カテゴリーアーカイブ:人生の達人

中年期の心の危機

2025年1月15日   岡本全勝

12月21日の朝日新聞夕刊、清水研・腫瘍精神科医の「中年期の心の危機、どう向き合う」から。詳しくは原文をお読みください。

・・・中年期に陥る心理的危機「ミドルエイジ・クライシス」。人生の後半に差しかかるこの時期は肉体的な変化だけでなく、不安や葛藤など心の不調に見舞われることもある。腫瘍精神科医として約4千人のがん患者と対話してきた清水研さん(53)も、40歳を前にクライシスを経験した。清水さんにその向き合い方を聞いた。

なぜ中年期に心理的危機が訪れるのだろうか。ユング心理学では、中年期は人生の正午にあたる。成長を感じられる青年期の午前から、老いや死に向かう午後に向かうときに危機を迎え、その後に価値観が大きく変わるという。
「青年期は体力や気力が充実して成長や発展を実感でき、がんばれば成功して幸せになれると信じている。しかし、中年期に入ると、体力が衰えてきてがんばれない。組織や社会での立ち位置、限界も見え、努力の先に輝かしい未来があるとは限らない現実も知る。がんばれなくなった自分自身への信頼も失う。今までのやり方に行き詰まりを感じるのです」

私たちは普段は意識しないが、心の中に「want(~したい)」と「must(~しなければならない)」の「相反する自分」が存在するという。
wantは「泣きたい」「おなかがすいた」といった感情や感性が優位な自分。mustは親のしつけや学校教育、社会規範などから形作られた「人に迷惑をかけてはいけない」「結婚しなければいけない」といった理性や論理が優位な自分。大事なのはそのバランスだ。
mustが強すぎると、自己肯定感の低さや承認欲求の強さにもつながる。「強いmustに縛られてきた人が、それに従うエネルギーを失い、心が悲鳴を上げたとき、中年の危機が起こります。今までの生き方が苦しくなり、手放す必要に迫られるのです」・・・

ご自身の体験、絶望も書かれています。
・・・「父から認められ、自分を承認したい」。そんな思いから精神科医になり、仕事を最優先に生きていた。だが、自分に自信を持てず、他人の評価が気になり、生きづらさを抱えていたという。そして40歳を前に限界を迎えた。
清水さんは危機にどう向き合ったか。まず自分の中のwantの声に耳を傾けることから始めた。
「小さなことからでいいんです。コンビニで昼食を選ぶときに『短い時間でさっと食べられるものを』や『カロリーが高いものは避ける』で選ぶのではなく、『自分は今、何を食べたいか』に集中した。手に取ったカツ丼を食べて喜んでいる自分を発見しました」
あるときは自分の中のmustに抵抗した。気の進まない仕事の会合を断り、見たかった絵本作家ターシャ・テューダーのドキュメンタリー映画を見に行った。素晴らしい映画だった。その充実感は夜寝るまで続いたという。
清水さんはまず、心の中に同居するmustの声とwantの声を切り分けることを勧める。葛藤がなぜ起こるのかがわかり、気持ちを整理できるからだ。
次に、なぜmustが形成されたのかを人生の歩みやできごとから振り返る。mustの正体がわかると「過去とは状況が異なるから、現在はmustに縛られなくていい」と感じられるからだ。
この二つを経ても、must思考が強い人が、その考え方を手放すのは容易ではないこともある。清水さんもそうだった・・・

・・・腫瘍精神科医として小児科病棟の子どもたちに接する中で、子どものころの自分を思い出す機会があった。精いっぱい居場所を求め、もがいていた当時の自分を慈しむ気持ちがわき起こった。
「自分を許し、愛する」。この三つ目のステップを踏むことでmustから解放され、危機を脱することができた。45歳のころだ。
「カウンセリングを受けるのでも、人に話を聞いてもらうのでも、本を読むのでもいい。自分はダメだと思うのではなく、『厳しい状況や窮屈な生き方でも、よくここまでやってきた』と自分を認め、信じることから始めてみて」・・・

職場内訓練が少ない日本

2025年1月10日   岡本全勝

12月25日の日経新聞「2025年を読む 変革の行方2」は「賃上げ定着へ生産性向上 人材教育投資こそ成長のバネ」でした。

・・・高い賃上げを定着させるには、裏付けとなる生産性向上に企業が正面から向き合う必要がある。

サントリーホールディングスは9月下旬、2025年春に7%の賃上げを目指すと表明した。過去2年と同水準だが、内情は異なる。一つは海外消費が弱くなっている点。もう一つは賃上げ持続への施策を労働組合と対話し始めたことだ。
ベースアップ(ベア)が毎年積み上がる負担に不安を漏らす経営幹部もいる。だが新浪剛史社長は人材獲得と消費喚起へ賃上げが不可欠だと説く。活路とするのは社員が生み出す付加価値の最大化だ。「賃上げと人材育成の両輪を回して生産性向上を目指す」と河本光広執行役員は話す。

「完全なゲームチェンジ。今後は人件費など様々なコストの上昇を前提にした経営が不可欠だ」。食品スーパー大手、ライフコーポレーションの岩崎高治社長は話す。
同社のパート・アルバイトは約4万4千人。24年春に6.6%賃上げしたが、競合他社との人材の取り合いで足元の時給はさらに上昇。20年代に最低賃金1500円という政府目標も「全国では無理でも東京都ではありうる」と身構える。
粗利率の改善や省力化投資を進めるが、カギとなるのはパートの生産性向上だ。本社の指導員の人数を2年で100人増の450人とし、複数の業務ができる多能化を目指す。非正規社員への教育投資は少ないのが一般的だが、「待遇改善と能力開発を一体で進める」と岩崎社長は言う・・・

記事には次のような記述があり、各国(中国、アメリカ、イギリス、スウェーデン、ドイツ、フランス)の職場内訓練を受けた人の割合が図になって載っています。
・・・日本の賃金は上昇し始めたが、人材教育投資は心もとない。リクルートワークス研究所の調査では、23年に職場内訓練(OJT)を受けた人は日本は39.8%。ドイツの半分強の水準で7カ国で最低だ。人を資本と捉え、その価値を最大限に引き出す「人的資本経営」をいくら唱えても、着実に投資しなければ付加価値は増えない・・・

職員同士の相談、雑談

2025年1月6日   岡本全勝

職場で、事務室に行くと(学長は個室)、職員が別の職員の横に座って、あるいは立って、話しをしている場面を見ることがあります。この様子を見ると、安心します。
職員の悩みは、抱えている仕事をどのように進めたら良いかわからないことと、人間関係です。『明るい公務員講座』で、「一人で悩むな」と力説しました。
職員が他の職員に相談していることは、たぶん仕事の進め方でしょう。すると、彼女・彼は、一人で悩むことなく相談相手を見つけたということです。
あるいは、相談ではなく、ちょっとした雑談かもしれません。

それは、職場の風通しがよいということです。最近の言葉では、心理的安全性と言うそうですが。ちょっとしたことを言える職場が、職員を孤立から守ります。
「わからないことがあれば質問してください」は正しいのですが、それを切り出すのに「敷居が高い」ことがあるのです。

日本の職場は基本的に大部屋で、職員は係ごとに仕事をします。机は係ごとに島になっています。外国では一人ひとりに仕事が与えられ、個室やブースで仕事をします。最近では、在宅勤務も進んでいます。
しかし、大部屋で他の職員と一緒に仕事をする利点は、もっと評価されるべきです。
参考「社会人1年生が好きな時間の第一位が、同僚や上司との雑談

災害救援の難しさ

2025年1月4日   岡本全勝

12月26日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」は、栗田暢之・レスキューストックヤード代表理事の「理念との整合、常に振り返り」でした。

・・・阪神大震災が起きた1995年は全国から130万人が支援に集まり「ボランティア元年」と呼ばれた。名古屋市を拠点とするNPO法人「レスキューストックヤード(RSY)」代表理事、栗田暢之氏は30年にわたって被災者支援を続けてきた。組織のリーダーとして「一人ひとりと向き合う」という活動の理念をぶれずに貫くことを大事にする・・・

――災害救援を担うNPOのトップとしてどんなリーダーシップを大事にしていますか。
「リーダーと言えば周囲を引っ張るタイプと思われるかもしれません。私にも『自分がやってやるぞ』という面はあります。でも、一人ができることには限界があるじゃないですか。スタッフをどれだけ信じられるかがリーダーにとって大事だと思います」
「私たちは営利を目的とするわけではなく、災害からの復興を助け、避難生活に伴う災害関連死を無くし、人の命と暮らしを守ることを実現していく団体です。仕事を数値で評価するのは難しく、正解がありません。どんな手法で活動を進めていくか、スタッフそれぞれが考えることが重要で、『リーダーについてこい』という発想はありません」

――活動を進めていくうえで、リーダーの役割をどう捉えていますか。
「ぶれない理念を示すこと。それが役割だと思っています。何のために自分たちがNPOとして活動しているのか。目指すべき大きなビジョン、果たすべきミッションを示します。それに整合した活動になっているかどうかは常に見極めます」
「スタッフが担当する事業はうまく進むときも進まないときもありますが、信頼して任せることが必要です。細かいところまで全てトップに言われたら、煩わしいですよね」

――大事にしているミッションとはどんなものでしょうか。
「一人ひとりと向き合うことです。例えば東日本大震災で故郷から遠方に避難している家族にアンケートを取っても、世帯ごとの回答しか得られません。実際は父親は故郷に帰りたい、母親は帰りたくないというケースがあります。当時は幼かった子どもたちも年とともに自分の意思を持ちます。生の声に耳を傾け、大事にするというミッションは阪神大震災の頃からずっと譲れません」

――被災者支援の難しさをどう感じていますか。
「災害はその規模や地域性によっても状況はさまざまです。足りない物資を届けることは分かりやすいですが、『何から手をつければいいのか分からない』『何だか気が晴れない』といった人の心の部分を扱うわけですから、支援を求めるニーズすらはっきりしない『グレー』な状況と向き合うことになります。個々の状況にたどり着かなければ上辺だけの支援になってしまいます。だからこそ一人ひとりの声を聞きます」
「災害救援のプロフェッショナルと言ってもらうこともありますが、自分たち自身は毎回必死にやっているだけです。被災者の支援、災害からの復興は本当に難しく、『私たちはプロです』などと言うのは慢心です」

リーダーは桃太郎であれ2

2024年12月25日   岡本全勝

リーダーは桃太郎であれ」の続きです。

ある会社の人事担当者と話していたら、この記事に疑問を述べていました。
「私たちの悩みは、そこではないのですよね。よく働く犬、猿、キジならよいのですが、能力に欠け意欲のない社員をどう処遇するか。それが悩みなのです」と。

納得。
こたつで丸くなる猫は、桃太郎には出てきません。

追記
この記事を読んだ読者から、早速反応がありました。「ワンワン吠えるだけの犬、畑を荒らす猿など、役に立たないのもいます。猫にしても他の動物にしても、それぞれ生存のために頑張っているので、この例えは不適切です」と。
そうですね、犬にも、役に立つ犬とそうでない犬がいます。人間が勝手に、人間の性格などを動物に「投影」しているだけです。動物にとっては、迷惑でしょうね。