カテゴリーアーカイブ:人生の達人

『ランスへの帰郷』

2020年6月29日   岡本全勝

ディディエ・エリボン著『ランスへの帰郷』(2020年、みすず書房)を読みました。本屋で見つけ、読んでみようという気になりました。著者のエリボン氏は全く知らないし、みすず書房の西欧哲学・思想関係の本は難しくて、遠慮しているのですが。この本は、フランスの哲学者の自伝でもあるので、読めるかなと考えたのです。フランスとドイツでベストセラーだそうです。いくつか書評も出ています。

帯に「労働者階級の出身であると明かすのは、ゲイであるということを告白するより難しかった」とあります。この本の内容を、良く表しています。著者の二つの苦悩、それが彼を作ったのですが、その過程が語られています。
下層労働者の家に生まれ、高等教育に進むことは、家族や地域から離脱することでした。恵まれた家庭の学校の友達に劣等感を持ちつつ、彼らに反発したり迎合しつつ、勉強を続けます。そして、家族とは疎遠になります。というより、彼は切り捨てます。既存知識人たちに反発することで、大学教授になることはできず、新聞界で名声を上げていきます。彼はそれについても、やりたくなかったけど、食べるために必要だったと語ります。
ゲイであることについても、社会から差別を受けます。社会との葛藤を乗り越えていきます。
その二つの、社会との葛藤、自己との葛藤が、描かれています。それが個人の独白でなく、フランス社会の課題と重ね合わされて語られます。そこが、哲学者、社会学者としての分析となります。フランスの哲学界、知識人たちが、1970年ごろまでいかにマルクス主義にとりつかれていたかもわかります。ゲイについては、私はわかりませんが。だから、フランスで読まれたのでしょう。

ランスは、パリから東北に100キロあまりの都市です。フジタ画伯の礼拝堂もあります。そんなに田舎と思えないのですが、フランスはパリ一極集中が極端です。パリでなければ、まっとう高等教育を受けることができないと書かれています。著者は早熟、そして頭脳明晰なので、凡庸な教師に飽き足らなかったのです。

私も、奈良の田舎から東京に出て、大学で学び官僚になりました。親やふるさとから離れて別の世界で生きた点では、同様です。著者とは2歳違いで、ほぼ同年代です。このような著名人と一緒にすると叱られそうですが、私の半生と少し重ね合わせて読みました。
フランスの階級差別の厳しさ、社会的上昇の難しさには、厳しいものがあるようです。ブルデューが、生まれた家による「文化資本」の違いを指摘するのがわかります。

日本では明治以来、勉強ができて野心のある若者は、東京や各地の旧制高校、後に大学を目指しました。学資の問題はありましたが、家庭の出自は問題にされませんでした。確かに田舎者は、上流階級の子どものようにはクラッシック音楽を知らず、教養も低く話し言葉も粗野でしたが。だからといって、露骨な差別はないと思います。
また、家族と疎遠になることもなく、田舎の人たちは東京での出世を褒めてくれました。日本には「故郷に錦を飾る」という言葉もあります。
社会的上昇がかなり実現できたのです。「一億総中流意識」は、そのような社会背景もあって実現したものでしょう。

翻訳もこなれています。フランスの哲学に通じていない人のために、丹念に注がついています。フランス哲学の門外漢でも、読みやすいです。

福島勤務再開

2020年6月22日   岡本全勝

コロナウイルスでの移動制限が緩和され、今日から、福島での勤務を再開しました。久しぶりの福島は、新鮮さがあります。
新幹線の車窓からは、雨に煙る関東平野、緑の山々、稲の苗が育って一面青々とした田んぼなど、懐かしい風景を見ることができました。
今日は早速、被災地へ。山の緑の中に、ヤマボウシの白い花がきれいでした。

2か月半、会ってなかった人たちに会うと、何かしら懐かしいです。電子メール、電話、テレビ会議では、やりとりしていたのですが、実際に会うのは違います。

久しぶりの出張で、持っていくもの、ホテルでの行動など、かつては身体で覚えていたことを思い出しつつ、やっています。事務所の入り口の暗証番号を忘れていたり・・・暮らしの型を取り戻すには、少々時間がかかりそうです。

東京からの移動制限解除

2020年6月19日   岡本全勝

6月19日から、東京からの移動制限が解除されました。福島県との行き来も、可能になりました。
4月7日に緊急事態宣言がされてから、復興庁でも、大臣以下職員が被災地に入れなくなりました。その間、現地とは電子メール、電話、テレビ会議でのやりとりでした。

私も、福島勤務も被災地への出張も、できなくなりました。ようやく、現地に行くことができます。来週月曜日22日から、福島勤務を再開します。

テレワークの課題

2020年6月15日   岡本全勝

6月10日の読売新聞、椎葉怜子・日本テレワーク協会客員研究員の「テレワーク もっと広がれ」から。

・・・テレワークの一番の悩みは働き過ぎ、いわゆる「隠れ残業」です。まじめな人ほど頑張ってしまいます。
過重労働を防ぐには、パソコン電源のオンとオフの時間を確認することや、ストレスチェックの強化が有効です。メールやメッセージの送信時間を制限している会社もあります。終業時間後や休日には、不要不急の連絡をしないようにするべきです。

私は自分で作ったウェブ制作会社で深夜まで働くうちに、こんな長時間労働では女性のキャリアは絶望的だと感じました。女性の働き方を支援する会社を設立し、長時間労働や働く場所の制約について考えていた時にモバイルワークに出会い、テレワークを広げる必要があると思いました・・・

・・・日本はその場の空気を読みながら仕事をする習慣があるので、会社にいないと「何もしていない」「会社への貢献が足りない」という恐怖心が生まれやすい。欧米では求める能力や仕事の範囲を明確にする「ジョブ型」の雇用が主流で、会社にいなくとも成果を出せば評価されます。人事評価の方法が課題になります。
テレワークは社員同士が感情面のつながりを保ちにくいという問題もあります。雑談でアイデアやイノベーションが生まれることもあるのですが、チャットやメール、ウェブ会議は基本的に用件が中心です。
また、「テレワークだと(部下が)さぼっているのではないか」と疑心暗鬼に駆られる管理者は多いです。パソコンの画面や利用状況を監視できるソフトもありますが、利用を前提とせずにコミュニケーションのあり方を再設計してほしいです・・・

人との接触が仕事を進める

2020年6月8日   岡本全勝

6月7日の日経新聞1面コラム春秋から。

・・・人が幸せと感じる度合いを測る技術がある。開発したのは日立製作所だ。気持ちが弾んだり、軽やかな気分になったりすると、無意識のうちに微小な体のゆらぎが表れる。その動きをスマートフォンに内蔵したセンサーがつかみ、心の状態をデータで示すというものだ。

開発リーダー、矢野和男フェローの分析によれば、メンバーが幸せを感じる職場にはいくつかの特徴がある。対等な人間関係があって、5分程度の短い会話が頻繁に交わされている、話すときは体の動きも相手に同調させながらが多い……。そう、これらは人と人とが濃厚に接触する「3密」の状態と、かなり重なるのだ。

人は置かれた状況への満足度が高いほど、いい仕事ができ、能率も上がるといわれる。生産性が高まる状態が、新型コロナウイルス対策で避けなければならない環境とは困りものだ。急速に広がる在宅勤務は通勤時間が不要になり、仕事の効率を上げやすいのが利点だが、生産性の向上には限界もあるということだろうか・・・