「近代発明家列伝」

橋本毅彦著『近代発明家列伝ー世界をつないだ九つの技術』(2013年、岩波新書)を読みました。なぜこの本を読もうと思ったのか、思い出せないのですが(反省)。

なぜこの9人が選ばれたのかは、次のように説明されています。
最初の3人は、時間、動力、空間に関わる技術で、地球規模での一体化をつくる先駆けでした。
ハリソン──世界時刻の計測
ワット──産業革命の原動力
ブルネル──大英帝国の技術ビジョン

次の3人は、音声や通信技術に革命をもたらしました。
エジソン──発明と経営の間で
ベル──電信から電話へ
デフォレスト──無線通信とラジオ放送

最後の3人(4人)は、現代人の活動範囲を飛躍的に拡大させる交通技術をもたらしました。
ベンツ──ガソリンエンジン搭載の自動車
ライト兄弟──空間意識を変えた飛行機
フォン・ブラウン──宇宙ロケットとミサイル

皆さん、どれだけ知っていましたか?
もう一つ、この本が訴えているのは、技術が革新的なだけでは普及せず、それを社会の需要に適合させること、「売れる」ようにすることが必要です。この部分は、発明家ではなく、起業家の役割になります。本人が行う場合もあります。「人に知られることなく研究していた」では、社会に認められず、普及もしません。時には、発明家の意図とは違う目的で使われる場合もあります。
科学の社会史

鎌田浩毅先生「天災危機の今 伝わる表現で」

4月4日の読売新聞夕刊「言葉のアルバム」は、鎌田浩毅先生の「天災危機の今 伝わる表現で」でした。
・・・4年前の2021年3月、京都大で行った最終講義には約100人が詰めかけ、インターネットでの視聴者は1500人を超えた。最終講義は異例の前置きで始まった。
「過去を振り返っている場合ではない。これから大変なんですよ。日本列島が。未来に向けて皆さんに伝えたいことがある」。少し早口で訴えたのは、南海トラフ地震や富士山噴火への警告だった。

テレビや雑誌で自然災害について分かりやすく語るコメンテーターとしておなじみの顔になった。ところが、1997年に京大教授に就任した当初、講義の評価は散々だった。英語を交えながら90分。学生に「難しすぎて理解不能」と陰口をたたかれた。岩石や地層の基礎研究に没頭してきたことが災いした。
なぜ評判が悪いのか――。理由を探ろうと講義を録画し、研究室の学生に“ダメ出し”をしてもらった。「声が小さくて早口」「専門用語がわからない」「内容を盛り込みすぎ」などの指摘が続き、「好きな研究を追究しているだけでは、防災に敏感になってもらえない」と考えを改めた・・・

この欄は、私も2019年4月12日に、「批判受けても復興の決断」として取り上げてもらいました。版画は記念にいただき、執務室に飾ってあります。

鎌田先生が、PIVOTに出演して、新著を解説しておられます。

「南海トラフ地震と首都直下地震/東日本大震災を超える甚大な被害/首都直下地震はいつ起きてもおかしくない/南海トラフ地震は2030年代に起こる/防災知識が未来を守る」
PIVOTは、「ビジネス」+「学び」に特化した映像コンテンツを毎日無料で配信しているとのことです。

福井ひとし氏の公文書徘徊

アジア時報』4月号に、福井ひとし氏の「連載 一片の冰心、玉壺にありや?――公文書界隈を徘徊する」の第1回「一五〇年に一度だけ、摂政設置の詔(御署名原本周辺)」が載りました。詳しくは、記事を読んでいただくとして。

「一片の冰心、玉壺にありや」とは、難しい表現ですが、唐の王昌齢の詩に基づいた言葉だそうです。唐詩と公文書の関係は、本文を見てください。筆者の学識と意図がわかります。

今回の話は、1921年(大正10年)に書かれた「摂政設置」の公文書を扱っています。大正天皇がご病気になられ、皇太子(後の昭和天皇)が摂政になります。では、その決定は、どのようになされるのか。大正天皇が御病気で指名・署名できない(できないから摂政を置くんです)となると、皇太子が行いますが、すると自分で自分を摂政に任ずることになります。ほんとにそれでいいのか。法的な根拠は? 筆者だけでなく、当時のやんごとない人たちも心配していたようです。牧野宮内大臣たちはどう説明するのか。
今回は、それだけでなく、もう一つの事件が絡んできます。摂政設置準備を進めていた原敬首相が、突然暗殺されるのです。摂政設置作業はどうなってしまうのか。
二つが絡むので、この文章は難しいですが、それなりにスリリングです。お楽しみください。

最後に、略歴が載っています。現在は国立公文書館首席研究官です。「役人時代、国会予算委員会で答弁、総理と米大統領を先導、両憲法の原本と毎日一緒に暮らしている、のが人生三大レガシー」とのことです。
挿絵も、本人が書いているとのことです。

14歳で83.2%が近視

3月19日の朝日新聞に「子どもの近視、発症率8歳ピーク 14歳で83.2%が近視、進んだ若年化」が載っていました。
・・・研究グループは、国が管理するレセプト情報などに関する全国規模のデータベースを活用し、2014~20年の間で0~14歳児での近視・強度近視の登録数を調べ、有病率と年間発症率を分析した。
その結果、20年10月1日時点で近視(強度近視も含む)と診断された0~14歳児は約550万人で、有病率は36・8%。近視の有病率は年齢とともに蓄積していき、14歳では83・2%まで上がった。性別で見ると、女児の有病率が男児より高い傾向だった。
年齢ごとの近視の新規発症率は8歳が最も高く、20年では1万人あたり911人。3~8歳の各年齢での発症率は14年から20年にかけて増加傾向だった・・・

・・・田村寛・京大国際高等教育院教授は「近視の原因としては7割が遺伝的要因で3割が生活習慣など環境要因とみられてきた。子どもたちの生活の中で屋外での遊びが減る一方、デジタル機器を使ったゲームや勉強などの手元の作業が増えた結果、近視になるのが若年化した可能性もある」と指摘する・・・

中学で8割とは驚きです。
子どもがスマホを長時間見るようになると、近視は進むでしょうね。猫背も。

連載「公共を創る」第218回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第218回「政府の役割の再定義ー政策の大転換に必要な党内の支持確保」が、発行されました。

首相や各省が考えた政策が、与党の抵抗によって進まない場合があることを説明しています。その原因は、内閣の政策決定過程が政府に一元化されず、与党にも政策決定の仕組みがあり、与党事前審査を通る必要があるからです。
それを打破しようと挑戦したのが、小泉純一郎首相でした。「自民党をぶっ壊す」と唱えて総裁選に勝ち、それまでの自民党の政策を変える改革を進め、その際には党内の反対も押し切りました。経済財政諮問会議での議論と決定は、与党との調整なしに進められることが多かったのです。その頂点が、郵政民営化です。

このような政府・与党二元制や与党事前審査制度は、日本独特のようです。国会での審議を空洞化するような仕組みですから、議会制民主主義の思想からは理解しにくいでしょう。
この問題を解消するため、旧民主党は、政府・与党の一元化を目指しました。選挙や国会対策を指揮する幹事長と、政策責任者の政調会長を入閣させ、「政府・与党一元化」を目指しました。もっとも、すべてが実行されたわけではなく、また実行しても直ちに所期の効果を発揮したわけではありません。

各府省が作った法案を国会に提出できないことが起きる原因は、与党事前審査とともに、与党各機関での決定に全員の賛成を要するという「全会一致」という慣例です。