月別アーカイブ:2026年4月

静かな退職

2026年4月24日   岡本全勝

4月7日の読売新聞に「出世は望まず 最低限の仕事 「静かな退職」じわり 民間調査 働き手の6%該当」が載っていました。
・・・出世は望まず、仕事は必要最低限にとどめる。そんな働き方が「静かな退職」と呼ばれるようになってきた。4年前に米国から発信された言葉で、世界的に認知度が高まりつつある。日本では働き手の約6%が該当するとの調査もあり、企業にとっても見過ごせない潮流になりそうだ。

静かな退職(Quiet Quitting)は、米国のキャリア指導の専門家が2022年、この言葉の意味を説明する短い動画をSNSに投稿し、世界に拡散した。
在宅勤務が普及したコロナ禍から社会経済活動が正常化に向かっていく頃で、「仕事が人生の最優先事項という価値観は劇的に変化した」「出世を目指さないというような人はペースを落とすのも一案」とし、仕事を辞める代わりに必要最低限に抑える働き方は「健全で前向きなことだ」と訴える投稿内容は、広く共感を集めたという。

調査研究機関「パーソル総合研究所」(東京)の調査では、こうした「静かな退職者」は25年、日本国内の勤労者の5・8%を占めたという。
同研究所は、15~69歳の男女1万人に就労意識などを尋ねる定点調査を17年から行っており、「転職や出世意欲がない」、「1か月の残業が5時間未満」など一定項目に該当した人を「静かな退職者」にカウントした。
25年の5・8%は、17年(3・9%)と比べ、1・9ポイント上昇した。男性は20代の2・5%に対して60代が10%、女性は20代が6・3%、60代が17・1%で、年齢層が上がるにつれて高まる傾向があった。

同研究所の分類では、静かな退職者にも、効率よく定時で仕事を終えて自己研さんにあてる「戦略型」や、仕事の成果が低く自己啓発にも積極的でない「無気力型」などのタイプがある。25年は戦略型が全体の25%(21年比4ポイント減)だった一方、無気力型は47%(同13ポイント増)を占め、増加が顕著だった・・・

このような言葉を作らなくても、昔から無気力な従業員はいました。決められた仕事をこなしてくれれば、それで良いのです。困るのは、それすらできず、職場を混乱させる人です。
次のような事例も紹介されています。これは、会社の側にも問題があるようです。
・・・大阪市の運輸会社で働く男性(48)は、自身を「静かな退職者」と意識しているという。
20~30歳代の頃は職場でやりたいことがあり、資格取得の勉強にも励んだ。しかし、会社にそれほど評価されていないと感じ、仕事への熱意が次第に冷めていったという。男性は「給料の範囲の仕事はこなしているつもり。特に昇進したいと思わないし、現状維持でいい」と話す・・・

同時代史は難しい

2026年4月23日   岡本全勝

連載「公共を創る」は、締めの第5章に入り、まずこれまでの振り返りをしています。といっても、250回あまりを振り返るのは大事業です。単に掲載記事を圧縮するのではなく、全体を書き終わっての地点から振り返り、欠けていたところを補ったりすることを心がけています。連載を続けているうちに、考え方が整理できた部分もあります。

それとともに、2019年4月から丸7年かけると、その間に社会も変わり、私の見方も変わります。それを考えていると、つくづく現在を理解することは難しいと思います。
過去との比較で、続いていることや変わった点は良くわかります。しかし、未来への予兆は把握しにくいです。誰も、明日の世界がどうなるのかは、予想できません。できたら大金持ちになっているでしょう。例えば20年前に、スマートフォンが普及して、老若男女ほとんどの人が持つと予想した人はいなかったでしょう。

社会科学での分析とは、比較が主になります。過去との比較か、同時代の他の地域・国などとの比較です。昭和後期の意味は平成時代になって明確になり、平成時代の意味は令和時代になってから明確になりました。未来との比較はできないのです。
現在の社会で芽生えている予兆が、将来大きく広がることもあるのでしょう。どれが広がり、どれが消えていくのか。それは、わかりません。

ドイツの哲学者ヘーゲルの有名な言葉に「ミネルヴァの梟は迫り来る黄昏にようやく飛び始める」があります。この言葉は、哲学が遅れてやってくる、物事が終わってからわかることを表現したようですが、社会科学一般に当てはまるのでしょうか。

世界で進む視力の低下

2026年4月23日   岡本全勝

4月6日の日経新聞に「近視の経済損失、25年後に年間15兆円?」が載っていました。
・・・視力の低下が経済成長の足かせになるかもしれない。2050年に世界人口の半数が近視になり、国内の経済損失は年間15兆円に上るという試算もある。緑内障や白内障を引き起こすリスクも高まるとされる。世界保健機関(WHO)は「近視は重大な問題だ」と警鐘を鳴らす。

人口の4割近くを高齢者が占める25年後の日本。3人に1人が強度の近視を患い、医療機関には視力低下に悩む患者が連日殺到する。膨れ上がる医療費を支える数少ない現役世代も、家族のケアのため離職を迫られる――。視力低下に有効な手立てをとれなければ、こんな未来が待っているかもしれない。
眼病治療薬の開発などを手掛ける窪田製薬ホールディングスの窪田良社長は「近視は単なる視力低下ではなく、労働生産性の著しい低下や失明リスクを招く現代の生活習慣病だ」と指摘する。
眼科医でもある窪田氏が、人口動態の見通しなどを加味して推計すると、最悪のシナリオでは50年に近視による経済損失が年間15兆円に達する。現在は年間6兆円程度で、損失規模は25年で2.5倍に膨らむ。
16年の米眼科学会誌に掲載された論文によると、50年に世界人口の約半数にあたる47億5800万人が近視となる見通しだ。世界全体の経済損失を年間4100億ドル(約60兆円)とする研究もある。

日本の近視人口は増加の一途をたどる。文部科学省の学校保健統計によると、25年度には視力が1.0未満の割合が小学生で4割近く、高校生では7割超に上った。それぞれ19%、53%だった1986年度と比べて大幅な増加だ。
スマートフォンやタブレット端末の普及のほか、新型コロナウイルス禍の感染対策で家の中で過ごす時間が増えたことも拍車をかけたとみられる・・・

図では、世界の人口のうち2000年では23%が近視でしたが、現在は30%を超えています。そして2050年には50%になると予測されています。

定例と企画、異なる仕事

2026年4月22日   岡本全勝

拙著『明るい公務員講座 管理職のオキテ』61ページで、課の仕事を進行管理の観点から3つに分類しました。
1 毎年処理しなければならない定例業務
2 今年中に処理しなければならない重要課題
3 臨時、突発に入ってくる案件

このうち、3の臨時案件は予測が立たず、また、いつまでに何をしなければならないかはわかりません。それを除くと、1の定例業務と2の重要課題とに分けることができます。

この二つは、課長としての管理の方法が異なるとともに、担当職員の仕事の進め方も異なります。
1の定例業務は、まずは決められたとおりに実行することが重要です。決められたとおりのものができていたら、合格です。窓口業務や統計作業はこれに当たるでしょう。知恵の出しどころは、より効率化できないかという工夫です。
2の重要課題は、多くの場合は前例通りや去年通りにはいきません。企画立案、その実行という要素があり、それは1の定例業務にはないことです。どのように進めるかとともに、どのような成果がでるかによって、評価されます。

意外と、この二つの違いが、理解されていないようです。若手公務員が、1の仕事から2の仕事に移って、戸惑うことが多いようです。公務員にも評価制度がありますが、この2つの仕事の区分を明確にせずに実施されている場合があるようです。
この二つの違いは、課長が仕事と部下を管理する場合も、異なってきます。それは、前掲書61ページ以降に書いてあります。

アイデンティティーの危機は何度も来る

2026年4月22日   岡本全勝

4月7日の朝日新聞オピニオン欄「人生、焦り迷いながら」、岡本祐子さん(公認心理師)の「目をそらさず、内省深めて」から。
・・・自分は何者なのかという「アイデンティティー」は、青年期に獲得され、その後の人生を方向づけると考えられてきました。しかし私は、現代社会では青年期に獲得されたアイデンティティーで、その後の長い人生を生き抜くことは難しくなっている、と考えて研究してきました。
現代は、大人になってからもアイデンティティーの危機が何度か訪れることが分かっています。中年期や現役引退期に訪れる危機がそうで、「自分の人生はこれでよかったのか」と悩む人は多くいます。30歳ごろに揺り戻しがくる人もいます。変化が速く、価値観も多様化した時代になり、大人になっても自分をつかみ取ることが難しくなっています。

ただ、アイデンティティーの危機が訪れることは、決して悪いことではありません。自分の価値観を問い直し、納得できる生き方に変えるため軌道修正するチャンスにもなるからです。
中年の危機は「自己の有限性の自覚」とも言えます。体力の衰えを感じ、仕事での限界感もある。「あと何年元気でいられるか」と時間的展望が狭まっていく。競争社会に身を置く人ほど深刻だと思います。

男性と女性を比較しながら中年の危機を研究してきましたが、男性が仕事の話を中心に語るのに対し、女性は仕事と家庭を同じくらい重要視し、家族が健康で幸せに暮らせているかどうかも、人生の評価を左右する傾向がみられました。
危機を乗り越えるのに重要なのは、普段から自分を見つめる習慣をもっておくことです。「なぜあの時に心がざわついたのか」など、自分の思いや感覚、体験を書き出すなど、内省を深めておくと、自分の助けになるはずです。
それから、月並みではありますが、自分で自分を支えきれなくなった時、支えてくれる家族や友人らとの関係性を大事にしてほしいです。公認心理師や臨床心理士ら専門家に相談するのも有益だと思います・・・