アメリカ大統領の起訴

4月6日の朝日新聞「異例の前大統領立件、背景は」から。

・・・米大統領経験者として初めて起訴されたトランプ前大統領は、34件の「重罪」に問われた内容を全面的に否認した。検察官が立件に踏み切った背景には何があるのか。かつてクリントン元大統領の捜査に携わった米ジョージ・ワシントン大のポール・ローゼンツワイグ非常勤講師に、政治捜査の舞台裏を聞いた・・・

――米国では大統領経験者への起訴はありませんでした。なぜでしょうか。
最も明白な理由は、過去の大統領のほとんどが、起訴されるようなことをしていないためです。もう一つの理由は、間違ったことをした大統領たちは、交換条件に合意したことでしょう。暗黙の了解として、刑事責任を問われない代わりに、政界や公職からの引退に合意してきたのです。
ニクソン大統領はウォーターゲート事件で辞任し、特別恩赦を受けました。クリントン大統領も起訴されませんでしたが、(大統領退任後は)妻ヒラリー氏が出馬するまで、政界から遠ざかりました。
トランプ氏はどうか。表舞台から礼儀正しく退いたわけではない。それどころか、大統領に再び復帰しようとしています。

――かつてクリントン氏の捜査を担当しましたね。
クリントン氏が不倫をめぐってウソをついたとして、捜査を要請されたのです。結局、彼は刑事訴追されないための取引の一部として、大統領任期の最後の日に非を認めました。弁護士資格を返上し、民事上の罰金を支払うことに同意したのです。検察官は十分だと判断し、クリントン氏に訴追しないと告げました。

――米国では現職の大統領は起訴されない決まりがありますね。
司法省は、現職大統領を起訴しないと明言している。これは、司法省の法律顧問室の公式な意見として記されています。

――では、元大統領についてはどうでしょうか。
起訴しないという規定はありません。むしろ、退任後は起訴される可能性があるという点こそが大事です。たとえ大統領在任中の行為であっても、退任後には刑法の適用を受ける。だからこそ、現職大統領のうちだけは免責することが許されるのです。