投稿者アーカイブ:岡本全勝

岡義達著作集3

2024年6月4日   岡本全勝

岡義達著作集2」の続きです。
岡先生の政治学は、象徴論と分類されるものです。人と人との関係を、意味の共有として考えます。そして、時代を超えた共通項を剔出します。非常に理論的な政治学です。

他方で、時代を超えた理論を追求するので、古今東西の事例を引きますが、例えば現在日本の特定の政治案件分析とは遠くなります。どこにでも適用できますが、逆にそれが限界になります。議論の抽象度が高く、文体とも相まって、とっつきにくいのです。ですがそれ故に、その学風と文章に惚れる人も多かったようです。
読んでみて難しいと感じたら、澤井勇海執筆「岡義達 行動論・象徴論から演技論へ」(前田亮介編『戦後日本の学知と想像力――〈政治学を読み破った〉先に』(2022年、吉田書店)所収)を参照してください。よい読書案内になっています。「岡義達先生の政治学を分析する

岡義達先生は、大学のゼミの恩師です。当時のしんどかったことは「思い出の本、原書講読」に書きました。「思い出の本、その2。岡先生「政治」
先日思い立って、岩波新書『政治』(1972年の第3刷り)を取り出して、読み直してみました。大学時代(半世紀前)に読んだ本には、たくさん書き込みが残っています。当時は本当に難解でした。今では何が書かれているか理解できますが、それでも、難しいところがあります。

そこで、私が書くなら、この内容をどのように書くかを考えながら読みました。たぶん、小見出しをたくさん入れて、この段落では何を書いているかを示すでしょうね。そして岡先生に「岩波新書ですから、もう少し読者に親切に書きましょうよ」とお願いしたでしょう(苦笑)。

 

公務員離れ「国家衰退レベル」

2024年6月4日   岡本全勝

5月31日の日経新聞夕刊に「公務員離れ「国家衰退レベル」 世界に学ぶジョブ型とは」が載っていました。しかしこれを訴えたのは、人事院です。記事に次のように紹介されています。「国家公務員の人事制度を協議する人事院の「人事行政諮問会議」は5月に公表した中間報告でジョブ型の必要性を訴えた。現状が続けば質・量ともに人材が不足し「国民の安全な生活に支障を来し、国家の衰退にもつながりかねない」と強調した」。詳しくは記事を読んでいただくとして。

・・・若年層が国家公務員を志望しなかったり早期に離職したりする傾向に歯止めがかからない。職務内容を明確にして成果で処遇する「ジョブ型」の働き方が打開のカギを握る。外国の例に学ぶ。
「大半が主体性のない仕事に感じた。やりたいことをするのに10年はかかる」。2021年度に総合職で経済官庁に入った20代男性は1年足らずで退職した。実力本位で仕事ができる金融系スタートアップに転職し働きがいを実感する。
人事院によると「キャリア官僚」と呼ばれる国家公務員総合職の採用試験の志願者は23年度に1万8386人と12年度に比べて27%減少した。採用10年未満の退職者も18年度から3年連続で100人を超えた。14年度は66人だった・・・

・・・ジョブ型の浸透には報酬の体系の見直しも欠かせない。23年度に採用した国家公務員の8割以上が仕事の魅力を高める対策に「給与水準の引き上げ」を挙げた。
シンガポールは省庁事務方トップの事務次官など幹部候補の養成コースに選抜した人の給与を閣僚や民間の高額所得者の水準に合わせる。政府資料から事務次官の年収は100万シンガポールドル(約1億1500万円)超と推計できる。
同国の国家公務員は30代後半から40代で月5000米ドル(約80万円)以上の手取りを受け取り得る。職務を明確に規定し優れた業績を残すと昇給やボーナスで報いてもらえる。資源が乏しく人材立国を掲げ、国策として公務員の人手を確保する・・・

・・・公務員制度に詳しい荒木尚志東大院教授は「学生は社会貢献への意欲を失っていない」と指摘する。公務員と民間の仕事の垣根がなくなりつつあり、社会貢献の仕事もできる外資系コンサルティングやスタートアップに人材が流れているという。
仕事の魅力や処遇を民間並みに高めれば、中央官庁に人材を呼び込める可能性はある。荒木氏は公務にジョブ型を浸透させ、若者をひきつけるキーワードに「納得感」を挙げる。
日本では若いうちは様々な部署を移り変える「ジョブローテーション」が主流だ。幅広い分野の知見や経験を積める利点がある一方、専門性を身に付け、いかす実感は持ちにくい。荒木氏は「若い世代はこの分野で自分が第一人者になりたいという思いが強い。ローテーションを過度に押しつけては人材が離れる」と話す。全般をこなすゼネラリストが出世しやすい人事は見直しの余地がある。

ジョブ型や民間との交流を拡大する以前の問題として、世界でも特異な日本の国家公務員の働き方を早急に改める必要がある。
人事院によると、22年度に部署ごとに定めた勤務時間を超過した職員は、業務を自己完結できない部署全体の16%、1万2000人ほどだった。閣僚の国会答弁をつくるため議員の質問案を待ち、時に未明まで作業する悪弊は一向になくならない・・・

官僚の不満は、やりがいと給与に集約できるでしょう。企業に勤めた大学時代の友人と比べると、やりがいは主観的なものが入りますが、(企業に勤めた人が全員ではありませんが)給与の差は歴然としています。

これまでは、日本の労働市場では転職は難しかったのです。官僚たちは不満を持っていても、我慢して、「自分たちは国家に貢献しているのだ」と自分を納得させてきました。しかし、転職が可能な社会になると、我慢する必要はなく、自らの技能で転職できるのです。そして、経験年数を基本とした昇進と給与体系は機能しなくなりつつあります。人事院が提言したジョブ型への転換は、一括採用、経験年数による昇進、それに応じた給与体系を壊します。
役所側が働く内容と処遇を変えないと、できる官僚は逃げていきます。いよいよ働き方改革が本格化するでしょう。転職自由社会が与える衝撃です。

新聞の役割

2024年6月3日   岡本全勝

5月1日の朝日新聞に、朝日新聞の1面広告が載っていました(ウェッブでは見当たりません)。朝日新聞デジタルの宣伝です。情報量が紙面の5倍だというのが、売りのようです。
しかしこの宣伝では、読者を増やすことは難しいでしょう。もちろんこの宣伝は紙面に載っているので、新聞を読んでいない人には効果がありません。すでに新聞を購読している人向けの宣伝であり、デジタル紙面へ誘導する宣伝なのでしょう。

新聞社が力を入れなければならないことは、新聞を読んでいない人、特に若者を勧誘することでしょう。若い人は、新聞を読んでいません。ニュースは、インターネットで無料のものを見ています。そしてそれで満足しています。この人たちに、デジタル紙面は情報量が多いことを訴えても、金を出して買おうとは思わないでしょう。

私は、インターネットのニュースと、新聞紙面とは異なる報道媒体、目的が異なる情報機関だと考えています。出来事としてニュースを見るなら、インターネットが早くて便利です。NHKのウェッブサイトを見れば十分です。
新聞紙面の機能は、ニュースを伝えることではありません。世の中にある膨大なニュースから重要なものを選択して、並べてくれるのです。新聞の機能は、編集長が選択し、限られた紙面の中に並べてくれることにあります。新聞紙面を読むことは、編集長を雇っていることなのです。新聞は情報量が限られていることが「売り」なのです。インターネットで記事を追いかけると、無限に広がり、時間はかかるし、終わりがありません。
そして世間では、どのような話題が中心になっているのか。それは、紙面での記事の扱い、場所と分量が示してくれるのです。

このことは、かつて日経新聞夕刊1面のコラム(2018年4月12日)にも「新聞の読み方」として書きました。
・・・あるテーマを早く深く知るなら、インターネットの方が効率的だ。しかし、好きな分野だけを深掘りするのではなく、社会の動きを知ることが重要だ。何が大きく扱われているかを知ること。膨大な数のニュースから編集者が切り取って並べてくれている。それを活用しよう・・・

その機能から、もう一つの効果があります。関心のない記事も目に入るということです。インターネットでニュースを見ていると、自分の関心のあることと興味を引くことだけを見るようになります。しかし、紙面では関心のない記事が大きく扱われています。それが社会では、重要事項なのです。その記事を読む必要はありません。そんなことがあることさえ知っていおればよいのです。社会で活躍するには、現在の社会での問題は何か、一通りの知識は必要です。それには、インターネットでなく紙面を見ることが効率的です。

新聞社も若者の新聞離れを嘆く前に、どのように宣伝したら、学生や若い社会人に買ってもらえるかを考えるべきです。まず、学生と新社会人向けに、新聞の読み方、利用の仕方を説明した小冊子を作り、ウェッブ上で公開してください。どこかに載っていたら、教えてください。

「子持ち様」子育て世帯の肩身が狭くなる

2024年6月3日   岡本全勝

5月26日の読売新聞「加速化する少子化」、駒崎弘樹・NPO法人フローレンス会長の「子育て支援は自分への投資」から。こんなことが、起きているのですね。

・・・最近、SNSを中心に「子持ち様」という言葉が広がっています。子どもを育てる親が、職場などから配慮を受けることをやゆするものです。「子持ち様の子がまた熱を出したとか言って休んだ。そのカバーで仕事が増えた」などといった使われ方をしています。
共働きが当たり前の世の中になり、少子化対策が叫ばれる中、20~30歳代の未婚の男女からそうした声が上がることに衝撃を受けています。不満をぶつける相手は、仕事のカバー態勢を整えていない会社側であるはずです。「被害者が被害者をたたく」ような悲劇的な構図だといえます。

1980年代は全世帯の半数近くに子どもがいましたが、今は2割弱と少数派になっています。こうした言葉により、子育て世帯の肩身が狭くなり、子どもをさらに産もうという気持ちが薄れてしまうのではないでしょうか。その結果、少子化が加速するのではないかと危惧しています・・・

佐藤 直子著『女性公務員のリアル』

2024年6月2日   岡本全勝

佐藤直子著『女性公務員のリアル なぜ彼女は「昇進」できないのか』(2023年、学陽書房)を紹介します。
次のような話が紹介されています。
「やる気、体力、時間があるときに、仕事をすることの楽しさを実感できる仕事を任されず、雑用に真面目に従事する。その後も、子どもを産み育てている間に、もしくはほかの仕事があると知らずに雑用だけやっている間に、考える頭と体力を失い経験・知識不足に陥り、自信を喪失。40近くで現状に気付き、退職までの十数年をいかに無難に過ごすかが一番の関心事となる。今から昇任しても雑用の長になるだけだから、なりたくないと思ってしまう。(40代前半・主任・女性)」

男女共同参画がようやく進み、採用試験でもその後の配属でも、男女差はなくなりつつあります。しかし依然として、女性管理職は少ないです。その理由は、これまで女性職員を男性と同じように育ててこなかったことがあります。庶務や定型業務に従事させて、企画、財政、人事など基幹的な部署に配属せず、その後の管理職への登用が難しかったのです。私は、富山県総務部長の時(1994年~98年)に、気がつきました。

ところで、このような議論ができるようになったのは、ここ最近のことです。昭和の時代では「女性は補助業務」が通念でした。男女差別が禁止された際に、企業では総合職と一般職という区分を持ち込み、女性を一般職として昇進が少ない職としました。
他方で、総合職で採用された女性も、配属部署と経験で、男性とは差がつけられることが多かったのです。昭和に育った上司も、女性幹部候補をどのように育成したら良いか、わかりませんでした。そこには、家庭を犠牲にして長時間労働を強いる職場の問題もありました。家庭でも、夫は家事を分担せず、たまにすると「協力」と表現したのです。保育所も充実してませんでした。

その時代を見ている私からすると、ようやく職場での男女平等が進みつつあるなと思います。職場の通念と社会の通念が変わるには、ひと世代がかかるのかもしれません。今後、急速に変化するでしょう。働き方や家庭での男女の役割については、私たちは革命の中にいると言えるでしょう。憲法や法律では変わらなかったことが、変わりつつあるのです。