目的地にゆっくり行く

2月14日の読売新聞「余白のチカラ」に「近道でなく 寄り道ナビ 絶景・名所巡り 運転楽しく」が載っていました。

・・・「この先で道を一本外れましょう」。スマートフォンからルート案内が流れると、千葉県君津市の山岳道路「房総スカイライン」を走っていた岩下宗伯さん(48)はハンドルを左に切り、林道に入った。
昨冬、妻をドライブに誘い、千葉・房総半島に向かった。川崎市の自宅を出て、木更津市内の道の駅に着くと、道案内アプリ「SUBAROAD(スバロード)」を起動。半島最南端の野島崎を目指した。
このアプリは、カーナビのように目的地までの最短ルートを案内するわけではない。時には脇道にそれ、知る人ぞ知る絶景や名所へとドライバーをいざなう・・・
・・・カーナビなら約70キロ、1時間10分の道のりが、約100キロ、3時間のドライブとなった。「ナビでは案内されない場所に行けて、走りがいがあった」と岩下さんは満足そうに話す・・・

いいですねえ。日本社会も個人も、がむしゃらに走ってきました。仕事は相変わらず「早く」とせき立てられますが、余暇や老後はゆっくりと行きたいものです。
私の休日の孫との散歩も同じです。途中でいろんなところに寄り道して、ゆっくりと時間を過ごしています。
かつて交通安全標語に、「狭い日本、そんなに急いでどこに行く」という名文句がありました。

連載「公共を創る」第178回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第178回「政府の役割の再定義ー職員育成の見直しに向けて」が、発行されました。前回から、官僚の「やりがい」を議論しています。

霞が関全体の政策を見てみると、重要な課題が変わってきたことも挙げられます。例えば、発展途上期は、道路整備や義務教育に当たる教職員の確保は国家にとって大きな課題でした。しかしそれらの仕組みが確立し、定着しました。国が基準と計画をつくり、財源を確保しておけば、自治体に任せても問題なく運営されるでしょう。国民は官僚に対し、いつまでも補助金配分作業を続けることを期待していません。官僚には、そのような作業を手放し、能力を新しい企画に使ってほしいです。

次に雇用者側が取り組むべきは、育成の見直しです。かつては意識しなくても、適当な競争と職場での研鑽によって組織にとって必要な人材は得られると考えられ、実際にそれでほとんどの組織は対応できてきたのです。しかし、雇用者側にとっても働く側にとってもうまくいかなくなり、このままではだめだという意識が広がっています。

一言で言うと、これまでの技能の習得は「周囲の先輩を見て覚えよ」であり、育成手法は「ところてん式の人事異動」でした。それは典型的なオン・ザ・ジョブ型研修と画一的な登用方式ですが、実際には本人の適性や希望はあまり意識せず、能力開発は本人任せで、要領よく前例通りの仕事を覚えることを求めていただけでした。雇用側としての戦略や配慮より、人事担当の効率性を重視した人事行政だったと言わざるを得ません。
さらに、人材育成だけでなく、「人材確保」と「職場環境の整備」にも問題は拡大しています。

職場で求められる専門性について、政策分野別専門性とともに、機能別専門性についても指摘しました。すなわち前者を縦割りとすると、後者は横割りです。会計、発注、公金徴収、調査・統計、文書管理など、どの分野にも共通する定型的な業務です。これらの業務が民間委託できないのは、本来事務と一体をなしているからです。
これまでは、その席に長く座った職員が専門家となっていたようです。それではすまなくなりました。特に技能の習得が必要となっているものに、電算化、文書管理、検査監督業務などがあります。

再雇用職員の戦力化

1月31日の日経新聞経済教室、奥田祥子・近畿大学教授の「人事制度を現役並みに シニア層戦力化の課題」が勉強になりました。多くの職場で、悩んでおられると思います。詳しくは本文を読んでいただくとして。現役世代の給与体系を変えないと、解決しないようです。

・・・まず、定年後の働き方の現状を整理する。労働政策研究・研修機構の「60代の雇用・生活調査」(19年実施)によると、60〜64歳男性のうち「会社、団体などに雇われて」が最多で70.7%を占めた。雇用形態は非正規雇用が58.1%で、正社員(37.1%)の1.6倍である。
賃金と仕事内容はどうか。パーソル総合研究所が21年に行ったシニア従業員への調査によれば、定年後再雇用の人々(男性405人、女性186人)の年収は定年前と比べ、平均して44.3%低下していた。ところが半数が「定年前とほぼ同様の職務」(55.5%)で、「定年前と同様の職務だが業務範囲・責任が縮小」(27.9%)と合わせて8割強がほぼ同じ職務に就いていた。
再雇用の多くが1年単位の契約更新制の非正規社員だが、仕事が変わらないのに正社員と差をつけるのは、本来は「同一労働・同一賃金」の原則(パートタイム・有期雇用労働法)に抵触する。処遇に合わせて仕事の質や責任の程度を下げる企業もあるが、本末転倒な面は否めない。

筆者の長期継続インタビューを中心とする研究では、社会の中枢に位置する男性は、多くが「出世競争に勝たなければならない」「高収入を得て、社会的評価を得るべきだ」といった旧来の「男らしさ」のジェンダー(社会的・文化的性差)規範にとらわれている。その結果、年収や待遇の低下は、モチベーション低下に直結する。
定年前に部長など上位の役職を経験した人ほど不満を募らせ、働く意欲を喪失する傾向が強いことが、筆者の調査からも明らかになっている。具体的には、「元部下にあごで使われるのが我慢ならない」「定年までの実績を否定されたようでやる気が湧かない」といった声が聞かれた。
シニア層の意欲低下には、こうした人生やアイデンティティーに不安や葛藤を抱く「中年の危機(ミッドライフ・クライシス)」が長引き、定年を境に、抑うつ症状などの心理的危機の新たな波が押し寄せるケースが増えていることが背景にある。実際、「仕事にやりがいがない」「自らの働きが会社に認められていない」などの声があった。

この主因として挙げられるのが、定年後のシニア社員に対する人事制度である。定年に達すると、機械的に以前適用されていた職務や役割、能力によってランク分けする等級制度からは対象外となり、人事評価も行われないケースがほとんどだ。成果報酬、多面評価などを取り入れているような企業であっても、定年後は突如、通常の人事制度から排除される。
多くが定年前後でほぼ同じ業務に就いているにもかかわらず、期待される役割や責任が明確に示されず、報酬も激減する。どのように貢献すればよいのかわからないまま、期待役割を担い、会社の役に立っているという実感を抱きにくくさせていると考えられる・・・

ウクライナ代表団への講義2

今日2月15日は、国際協力機構のウクライナ代表団への復興支援の講義に行ってきました。去年5月に行った「ウクライナ代表団への講義」の2回目になります。今回の参加者は、中央政府・復興庁の幹部や、自治体の幹部です。ニュースでよく耳にする市からも参加しておられます。近くに砲弾が落ちるそうです。

私の講義は、今回の行程の冒頭、導入部です。東日本大震災からの復興の全体像です。津波被災地ではどのように成し遂げたか、原発事故被災地ではどのように取り組んでいるかをお話ししました。来週は、現地を見てもらいます。
今回の講義内容や現地視察の日程案は、復興庁に助言してもらいました。各省も協力してくれます。

途中から質問の嵐になり、盛り上がりました。途中で切らないと、私の話が前に進まなくなりました。室内が暑くなり、参加者から「暖房を切ってください」との要望がありましたが、職員は「すでに送風に切り替え、さらに冷房に切り替えます」とのことでした。ウクライナはまだ寒いのに、日本は春を思わせる陽気であることも、理由でしょうが。

私の次に、宇野・復興庁統括官が話をするために来ていて、質問に対する回答を助けてくれました。
ウクライナ語の通訳を介してなので、どのように訳されているかも分からず。通訳を介しての講義は、質問が出ると安心できます。どこまで伝わっているか、また伝わっていないかが、わかるのです。今回も、持ち時間の半分は質疑でした。

仲間と離れると研究は進まない

1月29日の朝日新聞夕刊に、「新しいアイデア、欲しいなら」が載っていました。

・・・コロナ禍をきっかけに定着したリモートワークは、創造的な仕事とは相性が悪いかもしれない。米国と英国の研究チームが、計2400万件に及ぶ学術論文と特許出願を調べ、そんな結論を出した。既存のアイデアを発展させることはできても、「破壊的な革新」にはつながりにくいという。

研究を発表する時は、その分野の過去の研究を参考文献として引用するのが通例だ。単独で引用されることの多い研究は、過去の蓄積に負うものが少ない革新的なものとみなせる。この基準でみると、メンバーが同じ場所で研究した論文は、革新的なものの割合が28%だったのに対し、メンバー間の距離が600キロ以上では22%に。特許でも同様で、67%から55%に下がった。

チームはまた、ほかのメンバーから離れた場所にいる研究者は、研究のアイデアを出したり学術論文を執筆したりといった創造的な仕事に関わる機会が減ってしまうことも明らかにした。この傾向は、有名研究者が若手と組んだケースで特にはっきり表れた。実績の少ない若手は、実験をしたりデータを分析したりといった技術的な作業を担うことが増えるという・・・