プラスチックごみ半分は、56企業が製造

4月27日の朝日新聞夕刊に「プラごみ半分、56企業製造 海岸・公園に廃棄、元々の生産者は――米大学など調査」が載っていました。

・・・屋外に捨てられたプラスチックごみの元々の生産者を調べると、その半分は56の企業で、食品や飲料、たばこの企業が目立つ。そんな調査結果を、米カリフォルニア大や、環境NGO「グリーンピース」などの研究チームが発表した。
チームは、2018~22年に84カ国の海岸や公園、川などであった計1576回の清掃活動のデータを分析。5ミリメートルより大きいプラごみは約187万個見つかったという。
回収されたプラごみのうち、企業名が確認できたのは約半分で、56社の名前が判明したという。企業名が確認されたプラごみの上位5社は、食品・飲料メーカーのコカ・コーラ(11%)、ペプシコ(5%)、ネスレ(3%)、ダノン(3%)、たばこ大手のアルトリア(2%)だった・・・

・・・メーカーなどの責任を、生産や消費段階だけでなく、廃棄やリサイクルまで広げる「拡大生産者責任」という考え方が認知されてきている。研究チームの1人で、米ムーアプラスチック汚染研究所のウィン・カウガー氏は「この56のグローバル企業には、プラスチック汚染に対して断固とした行動をとる責任がある」と指摘する・・・

『政治はなぜ失敗するのか 5つの罠からの脱出』

ベン・アンセル著・砂原庸介監訳『政治はなぜ失敗するのか 5つの罠からの脱出』(2024年、飛鳥新社)を紹介します。

宣伝文には、次のように書かれています
「政治はなぜ常に私たちを失望させるのか? 古代ギリシャから気候変動条約、ブレグジットまで、私たちが集まると近視眼的選択の「罠」に落ちてしまう。それを回避す
べく、直感に反する最近の研究成果、例えば政治・社会的平等の増加が大きな不平等をもたらし、不平等の高まりが民主主義を促す逆説などを活用して、現実政治の罠から脱出する方法を生き生きと説明する。」

監訳者である砂原庸介教授の解説が、わかりやすいです。
民主主義、平等、連帯、安全、繁栄という5つの概念が、それぞれに罠を抱えています。民主主義にあっては、集合的な意思決定と個人の選好がが必ずしも一致しないこと。平等にあっては、結果の平等が個人の自由を求める行動によって損なわれること。連帯にあっては、人びとの連帯にただ乗りして利益を得たいと思うこと。安全にあっては、安全を守るための制約から自分だけは自由になりたいこと。繁栄にあっては、将来の繁栄を実現するために抑制すべきなのに当面の利益を確保したいこと。
よりよい社会を実現するために、いずれも集団と個人との間で、あるいは将来と現在の間での「我慢すべきこと」を、我慢できずに個人や短期的な願望を選択してしまうのです。
では、どうすればこの罠から脱出できるのか。重要視されるのが、制度と規範です。公式、非公式に私たちの行動に方向付けを与えてくれて、罠に陥ることを防ぐのです。

このように、政治の分析だけでなく、処方箋を提示するのです。砂原教授は次のように指摘しています。
「近年の政治学研究は、他の社会科学分野と同様に、方法論の精緻化が進んでいる。それによって、少しずつ因果関係を理解することができるようになっているのは確かで、特に政治制度がどのように人々の行動に影響を与えるかについての知見は広がっている。しかし、発見された因果関係が社会の中でどのような意味を持つのかは確定しにくく、得られる知見は技術的な性格が強くなっていて『このようにすべき』という指針を生み出すことが難しくなっている。そのような中で、本書の素晴らしいところは、実証研究の積み重ねの上に立ちながら、その含意を引き出して包括的な社会ビジョンを示し、そこに至る道筋を議論していくところだ。」
参考「実用の学と説明の学」「文系の発想、理系の発想

小学生、知らない人とSNSでやり取り

4月26日の読売新聞東京版に、「「知らない人とSNSでやり取り」小学1~3年生の22%、うち3割は自分の画像送受信…都調査」が載っていました。

・・・SNSなどで知らない人とやり取りしたことがある小学1~3年生のうち、約3割が自身の画像を送受信していたことが、東京都の調査でわかった。都はSNSの使用を制限できる「フィルタリング」を使うなどして、トラブルを防止するように呼びかけている。

調査は今年1月5~19日、小中高生にスマートフォンやタブレット端末を持たせている保護者2000人を対象に行った。
子どもがSNSなどで知らない人とやり取りしたことがあるかを尋ねたところ、19・0%が「ある」と回答。年代別では、小学1~3年生が22・6%に上り、高校生が20・6%、中学生が18・4%、小学4~6年生が14・2%と続いた。
知らない人とやり取りした内容を聞いた質問では、全体の61・7%が「メッセージの送受信」と回答。次に多かったのが、「ゲームでの対戦やチャット」の37・5%だった。「顔や身体の写真・動画の送受信」は20・3%。年代別で最も多かったのは、小学1~3年生で33・6%だった・・・

仕組みの解説と機能の評価

仕組みと機能、その使い方の違いを考えています。
古くは、『地方交付税・仕組みと機能-地域格差の是正と個性差の支援』(1995年、大蔵省印刷局)を書いたときです。ここで、「仕組みと機能」を使いました。「制度の仕組みだけでなく、機能、結果、歴史などの角度から多面的に解説してあります」とうたってあります。
交付税制度の解説書は、すでにいくつかありました。これを書くときに、従来の「仕組みの解説」では、価値がないなあと思ったのです。1954年に制度が作られて、私が課長補佐の時(1992年頃)は、すでに定着していました。そこで、「仕組みの解説」だけでなく「果たしている機能」を書いたのです。戦後の復興期から高度成長を経て、財政や日本社会でどのような機能を果たしているかを説明しました。仕組みの解説は、制度を知っていたら書けるのですが、果たしている機能は、制度を知っているだけでは書くことができません。

政治学や行政学の教科書も、仕組みの解説で終わっているものが多いです。代議制民主主義や基本的人権の尊重も、趣旨や制度の解説であって、それが実際にどのように運用され成果を上げているかが書かれていません。戦後半世紀にわたって、男女同権は憲法に掲げられながら、実質的ではありませんでした。ハンセン病患者の隔離においても、機能していなかったのです。

法律学も同様です。法律の規定と趣旨を学ぶことは重要なのですが、それがどのような機能を果たしているかを合わせて学べば頭に入るでしょう。また、たくさんの法律が制定されていますが、どれだけ効果を発揮しているかを検証すべきです。法律や制度は作っただけでは、機能しません。絵に描いた餅ということわざもあります。この項続く

曖昧な言葉「不適切でした」

4月26日の朝日新聞オピニオン欄「「不適切」への批判、適切?」、梁英聖さんの「あいまいに逃げず、基準を」から。

・・・差別や人権侵害の疑いがある問題を語る際に「不適切」という言葉を使うことは、やめるべきです。
不適切さの中身を具体的に言わずに済んでしまう言い方だからです。実際、差別をした人が差別だと認めずに謝る際に最も便利な言葉として使われているのが「不適切でした」です。
残念ながら日本では、差別や人権侵害を明るみに出すべき報道機関までが「先ほど不適切な発言がありました」といった言い方を使っているのが実情です。

あいまいな言葉で謝るのは責任から逃げている証拠。まずは、公人がこの言葉で逃げるのをやめさせることから始めなければなりません。問題になっている事実は何なのか、どのような基準に照らして問題なのかを具体的に質問で追い詰める作業が重要です。
ひとくくりに不適切だと言われる言動の中には、人権侵害や差別といった社会正義に反する法規制すべき行為もあれば、芸能人の不倫のようなそれ未満のものもあります。前者ならアウトですが、両者の境界をあいまいにするために、不適切という言葉が使われます。
だから、人権侵害や差別のない社会をつくるには、まず両者の間に線を引くことが絶対に必要なのです・・・