2月10日の朝日新聞オピニオン欄、大渕隆・日本ハムファイターズGM補佐兼スカウト部長へのインタビュー「若者の才能、見逃さない」から。
「大谷選手は高校時代、監督の指導ですでに自分を成長させる手法を会得していました。本を読むとか、短・中・長期で目標を立てるとか。こうした、その後にずっと生きてくる『自ら考える力』を選手が持っているかどうかは、スカウトする上で重視しています」
「日本IBMで7年勤めた経験があり、選手をコンピューターになぞらえることがあります。『ハード』が身体能力や技術だとすれば、『OS(基本ソフト)』は考える力や性格。ハードが多少劣っても、OSがウィンドウズ3か10かでは全く違う。野球は相手のいるゲーム。トレーニングはもちろん、色んな情報を解析してアウトプットするスポーツなので、よりOSが重要です。プロ野球の1軍、あるいは大リーグというソフトを回せるかもOS次第です」
――選手の「OS」は、どう見極めているのですか。
「先輩から『スカウティングは、最後は目に見えないものが大事だ』と教わりました。球速や身体能力など、見えるデータは評価の確認には使えますが、そこを重視しすぎるとうまくいかないことが多いです。大事なのは数字にはならない、考える力や強い思いといった『見えないもの』で、そこに焦点をあてなければ我々の仕事の意味はないと思います」
「人間と人間なので、伝わってくる第一印象を大事にします。企業の人は『20分の採用面接では何も分からない』と言いますが、むしろ1回の方がいいこともあります。あとは、ピンチになった時にその人の本質が出やすいですね。ユニホームの着こなしやグラブの手入れ、野球ノートの書き方なども材料にはなります」
――「OS」は、アップデートしていく必要もありそうです。
「新人選手の入団時、『君の最高のコーチは、自分自身だ。自分の中に、最高のコーチを育てられるかがとても重要だ』と伝えています。選手は大人の指示や命令で活躍しても、長続きはしません。ゴールを設定し、自分で計画し練習する必要があります。そのとき『最高のコーチ』の知識やレベルが低くては、選手は成長しないと考えています」
「だから選手は、プレー以外の面でも自己研鑽を積んでほしいです。最近の子は素直で真面目な分、言われるがままに練習しがちな傾向もありますが、情報を収集する能力は高く、デジタル世代ならではのアイデアを持っています」