「再読『リシュリューとオリバーレス』」の続きです。
長期の目標と短期の対策。改革には、反対がつきものです。それを乗り越えないと、目標は実現できません。二人の目標は、それぞれの国を強国とすることです。そのためには、軍隊を強くする前に国家機能を強化し、経済を発展させ、国民を豊かにする必要があります。
しかし、貴族や教会と地方が大きな力を持っていて、中央集権は完成せず。スペインにあっては、スペインの名の下にある各独立国家を束ねる苦労もあります。政府幹部の貴族は既得権益を確保することに躍起になり、役人は言うことを聞きません。財政は破綻状態にあり、借金を重ねます。敵国と戦う前に、国内の敵や政治構造、経済構造、社会風土、伝統などと戦う必要があります。
そして勝者か敗者かを判断する際に、当時の結果による判断とともに、後世への影響をも考えると、さらに難しくなります。スペインが新世界から獲得した金銀などの財を、産業発展に投資せず、文化野生活などに費やして(浪費して)しまったことをどう評価するか。指導者たちは気がついていたのか、近代経済学を学んだ私たちの後知恵による評価なのか。
英雄を主人公にした歴史小説は、主人公が成功を重ね、敵に勝つ場面を痛快に描きます。しかし、現実はそのような簡単なものではありません。味方と敵との戦いだけでなく、述べたような「所与の条件」の足かせがあるのですが、それを描くのは難しいですし、楽しく読める小説にはなりませんわね。
私だったら、どう判断するか。当時の背景や事実を知らないので、深く考えることはできないのですが。そのような観点から考えると、この本は政治家にとって有用な教科書です。
と書いていたら、本の山から、色摩力夫著『黄昏のスペイン帝国―オリバーレスとリシュリュー』(1996年、中央公論社)が発掘されました。