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三位一体改革53

(1兆円知事会案決定)
全国知事会は、13日の会議で、国から求められていた6,000億円の補助金廃止案をまとめました。総額は約1兆円、うち公立学校などの施設整備費が5,200億円、経常経費が4,770億円です。
6,000億円を上回る金額を提示したのは、昨年の経験から、歩留まりをみたことと、生活保護などを入れさせないため、と解説されています。
14日の日経新聞は、次のように伝えています。
「議論の中心になったのは、削減リストではなく、政府との闘い方。熱気がみなぎった昨夏の新潟会議とは異なり、今回の会議を通じて伝わってくるのは地方側の焦りだ」
「『昨年の改革は敗北だった』上田清司埼玉県知事。『今から考えれば、政府案は受け入れなければよかった』浅野史郎宮城県知事。『勝敗ラインをどこに置くか』山田啓二京都府知事。『ゲテモノが出てきたら今回は食わない』片山善博鳥取県知事」
知事会が決めた改革案には、1兆円のリストのほかに、
1 第2期改革の実行
2 国と地方の協議の場の制度化
3 地方の改革案にないものを入れないこと
4 新たな類似補助金や交付金の創設禁止
5 国直轄事業負担金の廃止
6 第2期改革推進計画と国と地方の協議の場の設置などを内容とする法律の制定
などが盛り込まれています。(7月14日)
(知事会議の評価)
13、14日と全国知事会議が徳島市で開かれ、その結果を15日の各紙が伝えています。
各紙の社説は、次のように主張しています。
「政府は『骨太の方針2005』で国・地方の徹底した行革の方針を打ち出したが、20兆円もある補助負担金を縮小していけば、配分業務に携わる官庁の大幅なスリム化につながるはずだ。補助負担金を得るために地方が陳情や手続に費やしている膨大なコストも削減できる。仕事そのものを減らさない補助負担率引き下げは、行革としても意味がない。
政府自らは改革案をまとめられないから、地方に依頼する。地方案は各省が受け入れないから、数字あわせで小細工する。その繰り返しでは、三位一体改革は失速してしまう。もらう側の地方から要らないと名指しされた補助負担金に固執する各省は、往生際が悪いというものだ。地方案を土台に改革を進めるべきだ」日本経済新聞。
「長い間、国への陳情が主たる仕事だった親ぼく組織の全国知事会は、三位一体改革を境に『闘う知事会』へと様変わりした。財政力の違いでとても意見集約はできない、と中央から見られていたのに、昨年は深夜に及ぶ激論の末、意見を一本化した。今年も『とことん議論する』姿勢は引き継がれた。いまや知事会は、国が政策決定する過程で、政党、中央省庁を向こうにまわして『第3極』と言われるまで力をつけてきた。
・・・改革は、中央のサボタージュを尻目に、地方が推進力になって引っ張ってきた。成否の鍵は知事会が握る。力を抜かずに改革の成就へ突き進め」毎日新聞。
「政府の壁は厚いが、知事会はなんとか公共事業に風穴をあけるべきだ。ここを突破できれば、さらに裁量枠が大きい道路や橋などの公共事業でも、税源を握れるかもしれない。
昨年のように、政府・与党に押し切られないため、住民に理解と支持を求めることや、地元の国会議員らを説得する方針も決めた」朝日新聞、などです。
読売新聞だけが、「生活保護の国庫負担率を引き下げよ」という、とんちんかんな社説でした。これは、分権の意味や税源移譲の意味を理解しない論説委員会なのか、理解を求める努力が足らない総務省・地方団体が悪いのか・・。解説欄で青山彰久記者が「三位一体決着へ地方の力結集を」を書いていてくださったのが、救いですがね。
各紙の記事のポイントは、次のように整理できるでしょうか。
1 昨年の知事会議の時に比べ、今年は盛り上がりに欠ける。
→それは、去年が初めてのこと(国から案を求められ、多数決で決したこと)であったのに対し、今年は2回目であること、からでしょう。「去年は道がなかったところに道を開いた。今年は道の上を走ればいい」(青山記者)。「去年は、砕氷船が氷の海を砕きながら進むような、ダイナミックさがありましたよね」という記者もいます。
2 国への不信感
→昨年、地方案を出したのに、国は十分それに答えなかったからでしょう。地方がもう要らないといっているのに、補助金を死守する官僚、またそれを代弁する大臣に対してです。それが、6,000億円の依頼に対して、1兆円の解答となって現れました。
3 小泉首相への期待と不安
→「省庁や族議員の抵抗が強い補助金廃止に数値目標を設けたのも、小泉首相の指導力があったから」(内田晃朝日新聞記者)。郵政民営化に見られる小泉首相の指導力低下が、三位一体にどう影響するか。また、ポスト小泉への期待と不安です。
4 国の抵抗も強く小泉首相の力が落ちたらどうするか。
→知事会を始め、地方団体の智恵と力量が試されるのでしょう。(7月16日)

社会と行政

14日の産経新聞は連載「待ったなし人口減少社会、第5部、街の盛衰自治体の挑戦」第3回を載せていました。人口減少が財源不足につながること、また指定管理者制度によって文化会館の管理を民間事業者と競争しなければならなくなったことなど、文化行政の分野にも大きな影響を及ぼしていることです。

三位一体改革52

5日の毎日新聞は、麻生福岡県知事・淺野宮城県知事・増田岩手県知事・石井岡山県知事の会談を載せていました。三位一体改革の行方について、骨太の方針2005や義務教育費国庫負担金などを議論しておられます。
「明治以来の強固な制度、ヒエラルヒーを変えるわけだから、相当なエネルギー、破壊力が必要です。いろいろなあつれきが短期間にはあるでしょうが、それを経験しないと次の価値創造ができない」
「分権は極めて高度な政治問題です。この国のかたちをどう変えるのか、日本の将来をどうするのか。前回衆院選挙でも、各党がプログラムを出した。きちんと実行しようとしているのか、そういうことを検証し、迫っていかないと」
「我々は誘惑され、捨てられたようなものです。ただ、昨年、小泉首相が『3兆円の税源移譲をやれ』と言ったのは、すごい決断だった。これをものにしないと、次の機会はいつになるか。つい最近まで『補助金増やせ』ばかりやっていたのが一変したのはすごいこと。当然のように起きた変化ではなく、どこかでガラッと変わったんです」
「それはやはり小泉首相の登場が大きい。ただ、これだけ期待値、期待感が高まって、もし裏切られたら、ものすごい怒りに変わりますよ」(7月5日)
6日の朝日新聞「私の視点」には、木村良樹和歌山県知事が「地方の裁量広がる税源移譲を」を書いておられました。和歌山県では、高校の奨学金が税源移譲されたことを受けて、貸与の条件を見直したこと。また、補助金申請のための上京旅費が500万円節減できたこと。などの実績を紹介した上で、奨励補助金廃止によって地方の実情にあった事業ができること、それで住民の満足度が高くなることなどを主張しておられます。
5日に政令指定都市市長会が、残る6,000億円の補助金廃止案をまとめ、総務大臣に提出しました(5日日経新聞夕刊など)。
また、6日の朝日新聞や読売新聞は、地方6団体が、残る6,000億円の補助金廃止案として、約1兆円の削減リスト原案をまとめたと、伝えています。(7月6日)
麻生大臣が、新しい「あっ、そうだろう」を書かれました。「地方分権も教育も」です。
「・・・『地方分権は大事だ。しかし、教育の方がもっと大事だ』昨年、国と地方の協議の中で、そのようなご発言が席上ありました。私は、これを聞いて、『ああ、地方分権もここまで来たか』と、正直感慨深いものがありました。それまで、地方分権が良いものとされたのは、日本の社会経済各分野と深刻にぶつかることがない、お題目に過ぎなかったからです。財源と権限がセットになって地方のものとなり、地域主権が初めて現実のものとなるかもしれない、そのときに我が国の社会経済がどのように変貌するのか、誰もが確信を持てないのでしょう。
地方分権も大事、教育も大事です。そして、この2つは、概念上も、実際上も、対立するものではないはずです。これからの地域主権の世の中で、どのように義務教育を責任をもって実施していくか、という視点から、前向きに将来のシステムを検討していくべきだと考えます。・・・」(7月11日)
9日の毎日新聞は連載「知事たちの闘い-地方分権は進んだか」第17回を載せていました。「国との協議の場-距離というハンディ」です。(7月11日)
13日から徳島市で、全国知事会議が始まりました。13日の産経新聞社説(主張)は、「全国知事会、数合わせの改革にするな」を書いていました。日本経済新聞は「どうする義務教育・インタビュー」(下)で、中山文科大臣と石井岡山県知事へのインタビューを載せていました。
また、日経は1面で「どうする義務教育」を連載していました。国庫負担金廃止議論が、マスコミに教育について関心を持たせることになり、国民に教育を考える機会を創ったというところでしょうか。どんどん、教育の中身や質について、議論をしてほしいです。そして、ようやく文科省も議論に入った、と思いたいです。記事では、少人数学級すら認なかった事例が生々しく書かれています。
国庫負担行政・上意下達行政の悪弊を、早くやめたいですね。もっとも、文科省だけでなく、この状態に安住している教育委員会と教員の意識改革も必要です。(7月13日)

責任ある政治

ドイツでは、9月にも総選挙が予想されています。それに向けて、キリスト教民主・社会同盟が、政策綱領(マニフェスト)を発表しました(13日づけ読売新聞ほか)。この党は、保守系最大野党です。記事によると、「所得税や雇用者負担を軽減するため、付加価値税(消費税)を来年1月から2ポイント引き上げて、18%にすると明言」しているそうです。「消費税増税という不人気策をあえて掲げることで・・」との解説もあります。
日本では、いつになったら、時期と税率を明確にして、増税を訴える政党や政治家が出てくるでしょうか。「この半世紀の間、わが国では、国民に本格的な税の追加負担をお願いしたことがありません」(拙著「新地方自治入門」p299)という国です、日本は。増税しなくてすんだ幸せが、えらい負の遺産になっています。
私は、講演会の度に、増税の必要性を訴えています。もちろんその前に、歳出カットも。私の話を聞いた人たちは、それなりに理解をしてくださいます。でも、会場の質疑や別室での質疑では、「冗談じゃない。増税は悪だ」と言う人が多いです。
私も、増税はしたくありません。でも、歳出カットでは、赤字国債はなくならないのです。政治家も財務省も面と向かって増税を言わないときに、一人それを主張するのは「バカなこと」なのでしょうか。5年後、10年後の評価を待ちましょう。

講演録やインタビュー

(2)地方行財政
地方財政改革の方向と交付税の未来」2004年3月(宮崎県市町村課)宮崎で行った講演の講演録
これからの日本、これからの南砺」2004年6月(砺波地域町村合併協議会)井波町で行った講演の講演録
中沖県政24年の軌跡8:岡本全勝氏に聞く」富山新聞2004年11月6日
講演録「町村財政の将来」(奈良県北葛城郡町議会議員研修会2004年8月10日)『未来への旅立ち』(奈良県町村議長会、2005年3月)に収録

日本経済学会でのパネルディスカッション都市対地方-財政、公共事業、一極集中の是非をめぐって」『現代経済学の潮流2005』(東洋経済新報社、2005年)に収録。
日本経済学会2004年度秋季大会(岡山大学)の成果を載せた「現代経済学の潮流2005」(東洋経済新報社、2005年)が出版されました。第7章は、私も参加したパネルディスカッション「都市対地方-財政、公共事業、一極集中の是非をめぐって」の記録です。ふふふ、いろんなところで「副業」をしてますね。なお、私の意見の概要は、「財政論1」に載せてあります。