カテゴリーアーカイブ:人生の達人

管理職になりたくない

2025年2月11日   岡本全勝

1月11日の読売新聞「管理職はつらいよ」「職場まとめる力 重要に」から。
・・・かつては多くのサラリーマンが目指した管理職が、憧れの地位ではなくなってきているのかもしれない。「なりたくない」という人が増えているのだ。組織の中核を担う重要なポストはなぜ、避けられてしまうのだろうか。

その歴史は古い。紀元前の古代エジプト時代、ピラミッドの建設現場に労働者を差配する「管理職」がいたことが、発掘物から明らかになっている。
現在の企業では、どんな役職が管理職にあたるのか。通常は部長や課長を指す。働く時間や休日を自分の裁量で決められる一方、どれだけ働いても残業代は支払われないケースが多い。任された部署で陣頭指揮を執り、部下をまとめて成果につなげる。組織の目標達成に、なくてはならない存在だ。

「じゃあおまえは何故サラリーマンを選んだんだ」
1983年に連載が始まった漫画「課長 島耕作」(著・弘兼憲史、講談社)で、出世争いから距離を置こうとする大手家電メーカー課長の主人公に対し、同僚がこう問いかける。
会社員は出世を望むべきで、その登竜門が管理職。高度経済成長やバブル景気に沸いた昭和時代は、そんな風潮が根強かった。「出世のためなら苦労も我慢」と考える会社員が半数超に上ったという調査結果もある。

近年は価値観が一変しつつある。パーソル総合研究所が2022年に行った調査では、18か国・地域で管理職になりたい会社員は、日本が全体平均(58.6%)を大きく下回る19.8%で、最下位だった。
理由の一つに業務負担の増加がある。少子高齢化により、生産年齢人口(15~64歳)は、この30年で1000万人以上も減り、人手不足が深刻化した。長時間労働を是正する「働き方改革」も進み、部下の業務を管理職が肩代わりするケースが相次ぐ。産業能率大学の23年の調査では、「プレーヤー」を兼ねる課長は94.9%に上った。
共働きの浸透で、育児や親の介護といった事情を抱える部下は多く、細やかな管理が必要となった。部下の指導や育成と、ハラスメントとの線引きに悩む人も少なくない。
厚生労働省の統計によると、01年に1.8倍だった課長級と一般社員の賃金格差は、23年に1.6倍まで縮まり、報酬面での魅力も薄れている。
パーソル総合研究所の小林祐児・上席主任研究員(41)は「管理職として働くことが、『罰ゲーム』のような状況になってしまっている」と指摘する・・・

・・・管理職の働き方に詳しい法政大の坂爪洋美教授は「価値観の多様化が進む現代ほど、職場を一つにまとめ上げる管理職の力が求められている時代はない。仕事に誇りが持てるよう、待遇改善や支援が重要だ」と語る。
日本経済の未来は、管理職が生き生きと働けるかどうかにかかっているのかもしれない・・・

企業が試行する「つながらない権利」

2025年2月9日   岡本全勝

1月13日の朝日新聞「「つながらない権利」確保、企業手探り 休日の業務電話は自動転送 22時以降・土日はメールNG」から。

・・・いつどこでも業務対応できる時代となる中、勤務時間外は電話やメールなどに反応しない「つながらない権利」が注目されています。権利確保に向けて取り組む企業が増え始めていますが、運用には難しさもあるようです。

空調設備会社オーテック(東京)の男性社員(25)は、月に数回ある平日休みの「勤務」に頭を悩ませていた。
多いときで1日3件、業務の電話が鳴った。取引先から「空調の故障で警報が出ている」と電話があれば、休みでも取引先に出向いて作業した。映画を見ていても、電話が鳴ると対応せざるを得ず、鑑賞を途中で断念したこともあった。
「休みを取っていてもいつ対応が必要になるか分からずビクビクして、休んだ気になれないこともあった」と、男性は振り返る。
この状況が、2023年11月から変わった。
男性が所属する名古屋市の中部支店技術部で、平日に休みを取っている社員に顧客から電話があった場合、支店に自動転送する取り組みを始めたことだ。対応するのは出勤している他の社員。担当以外でもトラブルに対応できるよう、マニュアルをまとめて職場で共有する体制も整備した・・・

・・・日本ではテレワークの浸透やスマートフォンなど情報機器の普及もあり、つながることが当たり前のようになっている職場は少なくない。
労働組合の中央組織・連合が、23年9月に実施した「つながらない権利に関する調査」では、働き手(雇用者)の72・4%が「勤務時間外に部下や同僚、上司から業務上の連絡がくることがある」と回答した。
勤務時間外の連絡を拒否できるのであれば、そうしたいと思うか、と聞いたところ、「そう思う」は72・6%だった。しかし、「連絡の拒否は難しい」と思う働き手は62・4%で、個人で対応する難しさが示された・・・

・・・一方、運用面の難しさなどから取り組みを緩和させた企業もある。
あずさ監査法人(東京)は17年、主に午後9時~翌朝7時のネット接続を原則禁止した。しかし、20年11月には管理職をその対象から外した。外すにあたっては、月80時間を超える残業をより厳しく管理することを条件にした。
コロナ禍でテレワークが浸透し、柔軟な働き方のため、規制緩和を求める声があがったからだ。
その声は管理職だけでなく、一般職員にも広がる。専門知識・スキル向上のための自己研鑽などを柔軟にできるようにしてほしい、海外とのタイムリーな連絡が必要になる、といった意見が相次いだ。活躍が難しくなると退職した職員もいたという。
今では、一般職員でも緊急業務の対応がある場合は上司の承認の上、規制を緩めたり、最繁忙期に統一方針として緩和したりしているという・・・

社員の懲戒、社内公表

2025年2月7日   岡本全勝

1月13日の日経新聞に「社員の懲戒、社内公表は名誉毀損か 再発防止に悩む企業」が載っていました。詳しくは記事をお読みください。

・・・不正やハラスメントなどで下した懲戒処分について、社内でどの程度周知するか悩む企業が増えている。氏名を明らかにすると名誉毀損の恐れがあるとして見直しを検討する動きがある一方、再発防止のために事例の周知が必要という考え方も根強い。プライバシーや名誉への配慮と社内の規律維持の両立に向け各社が模索する。

「今までは懲戒処分の対象者の氏名を社内公表していたが、このままでいいでしょうか」。労務問題を多く手掛ける友野直子弁護士のもとには近年、そんな相談を持ちかける企業があるという。
友野氏は「企業が公表を望む場合には、内容や方法について慎重に検討するよう」助言するという。同時に「これまでは氏名を公表していた企業も、プライバシー意識の高まりなどで注意を払うようになってきている」とみる。2005年に個人情報保護法が全面施行されたこともあり、慎重な姿勢に転じる企業は多い。
「譴責」や「減給」、「降格」など懲戒処分の内容は様々だが、従業員の氏名を含む社内公表をした場合について益原大亮弁護士は「企業側が、名誉毀損などの不法行為責任を問われるリスクが伴う」と指摘する。懲戒処分を巡っては、その処分自体が妥当かどうか従業員側と企業の間で労務トラブルに発展するケースが絶えない。
処分自体に慎重な対応が必要になるだけに「本人を特定するような社内公表も加わると、(本人の感情ももつれて)紛争に発展する可能性が高まりかねない」(益原氏)ためだ。

ただ、氏名も含めた懲戒処分の社内公表が慣例になっている企業も少なくない。懲戒処分を巡る氏名の社内公表の是非についての裁判例は事例ごとに判断が分かれ、明確な線引きが定着しているともいえない。
基準として参考になるのが、懲戒解雇やその理由について記した文書を従業員に配布したり社内に掲示したりした行為が名誉毀損に当たると判断した1977年の東京地裁の判決だ。
裁判所は、解雇の公表が違法かどうかの基準として①公表する(企業)側にとって必要やむをえない事情がある②必要最小限の表現を用いる③解雇された従業員の名誉や信用を可能な限り尊重した公表方法を用い事実をありのままに公表する――などを挙げている・・・・

AI時代の「達人の技」

2025年2月4日   岡本全勝

1月13日の日経新聞経済教室、今井むつみ・慶応義塾大学教授の「AI時代に学ぶ「達人の技」」から。

・・・今の生成AIは、インターネット空間のテキスト情報を教科書として学習する。文法的に間違いない文を流ちょうに生成するという点では、人間を上回るようになったかもしれない。
人間は長い文を生成するときに主語が何かを途中で忘れてしまい、主語と目的語が一致しない文を作ったり、単語の選択をうっかり間違えたりしてしまうことが頻繁にある。
しかし、生成AIは大量の情報を並列に超高速で計算できる。記憶力も人間に比べれば無尽蔵と言ってよい。だから、今の生成AIはまず文法の間違いをしない。他言語への翻訳もたちどころにしてくれる・・・

・・・「カンマの女王『ニューヨーカー』校正係のここだけの話」という本を読んだ。米誌ニューヨーカーは米国の知識人が読む雑誌として名高い。洗練された英語に定評があり、文章は何重にもチェックされる。著者のメアリ・ノリス氏は同誌の最終的な文法チェックをする校正者だ。
ニューヨーカー誌には通常の文法の正しさの許容度より厳しい独自ルールがある。校正者はこのルールブックを頭にたたき込んでいて、ほとんどの場合、それを順守して文章を整える。
しかし一流の校正者の本領は、作家が規範を逸脱したときにどうするかの判断にある。ニューヨーカー誌に寄稿するのは並の作家ではない。もちろん一流の作家もうっかりミスをする。ミスなのか意図的な逸脱なのか。一流の作家がルールを逸脱したとき、校正者はその意味を考え抜く。そして逸脱したほうが作家の表現したい意味が伝わると判断すれば逸脱を許容する。
一流の達人があえてする逸脱を人は独創性と受け止め、その人の味と感じる。しかし逸脱が程度を過ぎれば誤りか理解不能と思われてしまう。独創性は、ギリギリの線での規範からの逸脱なのである。分野を問わず、ギリギリの線がどこかを直観的に見極められるのが本当の達人である。

認知科学では一流の達人と、普通の熟達者の行動や心の働きの違いが研究されてきた。普通の熟達者も仕事を早く正確にそつなくこなすことができる。両者を隔てるのは独自の味(スタイル)を確立しているかどうかである。ギリギリの線での逸脱を可能にするのは柔軟で臨機応変な判断力であり、それを支えるのは優れた直観である。
ここで、一流の達人とは「各分野に単一の基準で全員を比較した時にトップの人」ではないことを言っておきたい。一流の達人たちはそれぞれ異なる軸で規範から逸脱し、独創的である。だから、その分野には多様な達人の集積がある。そこに面白みも味も生まれるし、協同してプロジェクトを行う意味も出てくる・・・

改革には抵抗がある

2025年1月25日   岡本全勝

日経新聞私の履歴書、1月は、岡藤正広・伊藤忠商事会長です。22日の「伏魔殿」から。岡藤さんは長く大阪で仕事していて、社長になってから東京本社に来ます。その前の話です。

・・・副社長だった私は、東京の人事制度委員会の委員長に指名された。全社の人事制度を見直そうと議論百出の末に新制度案がようやくまとまったのが金曜のこと。後は週明けに取締役会で提案するだけ。そのまま大阪に帰った。

ところが月曜朝に東京に来てみると、なぜか従来の制度が併記されていた。何日もかけて議論してきたことがどこへやら……。後で分かったことだが「犯人」は先輩にあたる人事担当役員だった。自分が作った制度を「外様」の私に変えられることが恥だとでも思ったのか、両論併記するよう人事部長に命じたという。これにはカッとなった。

「こんなアホなことがあるか。ええ加減にせえ!」
取締役会で真正面に座る当時社長の小林栄三さんにも「やってられませんわ」とかみついた。こんな調子だから「東京のモンは信用でけへん」という思いが強くなった・・・