自社製品と他社製品を公平に比較する

日経新聞「私の履歴書」4月14日、吉田忠裕さんの「インドネシア」から。

・・・シンガポールに次ぎ、香港でも82年にアルミサッシの生産・販売を始めた。次に照準を合わせたのがインドネシアで、86年にアルミ建材で海外初の一貫生産工場をもつ現地法人を設立した。
工場建設の際、押出機を2台導入することになった。当社の工作機械部門も押出機を独自開発していたが、私は費用対効果が最も高いものを選びたいと考え、社内の工機部門と社外の5社で相見積もりを取ろうとした・・・

・・・私は各社の見積もりを見てヒアリングもした後、自社の押出機に「ノー」を突きつけた。社内の工機部門は「価格では絶対に負けない」と意気込んでいたが、メンテナンスを含めたサービスに問題があった。最終的には総合判断で宇部興産(現UBE)1台、当社の工機部門1台になった。
これが社内に波紋を広げた。先に「川上遡上主義」と書いたが、製品の質を高めるために材料や機械まで内製化するのは創業社長、吉田忠雄の経営方針であり、当社のDNAと言える。工機部門が2台納入できて当然と考えていたから、私を「非国民」と非難する声が上がった。
私は内製にかける情熱や努力を否定したわけではない。だが社外との競争に勝つことが条件のはずだ。いい事例を残したと思っている・・・

子どもが幸せに育つ社会

4月1日から、こども家庭庁が発足しました。4月6日の朝日新聞に「幸せに育っていける社会へ」という特集が載っていました。関係する指標が、10年前、5年前、直近と比較して載っています。

・・・日本の子どもの心の幸福度は、先進国で何位か。
答えは、下から2番目だ。
ユニセフ(国連児童基金)の研究所が2020年にまとめた報告書で、日本の子どもの「精神的幸福度」は、先進38カ国で37位とされた。各国の子どもの生活の満足度や自殺率を比較した結果だった。

大人にとっては目を背けたくなるデータかも知れない。子どもと若者が年々、厳しい状況に追いやられていることは、国内データも物語る。
「3・5倍」
10年前と比べて、児童相談所が対応した虐待の相談件数は、これだけ増えた。5・9万件(11年度)から20・7万件(21年度)に達している。過去最多だ。
「1・5倍」
これも10年前と比べたもので、自殺で命を落とした小学生、中学生、高校生の人数の増加率だ。12年に336人だったが、22年は514人に増えた。少子化と言っているそばで、過去最多になった。
「3・9倍」
これは、いじめのうち生命、心身、財産に重大な被害が生じた疑いのある重大事態の件数がどれだけ増えたかを示す数字だ。データを取り始めた13年度の179件と、21年度の705件を比べた。
個々の体験に耳を傾けると、困難に直面した子どもたちの中には「たすけて」が大人に届かず、こぼれ落ちる現実も見える・・・

『縛られる日本人』2

縛られる日本人」の続きです。本の6ページと21ページに、次のような日本人の発言が紹介されています。
「日本は、人間ファーストではなく、労働ファーストです」

これは正鵠を得ています。
貧しい時代は働かないと食べていけないので、多くの日本人は、百姓として朝から晩まで働きました。会社勤めになっても、その勤勉さを持ち込みました。勤勉は、日本人の美徳です。

これがおかしくなったのは、バブル期から平成時代です。「24時間戦えますか」と栄養ドリンクの宣伝が流行ったのは1989年でした(もっとも同時期に「5時から男」も流行っていました)。経済成長期の象徴である「サザエさん」では、波平さんもマスオさんも家で晩ご飯を食べています(時々、駅前で飲んでいますが)。

長時間労働は、霞が関の官僚の代名詞でした。それはまた、一部のエリートの「自己満足」でもありました(私もそうでした。が、年がら年中長時間残業をしていたのではありません。そうでない時期もある「季節労働者」でした)。「エリートなんだから仕方ない」と、本人も家族も社会もそう考えていたのです。
ところが、その長時間労働が、従業員一般に広まったのです。従業員は、勤勉さを会社に対して主張させられたのです。美徳どころか、家庭や私生活を犠牲にするという、変なことがまかり通るようになったのです。これは「男社会」でしかできないことであり、家族を泣かせていたのです。経営者たちが、それを変だと思わなかったことに、問題があります。
もちろん、これは都会の会社などに当てはまる事象であって、地方で家庭と仕事を両立させている人もたくさんいます。

私は官民を問わずエリートは存在し、その人たちは時に長時間労働が避けられないと考えています。しかし、それを従業員一般に求めることは間違いです。またエリートが残業するのは、意味がある目的のために行うべきで、無駄な仕事で残業するのはやめましょう。