年別アーカイブ:2026年

辞書の価値の下落1

2026年7月22日   岡本全勝

福林靖博さんの「わが実家「蔵書放出祭」始末記」(2015年2月19日)は、本好きな福林さんが本を処分した話です。実家に本を預けていたのですが、実家を売却することになり処分せざるを得なくなります。知人や近所の人に引き取ってもらい、最後は古本屋に来てもらいます。
私の「少し古本を処分14」と同様、同じ境遇の人にとっては涙なしには読めません。ただし私のは、ぼやきと実況中継ですが、福林さんの文章は、格調高い随筆となっています。お読みください。

最後の部分で古本屋とのやりとりが書かれ、次のような記述があります。
・・・意外だったのは、『大漢和辞典』の買い取りを、「値段はつけられないので、せっかくですからお手元に残されては」と、やんわりと断られてしまったこと。最近は需要も少なく、また欲しい人は既に持っていることが多いので、箱入りでもない限り引き取っても売れないのだという・・・

大漢和辞典』通称「諸橋大漢和」は、私たちにとっては、偉大な漢字の殿堂でした。判型は異なりますが、広辞苑が13冊並んでいると想像してください。それが、誰も引き取ってくれないのです。
「諸橋大漢和」には、とんでもない労力が費やされています。「完成までに数十年に及ぶ歳月を経ている(鈴木が依頼した1925年から初版刊行の1960年まで35年、諸橋が遺嘱した補巻刊行の2000年まで75年)」。しかもできあがった印刷用の原版が、空襲で燃えてしまいます
この項続く。

身長も人間関係も小さくなる日本

2026年7月22日   岡本全勝

7月4日の日経新聞オピニオン欄、中村直文・編集委員の「身長も人間関係も小さくなる 「狭小ニッポン」との向き合い方」から。関心ある方は、全文をお読みください。

・・・身長190センチメートルを超え、米メジャーリーグでも断トツのパフォーマンスを見せるロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手。世界のライバルに引けを取らないバレーボールの選手なども見ると、日本人の体格が年々増しているような印象を受ける。
だがアスリートの活躍とは裏腹に、実は日本人の身長は伸び悩む。厚生労働省のデータでは近年下がり続け、20〜30代の若い世代も男性は170センチちょっとで足踏みしている。18歳時点の身長は中国や韓国に追い抜かれて久しい。
日本人の身長は明治以降、国力のアップとともにぐんと伸びてきた。明治の日本人の平均身長は160センチに満たず、アジアでも背が低い部類だった。しかし食生活の変化などを背景に、高度成長期にはアジアでもトップクラスの背丈に達した。

ところが生まれ年が1970年代、80年代になると伸びは鈍化。26〜29歳はむしろ低下局面にある。様々な社会経済のデータを集めたウェブサイトを主宰する分析家の本川裕氏は「(食生活の平準化などで)遺伝的な特性が出てきた可能性もあるが、原因ははっきりしない。体格の変化が過去の延長線上にないのは確かだ」と指摘する。
ダイエットへの関心が高かったり、コンビニエンスストアで増量キャンペーンが話題になったりするなど食への関心は旺盛のようだ。しかし日本人のカロリー摂取量は着実に減っている。
本川氏の統計を見ても、世界的に日本人は圧倒的にスリムな国民だ。食が細ったから小さくなったのか。小さくなったから食が細ったのか。データを確認する限り、日本人と食生活がダウンサイジングしていることは間違いない・・・この項続く

 

埼玉県職員研修で講師

2026年7月21日   岡本全勝

今日7月21日は、埼玉県に呼ばれ、職員研修の講師に行ってきました。去年に続き、2度目です。
主題は「自治体職員のマネジメント力」で、課長を目指す職員が対象です。今回も、私の講義と班別討議を組み合わせました。
討議は2問、事務局と一緒に考えた問題です。検討結果を発表するだけでなく、班同士で質疑をします。これが緊張感をもたらします。最初はぎこちなかった討論ですが、後半は盛り上がりました。参加型の研修は、効果があると思います。研修生たちには、負担になったと思いますが。

さいたま市は、午前中に35度を超えていました。最高気温は38度とか。会場は冷房があるのですが、駅から会場までが暑かった。

アメリカ、ロースクールで人工知能を規制

2026年7月21日   岡本全勝

7月4日の朝日新聞に「米ロースクール、AI規制加速 実在しない判例や根拠不明の記述増」が載っていました。

・・・生成AI(人工知能)が、米国の法曹界や大学を翻弄している。弁護士がAIで作成して裁判所に提出した資料に、捏造や誤りが相次いで判明。法律家を養成する法科大学院(ロースクール)では、AIの利用を禁止する名門校も出てきた。

米西部カリフォルニア大バークリー校のロースクールは、今夏からAIの利用を大幅に制限する方針を発表した。採点対象となる課題のほぼすべてでAIの使用を禁止。論文は、テーマや構成案を聞くことのほか、下書きや推敲、文法チェック、翻訳でもAIの利用を認めない。
2年前に定めた規則では、アイデア出しや推敲などに使うことは許されていた。米国の大学で最も厳しい水準の措置に転じたのはなぜなのか。
「我々の教育の目的は、学生が法律家として活躍するために必要な批判的思考力を身につけることです」。カリキュラム担当のジョナサン・グレイター教授はこう話す。「しかし、AIへの過度な依存が、そうした能力の育成を損なってしまいました」

同校の教授たちが「異変」に気づいたのは、2024年ごろだ。学生の提出物に、実在しない判例や根拠不明な記述が増えた。ある学生は「ChatGPT(チャットGPT)との会話中に独自の論を見いだした」と発表したが、それはすでに他の文献に書かれたものだった。
学内のAI規制を主導したクリス・フーフナグル教授は、法律の解釈を現実の事案に結びつける法的推論という法律家の大事なスキルについて「基礎的技術を身につけなければ、AI企業にアウトソースする弁護士ができあがってしまう」と危機感を抱いたという。
AIの利用を禁じることは「実社会と逆行する動き」との批判もある。だが、まずは法的思考力を身につけ、その後にAIの活用を学ぶべきだとする。AIの「監督力」こそが必要になると考えるためだ。

米メディアによると、カリフォルニア州の弁護士2人が6月、AIを使ってありもしない判例を裁判所に提出したとして、それぞれ2500ドル(約40万円)の罰金と6カ月間の活動停止処分を下された。
フランスのHEC経営大学院のダミアン・シャルロタン研究員によると、22年のチャットGPTの登場以降、世界で少なくとも1600件のAIによる虚偽・捏造が裁判所に提出され、そのうち米国が1100件以上を占めた。

もともと弁護士はAIに取って代わられやすい職業の一つと指摘されてきた。業務の多くが大量のテキストデータの処理や過去の判例の照合など、AIが得意とする仕事が多いためだ。人間が何日もかけて調べる過去数十年分の判例や文献を、AIは一瞬で見つけ出せる。
ある弁護士はAI利用について「スタッフを雇う必要がなくなり、はるかに速く、安上がりで仕事ができる。使わない手はない」と話す。
それでも、グレイター教授はAI時代、法律家に求められる力はむしろ重要性が増していると指摘する。
「分析力と倫理観、そして何よりも判断力。それはAIには取って代わられてはいけない」・・・

法律の背景を知る

2026年7月20日   岡本全勝

民法は、大学で学びました。必須科目でした。学んでいるときは、法学一般に「無味乾燥」な学問だと思い、条文と解釈を覚えるだけで「これで学問かな」と疑問も持ちました。
団藤重光先生の法学入門も受け、各先生方は条文の意義も教えてくださったのですが。学生としては、条文と解釈、判例を覚えたら終わりで、その先は考えなかったのです。例えは悪いですが、自動車の運転技術のようなもので、身につける必要はありますが、真理を追究する学問とは別だと思ったのです。

後に、星野英一著『民法のすすめ』(1998年、岩波新書)を読んで、「なるほど、民法はこのような社会の歴史の変化に対応して、変化してきたのか」と納得しました。大学でも、「自立して平等な市民」という基本を変更した事例として、労働法制や借家人・消費者保護法制を学んだのですが。
憲法については、近代市民革命からの歴史を習うので、その変遷と意義は必須でした。それと同様に、民法も変化してきたことを理解できたのです(遅いです)。民法が社会のもめ事を解決する、社会が円滑に運用される基盤を提供する学問だと、理解できました。

本棚を整理していて、大村敦志著『民法総論』(2001年、岩波書店)を見つけました。「民法総則」(これは民法の一部)ではありません。私の関心は、社会の中の民法、社会の変化に民法はどう対応したかということです。星野先生の本の延長で買ってあったのですね。今となってはいささか古いのですが、私の関心からは問題ありません。引き続き『現代法の動態ー社会変化と法』(2014年、岩波書店)、大村敦志著『人間の学としての民法学』(2018年、岩波書店)も図書館で借りて、一部を斜め読みしました。大村先生の『民法改正を考える』(2011年、岩波新書)も本棚にあります。

法学に限らず、政治行政学や社会学で興味を引くのは、大きな変化があったときですよね。それは対象とする社会や現実が変化したときです。変化が少ないときは学者の出番は少ないです。連載「公共を創る」を書いている問題意識も、これに通じます。
歴史学が、政治史から社会史や文化史に変化してきました。政治史も権力者を中心とした見方から、政府が国民に対しどのようなサービスを提供してきたのか、それに併せて法律はどのように変化してきたのかを説明する歴史学になりませんかね。