5月22日の日経新聞、アンジャナ・アフジャ、ファイナンシャルタイムズ・サイエンス・コメンテーターの「孤独がもたらす健康被害」から。
・・・英シェフィールド・ハラム大学の孤独研究センターの責任者アンドレア・ウィグフィールド教授は孤独と社会的な孤立は違うと指摘する。後者は一人暮らしかどうか、友人や家族はいるかといった客観的指標で判断する。一方、孤独は社会的な結びつきが不足していると各人が主観的に認識する感情だ。
マーシー氏は孤独が1日あたり15本の喫煙に相当すると断言する。この驚きの数字は148件の研究結果を対象にした2010年のメタ分析で証明された。これにより年齢、性別、基礎疾患などにかかわらず、社会的な結びつきが強い人は弱い人に比べ生存率が50%高いことが結論づけられた。同時に、孤独は死亡に関し運動不足や肥満より上位のリスクファクターに位置づけられ、喫煙や過度な飲酒と並んだ。
英イングランド高齢化縦断調査(ELSA)でも、同様の残念な結果が明らかになっている。02年に始まったELSAは50代以上の住民数千人を対象とし、健康状態、体重、収入、社会的活動について2年間隔で追跡調査をしている。その結果、孤独や社会的な孤立とうつ病、認知症、心臓発作、心身の衰弱などの間に関連性が見られた。
相関関係を因果関係と解釈できるだろうか。人類が社会的動物として進化する過程で、仲間と一緒にいたいという根源的な欲求が備わったという説がある。欲求が満たされないと精神的なストレスとなり、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌量が増えるなど生理現象が誘発される。ウィグフィールド氏は孤独感が「闘争・逃走反応」を引き起こし、炎症や白血球の増加を促しているようだと説明する。
ELSAを統括する英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのアンドリュー・ステップトー教授は「社会的に孤立し孤独を感じる人は喫煙、運動、食事などの面で生活習慣が不健康になりがちだ」と強調した。
国民全体の健康増進に向けて孤独の対策を打つ必要性は明確で、孤独感が慢性化する前の取り組みが理想的だ。
英国で孤独問題に取り組む団体は手始めに近所の人に挨拶することを勧める。共通の趣味や関心を持つグループも仲間との交流の機会を提供してくれる。他人の手は借りたがらないが、他人に手を貸すことはいとわない男性にはボランティア活動がいいという・・・