高齢者向け地域食堂

5月17日の日経新聞夕刊「シニアの食堂で高齢者の孤立を防ぐ」から。

・・・一人暮らしで食生活に悩んでいます。1人で食べるのでは料理に張り合いがなく、出来合いの弁当や総菜を買って済ませてしまいます。栄養を考えた食事を、誰かと話をしながらとりたいです。シニア向けの地域食堂があると知りました。どんなところでしょうか・・・

・・・「これがいまの私の生きがいなの」。東京都内で一人暮らしをする上山美沙子さん(85)は4月、練馬区の一軒家を会場に月2回開かれている高齢者向けの地域食堂「食のほっとサロン」を訪れ、生き生きとした表情で話した。
食堂には地元のお年寄りが集い、食卓をみんなで囲む。運営するNPO法人ハッピーひろば(同区)が1食あたり600円で提供している。
調理スタッフが作るこの日のメニューは、宮城県産モウカザメのピカタ、新じゃがいもをつかった肉じゃがなど。上山さんは仲間と世間話をしながら食べるお昼ご飯を何よりも楽しみにし、食後は近所のカフェに移動して長話にふけるのがお決まりだ。「私は皆勤賞よ」と笑う。

国勢調査(2020年)によると、50歳時点の未婚率は男性で3割弱、女性で2割弱だった。未婚率は上昇傾向にあり、高齢者の単身世帯率も上がっている。65歳以上の全世帯に占める単身世帯の割合は、00年に約20%だったのが20年には約30%となった。
単身高齢者の増加に伴い課題となるのが、栄養不足や孤立だ。1人だからと同じものばかりを食べると栄養が偏り、食事を通じたコミュニケーションが減ることが心身の不調につながる要因にもなり得る。

こうした問題の解決策として、高齢者向けの地域食堂が注目されている。各地に先駆けて17年から「シニア食堂」として取り組みを始めたのが、千葉県流山市のNPO法人東葛地区婚活支援ネットワークだ。
現在は流山市で、月に1度のペースで料理交流会を開く。50人以上の登録会員がおり、毎回30人ほどが料理交流会を訪れる。料理が得意なボランティアがレシピを持ち込み、訪れた高齢者はグループに分かれて調理し食べる。孤食を防ぐとともに、あまり料理をしたことがない人でも自炊できるようになる「食の自立」の後押しも活動目的の一つとする・・・

大阪の日本画展

東京ステーションギャラリーの「大阪の日本画」が、よかったです。
江戸時代から戦前まで、大阪は経済力のある商人の町でした。文化を支える力があったのです。
文楽は有名ですが、日本画も商人たちが支えました。残念ながらそれらを見せる施設や機会がなく、知られていません。

マイナンバーの構造

5月25日の日経新聞に、大林尚・編集委員が、「マイナ失策に15年前のトラウマ 個人情報、分散管理あだに」を書いておられました。

・・・健康保険証の機能を載せたマイナンバーカード(マイナ保険証)に他人の情報がひもづけられている事例があると、加藤勝信厚生労働相が記者会見で明らかにしたのは今月12日だ。厚労相は「いま一斉にチェックし、こうしたことが起こらぬよう入力時に十分に配慮してもらうことを徹底させる」と対応策を述べた。
他人の情報が誤入力されたケースは2021年10月~22年11月に7300件あまり。健康や医療に関する情報は個人情報のなかでも極めてセンシティブだ。誰もが赤の他人になど絶対にみられたくあるまい・・・

・・・実は、ミスが表面化することは政府自身が予見していた。マイナカードの発行やマイナンバーシステムを運用する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が2月に自治体向け文書で警告した。
マイナンバーシステムの情報連携で他人の情報を連携(ひもづけ)するケースが頻発しており「追記処理」と呼ぶ訂正作業を急ぐように、との指示だ。

ミスは情報提供ネットワークシステムがマイナンバーや個人を特定する基本4情報(氏名、住所、性別、生年月日)を介さずに「みえない番号」を使ってやりとりしているという事情に起因する。ひもづけをする担当者は個人を特定する情報に接しないので、照会した本人の情報かを確認するすべがないのだ。
なぜこんなやり方か。万一、情報が漏れてもプライバシーを守れるというのが表向きの政府の立場だ。だが真の理由は、総務省が違憲訴訟を避けたいがために個人を特定できる情報をシステムに流さない方針を徹底させていることにある。

歴史をひもとこう。住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)はプライバシー権を侵害し違憲だとして、住民が同省などに個人情報の削除を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は2008年「住民サービスの向上や事務効率化という正当な目的で使われ、情報漏洩などシステムの欠陥もない」として住基ネット合憲の判断を示した。その際の条件が「行政事務で扱う個人情報を一元管理できる主体が存在しないこと」だった。
欧州各国の番号制度は一元管理が主流だが日本はこの判例がトラウマになり、総務省は一元管理の回避を最優先してきた。個人情報は保有機関ごとに分散管理し、それぞれに「みえない番号」をつけるやり方だ。
以来15年。この間にデジタル技術は長足の進歩を遂げ、プライバシーの「守り方」もデジタル時代に即したやり方が適用されつつある。人手による情報のひもづけを変えないかぎり、いくら確認を徹底してもミスは完璧には防げまい。一元管理への移行を検討するタイミングではないか。
むろん堅固なセキュリティー対策が必要なのは言うまでもない。デジタル・警察両庁はマイナカードに運転免許証の機能を載せる計画のピッチを速めようとしている。万人がマイナカードを安心して使うのに足りない視点は何か。政府を挙げて再考するときだ・・・

連載「公共を創る」第152回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第152回「試案-国家の役割と機能の分類」が、発行されました。

前回から、第4章3「政府の役割の再定義」に入り、政府の役割を整理しています。まず、2001年に実行された省庁改革の際に示された、国家機能の4分類と行政目的別の機能分類を説明しました。
今回は、私が試みに作った、国家の役割と機能の分類を示しました。前回の分類は国家から見た分類ですが、今回の分類は国民生活から見た分類です。

これらの分類に載せた行政分野は現在取り組まれているもので、それぞれに必要であることは確かです。が、私が問題にしているのは、政府と行政が取り組まなければならないものであるにもかかわらず、十分に対応されない重要課題は何か、それをどのように行政の課題として明確化し、どのような手法で対応するのが効果的か、ということです。
私たちが考えなければならないのは、この表に載っていない新しい課題は何かです。

アメリカ政府の経済戦略

5月18日の日経新聞オピニオン欄、小竹洋之コメンテーターの「オブラートに包む米国第一」から。

・・・米バイデン政権が「ニュー・ワシントン・コンセンサス」と称される経済戦略の理論武装に躍起だ。安全保障の強化、成長の促進、そして温暖化の防止を目指し、政府が繰り出す産業・通商政策などのパッケージである。
サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)やイエレン財務長官が4月の講演で体系化し、国内外で話題を呼んだ。19〜21日に広島で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、バイデン大統領が要諦を説くという。

1989年の冷戦終結後に普及したワシントン・コンセンサスは、市場の機能を尊ぶ「小さな政府」の政策体系だ。米政府と国際通貨基金(IMF)・世界銀行が推奨し、経済運営の手本として長く影響力を行使してきた。
しかし産業の空洞化、地政学上の競争、気候変動、格差の拡大という4つの課題に直面し、「新たなコンセンサス」が求められているとサリバン氏は説く。国家の介入を重んじる「大きな政府」の政策体系への転換である。
市場の「見えざる手」をつかんでは持ち上げるかのごとく、政府が進路を指示してきた――。米経済学者のスティーブン・コーエン氏らは2016年の著書に、市場ではなく政府こそが米国を繁栄に導く主役だったと記した。
新コンセンサスの哲学は、その延長線上にある。同時に「米国第一」の野心をオブラートに包み、トランプ前政権より穏当な経済ナショナリズムや保護主義を正当化するための方便でもある・・・

記事には、旧ワシントンコンセンサスの10政策と、新しいワシントンコンセンサスの5分野が表になって載っています。
自由主義、市場経済主義のアメリカが、このような形で政治が経済を主導します。