ライト・ミルズ著『社会学的想像力』

ライト・ミルズ著『社会学的想像力』(2017年、ちくま学芸文庫)を読み終えました。
ほかの本にも引用されていて気になっていたのですが、なかなかその気にならず。『21世紀を生きるための社会学の教科書』で、読まなくてはならないと考え、文庫本で新訳が出て読みやすくなったので挑戦しました。判型は読みやすくなったのですが、内容は決してわかりやすいものではありません。かなりの日数がかかりました。布団で読む本ではないですね(反省)。

ウィキペディアのミルズの項では、「「一人の人間の生活と、一つの社会の歴史とは、両者をともに理解することなしにはそのどちらの一つも理解することができない」と考える想像力である」と書かれています。
私なりに理解すると次のようになります。
ミルズは、社会学を学ぶ意味とは人が日々遭遇する困難を根本的に解決するにはどうすればよいかを考えることである、と言います。個人が困っている問題を本人の責任とせず社会の問題であると位置づけることが、この学問の意義だと言うのです。そのためには個人の日常の問題を社会と関連づけて捉える知性が必要であり、その知性を「社会学的想像力」と呼びます。
我が意を得たりです。「今頃、遅い」と言われそうですが。早速、連載「公共を創る」に利用しました。
このホームページを検索すると、「社会を観察するのではなく、社会に参加し貢献する学問」から「社会学的想像力と政治的想像力」まで、長く同じ主題を考えていたのでした。

要旨は明快なのですが、当時の社会学への批判の書でもあります。原著が出版された当時(1959年)の社会学界、特にアメリカの社会学界を知らないと、理解しにくいのです。パーソンズの「構造主義」や、調査統計に特化する社会学を批判します。社会学の有り様を理解するにはよい本です。もっとも、出版以来、半世紀以上が経っています。
ミルズの書は、学生時代に政治学で『パワー・エリート』を読みました。あの人だったのですね。

介護離職対策、悩みの相談

2月1日の日経新聞「介護離職は心のケアで防げ コマツが相談会、満席続く」から。

コマツが介護を理由とする離職の防止に向け、社員の心のケアに取り組んでいる。専門家による相談会を毎月開き、悩みを打ち明けやすくする。会社に相談できずに介護をしている社員は想定以上に多いと判断し、「離職予備軍」の増加を防ぐ。介護離職は2010年代から急増し、近年は年間約9万〜10万人に達する。会社を支えている40〜50代の社員を失うことは大きな痛手で、対策は待ったなしだ。

コマツは18年から約2万4000人の社員を対象に、外部の専門家に介護の悩みを相談できる個別相談会やセミナーを開いている。月間10人の相談枠は昨年12月〜今年2月まで満席が続く。追加の駆け込み案件も多く、需要が高まっている。
外部委託先のNPO法人「となりのかいご」代表理事の川内潤さんらは、のべ約470人の社員の声を聞いてきた。相談者は40〜50代が多く、10人に1人ほどは「いずれ会社を辞めなければならないのか」などと離職への不安を口にするという。
コマツは社員の介護負担の増加について早くから危機感を持っていた。「多くの社員が介護に携わる時代になる」とみた労働組合が介護休業の延長を提案。11年には法律が定める通算93日よりも多い最長3年まで休めるようにしたほか、手当など金銭面も手厚くした。
ところが17年ごろに制度の利用状況を調べると、休業者は5年間でわずか18人。実は会社に相談せずに週末などを使って介護をしている社員が予想以上に多いのではと思い直した。「真の需要に寄り添えていないのでは」と感じた同社が着目したのが、本音を打ち明けやすい環境の整備だ。
介護はプライバシーに関わる問題で、社内では打ち明けにくい面もある。コマツは外部の専門家による相談会にすることで心理的なハードルを下げた。会社には匿名で参加できるのも利点だ。
「親不孝介護」などの著書もある川内さんは、「優秀な社員ほど一人で解決しようとして悩みを抱え込み、突然の離職に至るケースも多い。『プロに任せられることは任せ、親とは適切な距離を保つべきだ』などと助言している」と話す。
相談者からは「自分の生活を優先していいんだと気づいた」「自分が深刻な状態にいることが理解できた」との声が上がるなど、悩みを打ち明けて心の負担が軽くなった人が多いもようだ。現在、コマツの介護離職は数年に1人程度という。石田さんは「介護需要が拡大するなかでもリスクを抑えられているのでは」と手応えを感じている。

「隠れ介護者」の存在は根深い問題だ。仕事と介護の両立を支援するリクシス(東京・港)によると、「介護が理由とカミングアウトしないまま辞めたり、辞めずとも有給休暇などで両立に励むケースが多く、実態を把握できている企業はほとんどない」という。
最大の壁は心理的な要因だ。「職務を奪われるのでは」「賃金に響く」といった不安から、会社への説明に及び腰になるという。特に50代などは「育休世代と違い、仕事を長期で休んだ経験がないことも影響している」(リクシスの佐々木裕子社長)。本音を引き出すため、心理的安全性をどう担保するかが課題だ。

砂原庸介・神戸大教授「領域を超えない民主主義の未来」

東京大学出版会の宣伝誌『UP』2月号に、砂原庸介・神戸大教授が「領域を超えない民主主義の未来」を書いておられます。

昨秋に出版された『領域を超えない民主主義』を踏まえて、地方自治における民主主義の課題を簡潔に述べたものです。『領域を超えない民主主義』では、都市圏と一致しない自治体の区域が、地域課題を適切に解決できない問題を取り上げていました。そしてその終章で、多くの問題の基底に自治体における政党の不在があることを指摘していました。

この本に限らず、砂原教授の基本的視角は地方行政における政党の不在です。『UP』の小論では、その点が明快に説明されています。一読をお勧めします。

イギリス、お金をかけず社会で子育て

日経新聞夕刊連載「人間発見」、1月30日からは、認定NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子さんの「学ぶ機会の平等を」でした。東日本大震災では、無料で学習指導をしてくださいました。

2月1日は、2001年から1年間英国で暮らした経験です。
「お金をかけず社会で子どもを育てることの大切さを学んだ」
長男は日本では保育園の年長でしたが、英国では小学1年生。何か準備するものはあるかと問い合わせたら、何もないと言われました。筆記用具も教科書も学校側が用意してくれます。英語ができない息子のために半年間、同級生の保護者を補助員として雇ってもくれました。
学校で必要な教材や備品はバザーや寄付でそろいます。子育てにお金がかからないと感じました。そのバザーも経済的に厳しい家は出さなくても構わない。全ての家庭に等しく負担を求める日本とは異なります。

通った小学校は授業中に落ち着かないとペナルティーがたまる仕組みでした。週3回廊下に立たされると翌週は昼休みなどが没収され、先生と反省部屋にいきます。ある日、お迎えに行くと長男のクラスメートのベンが駆け寄ってきました。
彼いわく、長男は「すでに今週2回立たされていて、次に注意されたら大変だ。明日は木曜日だからあと2日頑張れと本人に言っているのだが彼は英語がわからないから伝わらない。ぜひ、お母さんから伝えてほしい」――。友達を守ろうと小さな男の子が勇気を出して伝えてくれたのです。周りに温かく見守っていただき、なんとか1年を過ごすことができました。

帰国して買ったランドセルは5万円。やれ鍵盤ハーモニカだなんだとお金がかかる。夫婦の両親から服やゲームもどんどん与えられますし、周りが通っていると聞けば水泳教室にも通わせてあげたい。「子どもがマーケットにされている」と感じました。
息子たちは都内の公立小学校に入学しました。クラスでちょっとしたいじめがあり、どうすればいいのか親しいママ友に相談すると「絶対巻き込まれないよう、子どもに伝えた」というのです。クラス全体より自分の子を大事にするのが日本のスタンダードなんだと、英国との違いに気づきました。

若手新聞記者への講義2

今日は、「若手新聞記者への講義」の3回目。記者さんたちを3班に分けての研修なので、1月23日、2月6日、そして今日13日に話しました。

私は、県で課長や部長を、国でも課長や次官を経験し、さまざまな取材を受けました。総理秘書官としても、毎日朝晩、10人近くの「番記者」たちの相手をしました。
その経験などを踏まえて、どのような場面でどのような記者なら「深く話すこと」ができるか、記者の持っている情報と見方、公務員の持っている情報と見方、そこにどのような信頼関係(ギブアンドテイク)がなりたつかを話しました。
そして、「足で稼ぐ」ことの重要性を指摘しました。霞が関や県庁だけを取材していては、範囲が狭くなるだけでなく、見方も狭くなりますよ。

皆さんは、まだ局長や次官級の官僚と話す機会はないでしょう。その経験者の話が、少しでも役に立てば、うれしいです。