曽我謙悟・神戸大学教授が『行政学』(2013年1月、有斐閣)を出版されました。これからの、代表的な行政学教科書になるでしょう。
これまでの標準(スタンダード)は、西尾勝先生の『行政学』(新版、2001年、有斐閣)でした。私たちは、これで育ちました。もっとも、私が学生の時は、まだ出版されていませんでしたが。もう一つの代表的教科書は、村松岐夫先生の『行政学教科書』(2001年、有斐閣)です。
曽我先生の本は、これまでにない新たな切り口で書かれています。まず、第1部は「政治と行政の関係」です。これまでの行政学は、官僚制を分析することが重点でした。政治と独立して、行政機構があるかのような扱いでした。政治との関係という、重要な視点が抜けていたのです。
第2部は「行政機構」です。これは従来の教科書の範囲です。第3部が「マルチレベルの行政」、すなわち地方行政と国際行政です。これまでの教科書は、地方行政は取り上げていました。第4部は「ガバナンスと行政」です。そこでは評価だけでなく、市場やNPOとの関係も書かれています。
こうしてみると、これまでの行政学教科書が、行政組織と官僚制に焦点を当て、狭かったことがわかります。
欲を言えば、政策についての記述が欲しいです。行政は、国民や住民が求める課題について、それぞれ政策を講じることで、求めに応じます。教科書ということで、抽象化は仕方がないことですが。行政が何のためにあるかを考えると、透明な空気の中で無色透明な蒸留水をはき出しているわけではありません。安全、福祉、産業政策、教育など、何を「産出」しているのか。それが問われるべきです。
この点に関しては、飯尾潤先生の『現代日本の政策体系―政策の模倣から想像へ』(2013年3月、ちくま新書)を挙げておきます。現在あるいは現代日本の行政(中央政府、地方政府)が行っている「政策」を網羅した本は、見当たらないようです。
まだ2冊とも読み終えていないのですが、忘れないうちに書いておきます。これらの本を読むことで、行政官として、改めて自分のしている仕事を、広い座標軸の中に位置づけることができます。早く読み終えなければ、いけませんね。