌19年には1978時間まで急減した。20年前後には新型コロナウイルス禍の影響もあったが、以降は法施行前よりも減少している。

働き方改革の2つ目の側面である「柔軟で働きやすい環境整備」の一環として有給休暇取得が後押しされ、関連法で有給休暇の年5日取得が義務化された。それまで休暇取得は労働者任せとされていたが、職場の空気を気にして取得できない人もいた。義務化後は企業(雇用)側が取得を促す仕組みが整備された。
図に示すように、長いこと横ばいだった有給休暇取得率が19年以降には急伸している。また長い間10%未満であった男性の育児休暇取得率も近年は急上昇し、24年度には40.5%を記録した。ただし国際比較で見ると、有給休暇日数・有給休暇取得率はいずれも常に下位で、いまだに取りたくても取れない人が多いことを示唆している・・・
・・・とはいえ働き方を巡るデータの大きな変化を目にすれば、働き方改革が長時間労働の是正と柔軟で働きやすい環境の整備に一定の貢献を果たしたと言えるだろう。改革は量から質へ、インプットから生産性重視へ軌道修正するきっかけを作り、よりよい働き方へのモメンタムを生み出した。また、今までは働き方の議論から抜けていた、幸福度の重要性への認識を広めたことも大きく評価できる。

今後の働き方改革では、行政(または企業)が、働く側をどこまで管理すべきかが本質的な論点になっている・・・
・・・働き方の理想の姿とは、労働者が自主的に自分のペースをコントロールして働くことだ。幸福度の高い人は生産性も高い。「フロー体験」といわれるように仕事に没頭し、時間を忘れるほど深く集中し、大きな成果を生み出す人もいる。
例えば残業時間規制やインターバル制度の導入は、労働者の立場を守る一面、もっと働きたい人の意欲をそぐようなことであってはならない。「つながらない権利」が導入されても、職種によっては不都合が発生することも考えられる。勤務時間外に対応するか否かは本人の意思で判断できることが望ましい。
働き方が管理されすぎると、個人の自由が侵害されると思う人も少なくないだろう。重要なのは自発的な働き方を促し、非自発的な働き方を減らすことだ・・・

積極的に休む

2026年1月6日   岡本全勝

2025年11月15日の日経新聞「カラダづくり」は「積極的に休む」でした。

・・・日本人の約8割が日常的に疲労しているとの調査結果がある。疲れを癒やし、心身の健康を保つには、積極的かつ主体的に休むことが欠かせない。活力と生産性の向上を目指し、休む技術を身につけよう。

ワークライフバランスが提唱されて久しい。ところが、多くのビジネスパーソンは今なお上手に休めていない。
パソコンやスマートフォンが普及した現代は、いつでもどこでも仕事ができるため、オンとオフの切り替えが難しい。日本リカバリー協会(神奈川県厚木市)代表理事の片野秀樹さんは「長時間労働は美徳、休むと周りに迷惑をかける、といった日本人特有の意識も休みづらさを助長している」と指摘する。
休養不足は疲労を招き、生産性を下げる。その結果、仕事が終わらず残業になり、さらなる休養不足に陥る。この悪循環は個人の問題にとどまらない。出勤した従業員が心身の不調により本来の生産性を発揮できない状態を指す「プレゼンティーイズム」による企業の経済損失は、近年大きな課題となっている。

精神科医・産業医でVISION PARTNER メンタルクリニック四谷(東京・新宿)院長の尾林誉史さんは「仕事量の多さや人間関係のストレスが、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンといった脳内神経伝達物質の分泌を低下させることがわかっている。これらの不足は脳疲労やメンタル不調を引き起こす」と警告する。
自律神経も疲労によって乱れる。交感神経が常に優位な過緊張状態になり、肩凝りや便秘、不眠といった不調が表れやすい。疲労が蓄積するとホルモンバランスが乱れ、高血圧や糖尿病のリスクが高まるとも言われる。疲労は痛みや発熱と比べ軽視されがちだが、実は病気の前段階であり放置は禁物だ。
疲労の原因となる休養不足をどう解消すべきか。多くの人は休養といえば睡眠ととらえがちだが、片野さんは「より積極的かつ主体的な攻めの休養が必要だ」と訴える。

「疲労の対義語は活力だ。休養の目的を疲労で低下した活力の回復・向上と捉えると、寝るだけの守りの休養では物足りない」。軽い運動や人との交流など、適度な負荷や刺激のあるリフレッシュ法が活力の基になると強調する。
片野さんが定義する休養モデルには休息、運動、栄養、親交、娯楽、造形・想像、転換の7タイプがある。複数を組み合わせることで、休養効果が飛躍的に高まるという・・・

『南緯69度のチーム 南極地域観測隊』

2026年1月4日   岡本全勝

知人に勧められて、原田尚美著『南緯69度のチーム 南極地域観測隊』(2025年、WAVE出版)を読みました。
原田尚美さんは、第66次では女性初の隊長を務めました。これで3度目の南極だそうです。第33次南極地域観測隊(1991年)に女性として2人目の隊員として参加、第60次では副隊長兼夏隊長を務めました。

書店の宣伝には、次のように書かれています。
「本書は、第66次南極地域観測隊において隊長を務めた著者が、日本での訓練・準備期間から、南極での活動の詳細を時系列にそってお伝えしています。
また南極地域観測隊史上、初めての女性隊長として、どのようなことに心を砕いたのか、著者自身の南極の経験とともに伝えます。隊員とのコミュニケーションにおける工夫や配慮、プロジェクトを成功に導くマネジメント、隊員一人ひとりのマインドセットなど、著者の氷の大地で学んだ挑戦と伴走のリーダーシップは、多様性が高まる組織のチームビルディングに悩む読者にもヒントとなる一冊です」

このように、南極観測の概要や基地での暮らしを紹介するのではなく、隊長が114人(うち女性は25人)の隊員をどのようにまとめて、成果を上げるように気を配るか、「管理職の苦労」が書かれています。なので、このホームページでは「仕事の仕方」として取り上げます。
観測担当、基地の運営担当、輸送担当など、さまざまな職場から集まった混成部隊です。しかも、氷点下、吹雪くと外に出ることすらできない過酷な条件、世間から隔絶された場所、休みと言っても遊びに行く場所もなし、いやだと言っても簡単には帰ることができません。各人の心身の健康に気を配り、さまざまな事件事故を乗り切り、集団としての成果を出さなければなりません。会社や役所の管理職がふだん気づかずに行っていることが、ここでは鮮明な形で見えます。

そしてもう一つは、性別固定観念との戦いです。私のような「昭和の男性」は、南極観測隊の隊員も隊長も屈強な若い男性と思い込んでしまいます。あなたは、どうですか。本書は、チームになるためのマインドセット リーダーは男性? ―固定観念はどのようにつくられるのか」から始まります。雪や寒さとの戦いの前に、固定観念との戦いがあるのです。
体験記なので難しくなく、読みやすいです。南極観測隊が、組織としてどのようなものか、関心ある方はお読みください。