カテゴリーアーカイブ:人生の達人

時間の管理と仕事の管理

2026年1月28日   岡本全勝

時間の管理と仕事の管理は別物だと、『明るい公務員講座』(53ページ)でお教えしました。手帳に書かれているのは時間の予定であって、仕事を進める予定ではないということです。
手帳に、「○月×日15:00~17:00、講演」と書いてあっても、仕事としては、事前に主催者に当日使う資料を送る必要があり、その前に話す内容を考えて資料をつくる必要があります。私は、時間の管理は手帳で、仕事の管理はそれとは別にパソコンに書いて紙に打ち出しています。それぞれ紙でないと、落ち着かないのです。また、書いて眺めることで、頭に入れています。

常勤職を退いてから、ますますその意識が強まりました。
かつて、企業経営者から「公務員も社員も、時間で労働を売っているようなものだ」と言われたことがあります。決められた時間を勤務し、与えられた仕事をこなせば、給与がもらえます。勤務時間を職場で過ごし、さしたる成果も出さずに、給与をもらっている人もいます。「サラリーマンは、気楽な稼業ときたもんだ」とは、植木等さんのヒット曲でした。1962年のことなので、大昔の話です。

しかし、経営者は勤務時間にかかわらず、成果を出さないと、失格です。しかも、競争の激しい市場で生き抜くためには、止まっていることは許されません。雇用主と被傭者との違いです。個人営業の人も、同じです。決められた勤務時間はなく、どのような成果を出すかが問われます。

勤め人だったときは、出勤しているだけで、仕事をしているような気になったものです。何もせずにブラブラしているわけではありませんが、それなりに仕事に追われ、仕事をした気になりました。
ところが自由業になると、出勤して仕事をしている気分になることがありません。他方で、講演会の準備や締め切りの来る原稿があり、これは費やした時間とは関係なく、成果が問われます。
「午前中何時間、午後何時間、それに費やす」と手帳に書いても、執筆が進まないと何の成果も出ません。時間の管理が、仕事の管理にならないのです。

居は気を移す

2026年1月25日   岡本全勝

市町村職員中央研修所学長を退いてから、主な執務場所が自宅の書斎になりました。
以前も、書斎でも執筆をしていたのですが。難しい書類などは、勤務先で読んでいました。なぜか、その方が集中できたのです。「酸素が多いから」(空間が広いから)と説明していましたが、職場は仕事をするところという観念が、気持ちをそのように向けるのだと思います。
居間には広い机があるのですが、ここでは執筆や読書には身が入りません。食事をしたりテレビを見る場所と、体が覚えているのでしょう。朝食の後、キョーコさんに紅茶やコーヒーを淹れてもらって、数メートル先の書斎に「出勤」しています。やる気を出すためです。

「居は気を移す」という言葉があります。住む場所や周りの環境によって、心の持ちようや考え方が変わってくるという意味とのことですが、私流に言えば、「場所によって気分が変わる」ですね。
しかし、職場のようにはいきません。自宅は誘惑が多いことです。職場のように「仕事以外のことはしてはいけない」という拘束がありません。パソコンでも、職場なら仕事以外のページを見ることはできないし、見るには気が引けますが、自宅書斎なら気になりません。読書に集中するなら、パソコンの画面を落としておくこともできますが、パソコンで文章書いているときは、誘惑の海に囲まれています。そして、数歩歩くと居間に行けます。読みたい本も、たくさんあります。
もう一つは、通勤は生活にリズムを生むことです。外出や移動をせず家にいると、のんべんだらりとなってしまいます。メリハリがつかないのです。

「居は気を移す」は、肝冷斎によると、もっと広く深い意味があるようです。「大哉居乎(孟子)

「働かぬ万年課長」を見限る中堅

2026年1月25日   岡本全勝

2025年11月28日の日経新聞「惑う30代 成長の盲点(下)」「「働かぬ万年課長」を見限る中堅、JTCに別れ 昭和型雇用が阻む成長」から。

・・・「やっぱこの会社、ダメだわ」。2024年12月、大手電機メーカーの主任だったエンジニアの男性(34)は11年働いた会社を辞めた。
誰もが知る大企業。だが年功序列の企業風土が染みつき、出世も昇給も入社順だった。懸命に残業をこなし、成果を上げる自分より「働かない万年課長」のほうが給料が高い。成長機会を求めて会社を去る優秀な同僚を何人も見送ってきた。
決定打は上司の一言だった。会社が抜てき人事を可能にする制度を導入した矢先、「俺はそういう人事はやらない」と飲み会の席で言い放った。「失敗さえしなければいい上司と、残業しない後輩。そのはざまで頑張ってきたのに、もう限界」
転職活動は2週間で終わった。経験が評価され、転職先のIT企業が提示した年収は前職より300万円多い1100万円超だった。「中堅社員は追い詰められて転職していくのに、会社は気づこうとしない」と訴える。

IT転職支援のレバテックによると、30代の転職希望者は25年までの5年間で1.75倍に増えた。要因の一つが硬直的な人事制度だ。同社の調査で30代の転職理由の上位は「収入アップが見込めない」「スキルアップが見込めない」「残業時間が多い」だった。
年功序列や終身雇用に代表される日本型雇用を続ける企業をJTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)と呼ぶ。多様な働き方や貢献に即した報酬が求められる時代の変化に多くの企業が対応できていない・・・
番外編

たわいのない会話の重要性

2026年1月24日   岡本全勝

「たわいのない会話」とは、つまらない話とか雑談です。その話の内容はつまらないので、なくても良い話です。しかし、職場では、重要な機能を持っています。
もちろん、職場は、仕事をして報酬を得るために行くところです。嫌な仕事でも、生活のためには行かざるを得ません。他方で、仕事は自己実現の場でもあります。やりがいを与えてくれます。機能を考えれば、職業は報酬とやりがいを得る場です。しかし、人間はそのような目的だけでは生きていません。

一人で誰とも会話せずに仕事をし、一日を送る。できないことはないでしょうが、しんどいでしょうね。新型コロナウイルス感染拡大の時を思い出してください。学校も同じです。勉強をするために(と給食を食べに)行くところですが、一番の楽しみは友人との会話だったでしょう。
人は社会的動物です。他者と交わって、生きています。その場合でも、面識のない人との対話(初めてのお店)と、知っている人との対話があります。前者は程度の差はあれ緊張します。後者の場合も、仕事の案件で緊張する場合もありますが、「たわいのない会話」は緊張をほぐします。「ねえねえ聞いてよ」と言いたいときがあります。話すと、相手は「な~んだ、しょうむな」と笑いますが、それで心がほぐれるのです。「そんな無駄口をきくな」というような職場だと、落ち着いて仕事できません。

「おはようございます」は、内容としては意味のない発言ですが、これが相手との関係確認になり、その場の人たちの「輪」に入る入場券です。職場では、上司や同僚と一緒に仕事をしています。挨拶と会話は、人間関係を確認する重要な行為です(かつては、男性は喫煙場所で、女性は洗い場で、盛り上がっていました)。そこから、仕事の相談を切り出すこともできやすいです。難しく言うと「心理的安全性」ですが、私たちの言葉では「風通しのよい職場」です。
もっとも、無駄口ばかり叩いて仕事をしないとか、周りの迷惑になったりしたらダメですよ。
職場は仕事だけの場ではない」「面談が社員の安心感を高める

数字は未来を語ってくれない

2026年1月24日   岡本全勝

日経新聞夕刊コラム「こころの玉手箱」、1月19日の宮原博昭・学研ホールディングス社長の「戦闘機のジャイロ」から。

・・・学研ホールディングス(HD)の社長に就任した際、防衛大学校の同級生だった親友の渡辺誠が祝いの品としてフランス軍戦闘機のジャイロを贈ってくれた。防衛大では、航空自衛隊のパイロットを志していた。社長として学研HDの操縦席に座ったばかりの自分にとって、ぴったりの贈り物だった。
ジャイロは戦闘機で最も大事な部品だ。機体の傾きを教えてくれる計器で、操縦席に備え付けてある。上空まで飛ぶと、目の前にある雲は斜めに見えるため、上下左右の方向が分からなくなることもある。
特に夜間や悪天候など視界が悪い時は、ジャイロが示す数字だけが頼りだ・・・

・・・学研HDの操縦席に座ったものの、視界の先は一筋の光もない真っ暗闇のような気持ちだった。社長に就いた2010年当時、学研HDは出版不況と少子化の打撃を受け、売り上げが20年間で半分ほどに減っていた。経営者として、1万人の社員とその家族を路頭に迷わせないことがいつも頭から離れなかった。
だが経営危機を乗り越える光が見当たらず、会社はもがいていた。ジャイロの数字だけを信じて戦闘機を操縦した経験は企業経営に大きく生きた。
客観的な数字に基づいて判断することは、戦闘機の操縦でも経営でも不可欠だ。決算資料の数字を何度も読み返し、経営再建という飛行プランを立てた。

数字は足元の状況を正確に教えてくれるが、未来は語ってくれない。だから現場の声やライバル会社の経営状況、社会情勢という外部の景色を見ることを忘れないようにしている。
少子高齢化という外部環境を分析してたどり着いた飛行プランは、当時の主力事業だった学習塾や出版と全く異なる介護事業の拡大だった。
社長就任後の3年間はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の新設に集中し、M&A(合併・買収)や学習塾の校舎新設をストップした。
暗闇の中でつかんだ介護という光は、今や売上高の約半分を占めるまでに成長した・・・