カテゴリーアーカイブ:人生の達人

平櫛田中と30年分の材木

2023年8月31日   岡本全勝

買っても読まない本が、増え続けています。生きている間にすべてを読むことは、できそうにありません。「なら、新しい本を買うなよ」との声が聞こえてきそうです。

全く関係ないのですが、彫刻家の平櫛田中さんを思い出しました。かつて、旧居を転用した美術館を見に行ったときに、たくさんの材木が残っていました。
「田中は百歳を超えても、30年かかっても使いきれないほどの材木を所有していた。これはいつでも制作に取り掛かれるようにと、金銭に余裕がある時に買いためていた材木がいつの間にかそれだけの分量になっていたためである」(ウィキペディア)とのことです。

そのひそみにならえば、「100歳まで生きて、まだ読むことができない本が残っていた」「まだまだ勉強する意欲を持っていた」とは、なりませんでしょうか。残された家族が、処分に苦労するだけでしょうか。

有森裕子さん「自分をほめたい」

2023年8月28日   岡本全勝

8月23日の朝日新聞「“I”をください」「有森裕子さんに聞く 重圧かけた末の「自分をほめたい」」から。この言葉は、私も使わせてもらっています。でも、「自分で自分をほめてあげたい」ではなかったのですね。しかも、しょっちゅう使っています。

「自分で自分をほめたい」。1996年のアトランタ五輪女子マラソンで銅メダルを獲得した有森裕子さんの言葉。「自分」を大切にすることを推奨する最近の世の中にあふれる言説の先駆けともいえそうだ。言葉に込めた意味、自己肯定感に時に振り回される風潮について、現在は日本陸上連盟副会長などを務める有森さんに聞いた。

「自分で自分をほめたい」は、インタビュー中に自分に言って自分で納得するための言葉でした。誰かに何かを伝えようとしたものではないですが、皆さんの視点を少しでも変える言葉であったならよかったです。
バルセロナ五輪(92年)で銀メダルを取ったものの、その後の環境がなかなか自分の思い描いたようにならず、身体的にも精神的にも傷を負いました。このモヤモヤを抱えては生きていけない、でもSNSもない当時はアスリートが何かを主張するにはメダリストに返り咲くしかない。そうやって自分で自分に重圧をかけた末で、同じメダルでもバルセロナとアトランタでは意味合いが全然違ったんです。

ただ勘違いされている方が多いですが、私は「自分で自分をほめてあげたい」とは言っていません。自分に対して何かを「してあげる」なんて言い方、しないです。誤解が広まったのも、たぶん「自分をほめたい」は日本人の感覚の言葉じゃないんでしょうね。仏教圏の慈悲文化と、キリスト教圏の奉仕文化の違いがありそうです。
あの言葉の元になったのは私が高校生の時に聞いたフォークシンガーの高石ともやさんの「自分のことを分かっているのは自分自身だから、他人にほめてもらうんじゃなくて、まず自分で自分をほめることが大事だよ」という言葉です。高石さんが米国でボランティア活動中に、現地の年配女性から聞いた言葉だそうです。日本だと「ほめたい」はずうずうしく、他人に施す「あげたい」が自然なのでしょう。
でも多くの人が本心では自分を認めたいと思っているから、私の言葉は新鮮に受け止めてもらえたのだと思います。自分へのご褒美的な意味に転じて「ほめてあげたい」で広まったのかもしれません。

アトランタ以降に「自分で自分をほめたい」と思ったことはありません。あんな出来事は一生に1回。こんな言葉をしょっちゅう使っていたら、単なるなまけものになっちゃいます。日常にゴールはなく、強烈な刺激もありませんから。
そこまで思うことはなくても、今の仕事の中で一生懸命に頑張る人を応援している時に充実感があります。自己肯定感と言われますが、私は根本は自分の存在意義だと思います。人間が一番必要とするものです。

良い失敗を褒めよ

2023年8月27日   岡本全勝

8月16日の日経新聞「教育岩盤、突破口を開く」、畑村洋太郎・東大名誉教授の「「良い失敗」した人をほめよ」から。

日本の教育は物事に必ず一つの正解があると考え、それを効率的に得ることを重視する「正解主義」に染まってきた。失敗を創造につなげる「失敗学」の提唱者として知られる畑村洋太郎・東京大名誉教授は、社会全体が「失敗」と「正解」に関する考え方を変えるべきだと主張する。

――失敗には「良い失敗」と「悪い失敗」があるそうですね。違いは。
「悪い失敗は手抜きや不注意に基づく失敗で、これは経験する必要がない。良い失敗は人の成長に必要な失敗だ」
「新しい価値の創造には仮説を立て、検証することの繰り返しが必要で、それは良い失敗と表裏一体だ」

――日本はこの30年間、成長率が低迷しイノベーションが停滞しています。根底には良い失敗の欠如がありそうです。教育とも深く関係しますね。
「そうだ。習うとはまねをすることだ。日本は古代から一千年以上、中国や西欧の立派なものを学び取り、自分のものにするのが最善という考えでやってきた。正解を吸収することが学びで、それを効率的にできる人が賢いと考える『優等生文化』が成立した」

――入試がそうです。
「高度経済成長期はそれで一見うまくいった。コピーの量産が教育の基本理念になってしまった。本当は自分なりに考えて『我を出していくこと』が一番大事なのに。自分の考えを外に主張し、やりとりをする中で考えをより豊かにするディベートのような経験をしてこなかった」
「日本の教育は子どもに創造性を育む視点が欠けたままだ。創造性を刺激された経験のない人が教壇に立っている」
「西欧の先達は大変な努力をして犠牲を払い、失敗を積み重ねてそれだけのものをつくってきた。効率主義だとそれをまねすればよいとなる。考えてみると傲慢な姿勢ではないか。学べば自分のものにできるという明治維新以来の勘違いに気づかずにきたツケが、いま回って来ている」

8月20日の日経新聞、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長の「失敗で磨け、無二の価値 世界に挑み続ける柳井氏の信念」も参考になります。

テレワーク実施率16%

2023年8月23日   岡本全勝

8月8日の朝日新聞に「大企業、テレワーク22% 半年前から11ポイント急減」が載っていました。

・・・日本生産性本部が7日発表した調査で、働く人のテレワークの実施率が15・5%と新型コロナ禍以降で最低になった。半年前の前回調査の16・8%から低下し、最も高かった初回調査(2020年5月)の31・5%と比べると半分以下の水準になった。特に大企業の低下が目立ち、前回調査から10ポイント以上急減した。
調査は今回が13回目。国内で企業などに雇用されている20歳以上の1100人を対象に、7月10~11日にインターネットで行った。

どんな働き方をしているかを複数回答で尋ねた項目で、自宅やカフェなどでのテレワークを活用していると答えた人は従業員1001人以上の大企業で22・7%。101~1千人の企業では15・5%、それ以下の企業では12・8%となった。
大企業の数字は半年前の前回調査(34%)から11・3ポイント急減し、全体の実施率を押し下げた。日本生産性本部によると、政府が今年5月に新型コロナの感染症法上の位置づけを「5類」に移行したことを受け、コロナへの一時的な対応としてテレワークを採り入れていた企業で出社を求める動きが活発になっているという・・・

学び直し

2023年8月14日   岡本全勝

8月2日の日経新聞オピニオン欄、半沢二喜・論説委員の「キャリア自律というけれど」から。

・・・「今まで企業に任せてきたが何も変わらなかった。同じ会社に雇用されるのをよしとする慣習を変えるために、これからは本人が自由に学んで職を選べるよう個人を起点にした支援に変えるということだ」。政府が打ち出した三位一体の労働市場改革について、ある国会議員は解説する。

三位一体の改革とはリスキリング(学び直し)支援とジョブ型人事制度の普及、成長分野への労働移動だ。このうちリスキリング支援については、企業経由が75%だったのを個人への直接給付が過半になるよう方針転換する。在職者の受講を増やし、転職市場の活性化につなげる狙いだ。
改革の指針では、キャリアは会社に与えられるものから個人が自らの意思で築くものへ変えていく必要がある、とうたっている。大手企業が社員に促している「キャリア自律」を、政府も声高に呼びかけ始めたわけだ。
世界では働き手が自分の将来を主体的に考え行動するのが当たり前であり、日本もならうべきだ。問題は終身雇用の下で人事部主導の異動と研修に慣れてきた個人の意識が変われるかだろう。

リクルートが今年1〜2月に実施した1万人の調査によると、自分のキャリアに満足していない人が36.1%いた。一方でキャリア自律ができていると思う人は18.3%にとどまり、できていない人は41.8%に上る。課題としては「何をしたらいいか分からない」「自分の強みや市場価値が分からない」「行動に移せない」という回答がそれぞれ約3割で上位に並んだ。
「政府・企業と個人の温度差は大きい。いきなり自転車の補助輪を外してこいでいけと言われるようなものだ」。同社の藤井薫HR統括編集長は支援の必要性を指摘する・・・