月別アーカイブ:2026年7月

埼玉県職員研修で講師

2026年7月21日   岡本全勝

今日7月21日は、埼玉県に呼ばれ、職員研修の講師に行ってきました。去年に続き、2度目です。
主題は「自治体職員のマネジメント力」で、課長を目指す職員が対象です。今回も、私の講義と班別討議を組み合わせました。
討議は2問、事務局と一緒に考えた問題です。検討結果を発表するだけでなく、班同士で質疑をします。これが緊張感をもたらします。最初はぎこちなかった討論ですが、後半は盛り上がりました。参加型の研修は、効果があると思います。研修生たちには、負担になったと思いますが。

さいたま市は、午前中に35度を超えていました。最高気温は38度とか。会場は冷房があるのですが、駅から会場までが暑かった。

アメリカ、ロースクールで人工知能を規制

2026年7月21日   岡本全勝

7月4日の朝日新聞に「米ロースクール、AI規制加速 実在しない判例や根拠不明の記述増」が載っていました。

・・・生成AI(人工知能)が、米国の法曹界や大学を翻弄している。弁護士がAIで作成して裁判所に提出した資料に、捏造や誤りが相次いで判明。法律家を養成する法科大学院(ロースクール)では、AIの利用を禁止する名門校も出てきた。

米西部カリフォルニア大バークリー校のロースクールは、今夏からAIの利用を大幅に制限する方針を発表した。採点対象となる課題のほぼすべてでAIの使用を禁止。論文は、テーマや構成案を聞くことのほか、下書きや推敲、文法チェック、翻訳でもAIの利用を認めない。
2年前に定めた規則では、アイデア出しや推敲などに使うことは許されていた。米国の大学で最も厳しい水準の措置に転じたのはなぜなのか。
「我々の教育の目的は、学生が法律家として活躍するために必要な批判的思考力を身につけることです」。カリキュラム担当のジョナサン・グレイター教授はこう話す。「しかし、AIへの過度な依存が、そうした能力の育成を損なってしまいました」

同校の教授たちが「異変」に気づいたのは、2024年ごろだ。学生の提出物に、実在しない判例や根拠不明な記述が増えた。ある学生は「ChatGPT(チャットGPT)との会話中に独自の論を見いだした」と発表したが、それはすでに他の文献に書かれたものだった。
学内のAI規制を主導したクリス・フーフナグル教授は、法律の解釈を現実の事案に結びつける法的推論という法律家の大事なスキルについて「基礎的技術を身につけなければ、AI企業にアウトソースする弁護士ができあがってしまう」と危機感を抱いたという。
AIの利用を禁じることは「実社会と逆行する動き」との批判もある。だが、まずは法的思考力を身につけ、その後にAIの活用を学ぶべきだとする。AIの「監督力」こそが必要になると考えるためだ。

米メディアによると、カリフォルニア州の弁護士2人が6月、AIを使ってありもしない判例を裁判所に提出したとして、それぞれ2500ドル(約40万円)の罰金と6カ月間の活動停止処分を下された。
フランスのHEC経営大学院のダミアン・シャルロタン研究員によると、22年のチャットGPTの登場以降、世界で少なくとも1600件のAIによる虚偽・捏造が裁判所に提出され、そのうち米国が1100件以上を占めた。

もともと弁護士はAIに取って代わられやすい職業の一つと指摘されてきた。業務の多くが大量のテキストデータの処理や過去の判例の照合など、AIが得意とする仕事が多いためだ。人間が何日もかけて調べる過去数十年分の判例や文献を、AIは一瞬で見つけ出せる。
ある弁護士はAI利用について「スタッフを雇う必要がなくなり、はるかに速く、安上がりで仕事ができる。使わない手はない」と話す。
それでも、グレイター教授はAI時代、法律家に求められる力はむしろ重要性が増していると指摘する。
「分析力と倫理観、そして何よりも判断力。それはAIには取って代わられてはいけない」・・・

法律の背景を知る

2026年7月20日   岡本全勝

民法は、大学で学びました。必須科目でした。学んでいるときは、法学一般に「無味乾燥」な学問だと思い、条文と解釈を覚えるだけで「これで学問かな」と疑問も持ちました。
団藤重光先生の法学入門も受け、各先生方は条文の意義も教えてくださったのですが。学生としては、条文と解釈、判例を覚えたら終わりで、その先は考えなかったのです。例えは悪いですが、自動車の運転技術のようなもので、身につける必要はありますが、真理を追究する学問とは別だと思ったのです。

後に、星野英一著『民法のすすめ』(1998年、岩波新書)を読んで、「なるほど、民法はこのような社会の歴史の変化に対応して、変化してきたのか」と納得しました。大学でも、「自立して平等な市民」という基本を変更した事例として、労働法制や借家人・消費者保護法制を学んだのですが。
憲法については、近代市民革命からの歴史を習うので、その変遷と意義は必須でした。それと同様に、民法も変化してきたことを理解できたのです(遅いです)。民法が社会のもめ事を解決する、社会が円滑に運用される基盤を提供する学問だと、理解できました。

本棚を整理していて、大村敦志著『民法総論』(2001年、岩波書店)を見つけました。「民法総則」(これは民法の一部)ではありません。私の関心は、社会の中の民法、社会の変化に民法はどう対応したかということです。星野先生の本の延長で買ってあったのですね。今となってはいささか古いのですが、私の関心からは問題ありません。引き続き『現代法の動態ー社会変化と法』(2014年、岩波書店)、大村敦志著『人間の学としての民法学』(2018年、岩波書店)も図書館で借りて、一部を斜め読みしました。大村先生の『民法改正を考える』(2011年、岩波新書)も本棚にあります。

法学に限らず、政治行政学や社会学で興味を引くのは、大きな変化があったときですよね。それは対象とする社会や現実が変化したときです。変化が少ないときは学者の出番は少ないです。連載「公共を創る」を書いている問題意識も、これに通じます。
歴史学が、政治史から社会史や文化史に変化してきました。政治史も権力者を中心とした見方から、政府が国民に対しどのようなサービスを提供してきたのか、それに併せて法律はどのように変化してきたのかを説明する歴史学になりませんかね。

「頑張り報われぬ」剥奪感

2026年7月20日   岡本全勝

6月24日の朝日新聞オピニオン欄、木村忠正・立教大学社会学部教授へのインタビュー「生活者2.0 「頑張り報われぬ」剥奪感抱く多数派 ネットの罠が拍車」から。

・・・ 有権者は、どんな価値観や心理から政治家に一票を投じているのか。総選挙後に大規模なウェブ調査をした立教大学の木村忠正さんは、「まじめに頑張っても報われない」という多数派の思いがいま、政治を動かしていると分析する。投票行動を左右する有権者の心理から、日本社会の地殻変動が浮かび上がる・・・

―今年2月の衆院選の直後に実施したという調査で、何が浮かび上がりましたか。
「衆院選の翌日・翌々日に、全国の18~69歳を対象にウェブ調査をし、2千以上の回答を得ました。注目したのは、有権者が投票先を決めるとき、何が影響しているのか、です」
「興味深かったのは、年齢や性別といった属性よりも、『その人がどんな価値観を持ち、どう情報を扱い、どう社会から影響を受けるか』という道徳心理や情報行動が、投票行動に強くかかわっていたことでした」

―具体的に、どんな心理や価値観が影響していましたか。
「最も印象深かったのが、日本社会を覆う『相対的剥奪(はくだつ)感』の強さでした。どの政党を支持するかを問わず、『まじめに頑張る普通の人が報われない』という不満が一様に高かった」
「そして注目すべきは、この剥奪感の出口、つまり不満を向ける先が、政治的な立場によって異なっている点です。右派は矛先を少数者やマスコミに向ける一方、左派は『社会の不平等』や『再分配をしない体制』への抗議というかたちをとっています」

―そもそも、なぜ多くの人が「自分は報われていない」と感じているのでしょうか。
「その背景には、資本主義の歴史的な転換点があると考えています。第2次世界大戦後から1980年代頃まで続いた『黄金の例外期』の終焉です」

―黄金の例外期とは?
「主要先進国で、福祉資本主義が例外的に機能していた時期のことです。戦争による富の集積のリセット、教育水準の向上、多くの人を雇用する製造業中心の高度成長という条件がそろい、日本を含む各国で分厚い中間層が形成された。この頃はアメリカでも、中位4割が全体の6割の富を持っていました」
「この中間層の経済的安定を基盤に、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌といったマスメディアが国民国家の情報空間を形成しました。メディアが民主主義の基盤となり得たのは、この黄金の例外期のおかげです」
「しかし現在、富は一部の層に極端に偏在し、先進産業国における資産をみると上位10%が7割を得ている。経済学者のトマ・ピケティは、現在の富の集中は歴史的例外ではなく、資本主義の常態だと指摘します。分厚い中間層が成立していた時代こそが例外だったのです」

―この「中流の終わり」は、先の衆院選でどんな影響をもたらしたと考えますか。
「中道改革連合が惨敗したことが、その表れです。中道がスローガンとした『生活者ファースト』という言葉は、かつては均質な普通の日本人という実体を伴っていました。暗黙の前提として一億総中流の安定した生活があった時代には、生活者という概念が意味を持っていた」
「中道支持が比較的多かった60代以上は、製造業中心の産業構造、終身雇用、安定した社会保障といったシステムの恩恵を肌身で知る人々です。しかし、90年代以降に成人した就職氷河期世代やデジタルネイティブにとっては、『普通の日本人』と言われても、リアリティーのない神話のような世界でしょう。この現実を直視せずに『昭和の夢』を語っても、響かない」

希望がないと不満もない

2026年7月19日   岡本全勝

連載「公共を創る」第264回(7月9日)に、次のようなことを書きました。

NHK放送文化研究所が行っている「日本人の意識調査」「今の生活にどの程度満足していますか」という問いには、2024年では、満足している人(どちらかといえば満足しているを含め)が75%、不満だ(どちらかといえば不満だを含め)は24%です。かつてに比べ満足度が低下していますが、4人に3人が満足しています。

NHKのウェッブサイトに、博報堂生活総合研究所との座談会(2019年6月14日公開)が載っています。そこに、若者の生活満足度が上がっていることについて、次のような趣旨の発言があります。
・・・「今の生活に不満がある」ということは、「これから先良くなる可能性がある」ということであり、今よりもっといい生活があるという期待があると、今の生活に不足があると感じられてしまう。しかし、「将来が今より良くなるわけではない」と考えれば、今の生活に満足するしかなくなる。日本の行方や今後のくらし向きについて、「現状のまま特に変化はない」「同じようなもの」という回答が最も多くなっていることとあわせ考えると、「将来への期待がないから不満もない」と理解できるのではないか・・・

確かに、将来に希望や期待がないと、不満も生まれません。それが、この調査結果の「4人に3人が満足」の内容なら、喜べません。