年別アーカイブ:2026年

在宅勤務を見直す動き

2026年9月11日   岡本全勝

8月26日の朝日新聞に「在宅勤務、そろそろ見直す時期? 連携強化へ出社義務を増 働き方選択制、進捗確認は課題」が載っていました。在宅勤務は従業員にとって便利です。働き方の選択肢も広がります。しかし、職員の仕事ぶりをどのように管理するか。その点が重要ですが、むつかしいですね。

・・・新しい働き方として広がった在宅勤務(リモートワーク)を見直す機運が高まっている。出社と組み合わせた「ハイブリッド型」にする企業が目立つが、望ましい働き方への考えは人それぞれ。模索は続きそうだ。
日本生産性本部が企業や団体に勤める1100人を対象に7月に実施した調査によると、自宅など会社以外の場所で働く人の割合は14・5%だった。新型コロナウイルス下の2020年5月の調査開始時(31・5%)と比べて半減している。

在宅勤務を見直す代表格が、IT大手GMOインターネットグループだ。熊谷正寿代表が7月14日、自身のX(旧ツイッター)で、コロナ禍以降続けてきた在宅勤務について「グループとしての推奨は完全廃止」と投稿。コミュニケーションや教育などの面で在宅勤務は「トータルではマイナス」と主張した。しかし、時間あたりのパソコンのタイピング数などに言及したため、管理強化の印象を持たれ、反発が相次いだ。熊谷氏は1週間後にXで「在宅勤務という働き方そのものを否定するものではない」と軌道修正した。
従業員に出社義務を課していなかったLINEヤフーも25年4月、部門ごとに原則週1回か月1回の出社日を設けた。26年5月からは原則週3回の出社を求めている。出社回帰の利点について、日常的な会話を通じた社員どうしの連携や迅速な意思決定をあげる。一方、在宅勤務に慣れた従業員からは不満の声が上がる。ある社員は「急な会社の方針転換に社員の反発は相当大きかった。退職を決めた同僚もいた」と話す。
現状では在宅か出社かどちらか一方ではなく、組み合わせたハイブリッド型の企業が目立つ。

22年7月から出社義務をなくしたNTTグループは、従業員19万人中、経営企画や営業などの一般職5万3千人を対象に住む場所も自由にした。出社は出張扱いで、新幹線代も出る。単身赴任者は約1600人減った。必ず毎日在宅で働かねばならないという縛りはなく、平均で週2~3回出社する従業員は多い。
富士通は20年から、出社か在宅勤務かを選べる制度を導入した。現在の出社率は2割ほどだ。ワークスタイル戦略室の赤松光哉室長は「時間を有効に使えるようになり、意思決定のスピードも上がった」と語る。
だが、課題がないわけではない。赤松室長は出社と在宅勤務が混在することでチーム内の小さな変化に気づきにくくなる点を指摘する。業務の進捗確認や部下の状況把握など、中間管理職の負担は増えているという。
仕事とプライベートの境界があいまいになり、結果として長時間労働につながるおそれもある。在宅勤務者が多い情報通信産業の労働組合でつくる情報労連は24年の春闘から「つながらない権利」を掲げ、勤務時間外の連絡ルールの制定を企業に求めている。

在宅勤務が抱える課題は働き方そのものだけではない。佐藤博樹・東京大学名誉教授(人的資源管理)は在宅勤務の浸透にあわせた適切なマネジメントやルールがないことが問題とみる。
佐藤さんらによる管理職約1300人への調査で、「生産性が低下した」と答える人が多かった職場ほど、オンライン会議で参加者が顔を出さず、声だけで参加する傾向が強かった。参加方法について、会社や部門でルールを決めていない職場が45・8%と半数近くを占めていた。
佐藤さんは「ルールを決めないことで起きた生産性の問題を、働き方の問題と取り違えている面がある」と指摘する・・・

「停止は退歩を意味する」

2026年9月10日   岡本全勝

「停止は退歩を意味する」。野村證券の創業者、野村徳七さんの言葉だそうです。野村證券のサイト「創業の精神十カ条」の第5番目。
「常に一歩前進することを心がけよ。停止は退歩を意味する」

個人にとっても、企業にとっても、役所にとっても、当てはまる言葉です。
特に競争の激しい産業界では、停止していると他社が進み、相対的に退歩になります。そして衰退します。日本経済の長期停滞の原因の一つです。企業が「リストラ」などに力を入れ、他方で新しい事業への挑戦を怠りました。縮小思考、失敗を恐れる保身哲学は、新しいことへの挑戦をためらわせ、現状維持に傾きます。
役所も行政改革の言葉の下で、新しい課題に取り組むことが遅れました。

政策立案での人工知能の利用

2026年9月10日   岡本全勝

9月3日の日経新聞に「霞が関にAI課長? 生産性向上に期待、官僚の役割の再設計迫る」が載っていました。機械を使うことで便利になりますが、下請けに出すことですよね。表計算や調べものなどは、効率化できると思います。しかし、企画立案に使うようでは、職員の能力向上にはなりません。難しいところです。

・・・「概算要求に関する財務省への説明にどの資料を持っていけばいいでしょうか」。8月上旬、総務省の若手官僚が問いかけると、間髪を入れずに助言が返ってきた。相談相手はパソコンの画面の向こうにいる「AI(人工知能)課長」だ。
AIが霞が関官僚の育ての親になる――。そんな未来が少しずつ現実味を帯び始めている。
総務省の事業展開技術課。デジタルインフラの海外展開などを所管する部署で今夏から嶋田信哉課長の「分身」のAIが若手官僚の教育係を担う。政策の起案から議員への説明資料の添削、他省庁との交渉術まで何でも相談できる。
AIには経歴や過去の講演資料から生活習慣まで読み込ませ、嶋田氏の仕事の進め方や政策判断の基準を再現できるようにした。所管する海底ケーブルや通信インフラの最新動向も把握する。
課長本人は海外出張で不在の場合も多い。「時間を選ばず何度でも壁打ちができる」と部下からも好評だ。
嶋田氏自身も国際会議でのプレゼン資料のたたき台作りなどを任せている。ブラックとやゆされる霞が関でも定時帰りがほとんどだ。
「下調べを頼むならAIの方が圧倒的に速い」と内閣府の幹部は語る。「部下に頼むことはだいぶ減った」・・・

・・・AIは使い方を誤れば将来の行政能力を損なうもろ刃の剣にもなる。あるベテラン官僚は「目先の生産性は上がっても次の世代を担う人材まで効率よく育つとは限らない」と懸念する。
大臣らが答弁に使うデータを集めたり、他省庁や企業との打ち合わせの準備をしたり。こうした下積みを通じて若手は霞が関特有の仕事を身につけてきた。先輩の判断を間近で学ぶ職場内訓練(OJT)が日常だった。
「答弁作成ではAIを使わないようにしている」。ある省の課長はそう言い切る。組織の経験知が細ることへの危機感が強い。「ただでさえ外注が増えている。そこにAIまで入れば、部下が自分で手を動かす機会がさらに減る」・・・

非公開の与党事前審査

2026年9月9日   岡本全勝

総理のSNS投稿は行政文書か2」の続きにもなります。
役所の意思決定にかかる文書は、保存され、情報公開の対象となります。
法律や予算については、政府決定の前に、与党審査が必要です。各省の意向だけでは決められず、与党の承認が必要です。そして、しばしばその過程で原案に修正が加えられます。

ところが、その与党審査はほぼ非公開で、記録も残されません(ですよね)。
与党審査に提出した各省の文書は、保存対象の行政文書に該当するでしょうが、それらがどの程度保存されているのか。また、与党による修正過程が残されているのか。
日本の政治を分析する際に、重要な要素だと思うのですが。

官民転職増加、技能の見える化へ

2026年9月9日   岡本全勝

8月25日の日経新聞に「脱ブラック霞が関へ」「給与減っても官僚にカムバック キャリア形成を多様化、魅力に気づき」が載っていました。

・・・2026年の人事院勧告は中央省庁の人材戦略の転換点を映した。公務員離れの打開策を、給与水準や勤務時間の改善から開放的なキャリア形成の提示にまで広げた。「選ばれる公務職場」をめざし、新人から幹部をめざす単線型の職歴の積み方を見直す。

「民間企業に出て国家公務員は国民生活に直結する仕事ができるのが魅力だと再認識した。私のように官民を行き来する人がより増えるといい」。キャリア官僚から民間に転出して出身省庁に戻り、課長級の役職に就いた浅野彰人さん(仮名)は語る。
浅野さんが民間への転出を決意したのは入省15年目だった。異業種で政策立案とは別のスキルを身につけたいと思った。新天地として選んだのは都市開発やスタジアム運営を手がける大手企業だ。開発や経理の部門などを担当した。
カフェでの会議など働き方の自由さに当初はカルチャーショックを受けた。しかし、6年ほど働いたころ、国家公務員のやりがいに気づき、戻ることを決めた。会社の役員には億単位の年収を得る人もいたが、幸せそうに見えなかった。官僚に戻って給料は3分の2に減った。不満はない。民間で培った経営の視点もいかせる。

民間から霞が関へのカムバックを考えるのは浅野さんだけではない。
公務員の経験がある人を含む民間からの志望者を対象に選考する経験者採用の数字に傾向を見てとれる。25年度の申込者数は2360人と、前年度に比べて74.7%増加した。25年度の申込者に対する倍率は4.1倍だった。
人材が霞が関の内外を行き来する開放的な制度が必要だ。事務次官や局長など幹部に就くことが成功とされる単線型のキャリア形成が多様な働き方を狭めてきた・・・

・・・さらに26年の人事院勧告は「成長できる職場の整備」をうたった。目玉の一つは官僚として得られるスキル(技能)の見える化だ。
人事院は6月、中央省庁で身につけられる57種のスキルを一覧にした。①業務②対人③課題解決の3つに分類したのが特徴だ。①は資料作成力や法令・制度への理解、②はプレゼンテーション力やリーダーシップ、③は国際的視野や課題発見力などを求める。
人事院では秋ごろから始める人事異動の希望調査で一覧の活用を始める。現時点のスキルを自覚し、どの場所であれば自分が成長できるかを判断する一助にする。一覧は一般にも公開しており、民間から官僚をめざす人も参考になる。
明治大の出雲明子教授(行政学)は「スキルを定義することにより、民間からの転職希望者が就きたいポストに求められる能力を把握しやすくなる」と話した。

海外に目を向けると、官民を行き来したキャリア形成や省内外での公募制度が定着する。米国では各省庁の上層幹部は政治任用で決まる。民間企業や法律事務所などからの指名は珍しくない。
新卒で採用して人材を育てていく日本の人事制度に近い英国や韓国でも幹部職員にはポストごとの公募制度がある。24〜25年の英国政府の調査によると、部長級以上の任用候補者の13%は直前のポストが民間だった。
韓国も組織内外から幹部ポストを公募するものの、現役官僚で合格者が占められることが多い。職務内容が特殊なため、民間志望者の職歴をどう考慮すればいいか判断が難しいからだ。人事院のスキル一覧はこうした課題の克服につなげる狙いもある。
官民交流には行政という特殊な経験を担った人材を確保できる点で民間にも利点がある。企業側にとっても受け入れ環境の整備が急務だ・・・