連載「公共を創る」第142回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第142回「行政改革から社会改革へ」が、発行されました。前回まで、1990年代と2000年代に行われた行政改革の成果と問題について説明しました。

さらに視野を広げてみると、これら行政改革が求められた要因には、日本独自のものと、先進国共通のものがありました。
日本にあっては、経済発展の終了と成熟社会の到来に対して、社会と行政が対応できていないことです。
先進国にあっては、日本より先に経済成長が鈍化し、小さな政府と効率化、顧客重視の改革に取り組まれました。新自由主義的改革と新公共経営(NPM)です。

では、日本の行政改革は、目的を達したか。行政改革は成果を上げたのですが、社会はそれ以上に変化していて、行政改革だけではそれに応えることができていないのです。必要なのは、行政改革以上に、社会の変革です。今回は、それを説明しました。

感染症対策と地方行政

月刊『地方自治』2023年1月号に、田中聖也・行政課長が「新型コロナウイルス感染症対策に何を見るか」を書いています。

この3年間の新型コロナウイルス感染症対策に関して、次のような論点が論じられています。
・明治以来の感染症対策と地方団体の役割
・感染症対策の二つの法律の特徴
・危機管理法制(災害対策基本法、原子力災害対策特別措置法、武力攻撃事態における国民保護法)としての感染症対策
・関係機関の連携の重要性
・国と自治体間の情報共有と意思疎通のあり方
・これまでにない事態で法律上明確でない場合の国や自治体の役割と責任
・国からの「要請」で処理することの問題
・大都市圏での自治体の区域を越えた事務の調整

紹介が遅くなって申し訳ありません。国と自治体との関係を考える際に、重要な論文となるでしょう。私が東日本大震災で対応したのはこれまでにない災害でしたが、原発事故以外は、災害は終わっていました。それに対し、新型コロナウイルスは危機が進行形でした。ここに、大きな違いがあります。

このような法制面での検証とともに、自治体現場での優良事例や問題事例などの収集・検証も期待します。例えば2月1日の読売新聞が、「山梨県の新型コロナ対応 検証報告書 読売調査研究機構」を伝えています。
・・・山梨県の新型コロナウイルス対応について読売調査研究機構が検証した報告書は、未曽有のパンデミック対策に試行錯誤し、苦闘する自治体や医療関係者の姿を浮き彫りにした。変異を繰り返すウイルスに、どう機動的に対応するか。感染拡大を防ぎながら、いかに地域経済を守るか——。いずれも全国の自治体に共通する課題である。山梨県に関する報告書の検証結果や提言は、他の都道府県にとっても参考となるはずだ・・・

経団連の存在感の低下

1月27日の日経新聞「私の履歴書」古賀信行・野村ホールディングス名誉顧問の「財界総本山」から。

・・・結局、副会長と審議員会議長をあわせ8年も経団連と関わった。改めて、経団連とは何だろうと思う。官僚組織がしっかりしている時代は、政策を実現する産業界のカウンターパートとして機能していた。個別業界ではなく、広く産業界の代表だった。

今は官の枠組みが大きく揺らぎ、相手側の経団連も存在意義を問われている。政策をきちんと提言できる組織になることが今こそ求められている、私はそう思う・・・

追悼、石原信雄さん

石原信雄・元官房副長官が、お亡くなりになりました。

石原さんは、自治省の大先輩。石原さんは昭和27年採用、私は53年採用。これだけ離れていると、一緒に仕事をすることは少ないのですが。
私が財政局財政課で係長職(主査)を勤めているとき(27歳、28歳)の、財政局長でした。扉で続いている局長室に呼ばれ、話される内容を筆記するなどしました。私の雑な殴り書きは、読めなかったと思います。

官房副長官として、不安定な内閣を長年にわたって支えるという、重要な役割を勤められました。大変なご苦労だったと推測します。
官房副長官室には何度か行ったのですが、何の案件だったかは覚えていません。その頃は総理官邸に行くこと自体が珍しく、緊張しました。建て替える前の、小さな暗い官邸です。それにもびっくりしましたが。

省庁改革の際は顧問会議の一員となられ、参事官の私は、事務局長と一緒に何度も説明に行きました。
その後も、お呼びがあったり、私の方から報告や相談に上がりました。いつも、にこにこ聞いてくださいました。12月にも、お目にかかったばかりでした。
ご冥福をお祈りします。

不登校、公的支援充実を

1月27日の日経新聞「教育岩盤・迫る学校崩壊」、今村久美・認定NPO法人カタリバ代表の「不登校、公的支援充実を」から。

不登校の小中学生が急増し2021年度に過去最多の24万人に達した。インターネット上の仮想空間を使った不登校児の支援などを進める認定NPO法人カタリバの今村久美代表は「公的支援が足りない」と訴える。

――不登校が増え続ける状況や背景についてどう考えていますか。
「きっかけは多様で一概に増加の理由は語れない。ただ、一律に同じ内容を同じスピードで学習することに合わない子どもはたくさんいる。学校がこれまでそこに目をつぶってきたことは一因だろう」
「子どもが自ら学校に行かないことを選ぶ『積極的不登校』の考え方もあるが、現実には学校に行きたいけれど行けない子どもが多いと感じる。同じ学区の子が楽しそうに登校する姿を見て苦しい思いをしている親子は多い」

――不登校の子への支援の現状をどう思いますか。
「全く足りていない。ケアは家庭が背負ってしまっている。国の調査で学校や民間など誰の支援も受けていない不登校の子は全体の36%に上る。行政が手掛ける教育支援センターを利用したケースも1割と少ない」
「フリースクールのような民間団体の運営には公的補助がない。月会費などの経済的負担も大きい。全ての子どもが利用できる公的支援を強化する必要がある」

――どんな取り組みが必要ですか。
「まずは公的な支援につながっていない子を把握する責任者を置くことから始めるべきだ。教員だけで家庭訪問を続けるのは難しい。登校支援コーディネーターのような役割を置き、きちんと追いかけられる仕組みが必要だ」
「もう一つは子どもたちの居場所をつくる事業者や地域の団体を行政が認定し、連携することだ。自治体の壁を越えてデジタルなどの支援に生かせるツールを共有することも大事だ」

――学校に求められる役割は。
「学校は全国各地で子どもが歩いて行ける場所にある重要な教育福祉機関だ。親から離れても安心安全で、公的な第三者として自分のことを見守ってくれるような大人がいれば、孤立を防ぐ有効な手立てになる」
「不登校でも学校に相当する場所に通ううちに人とつながって楽しいと感じたり、新しい考え方を発見したりする。教員と合わないと感じた場合には他の選択肢を選べる公的なオルタナティブ(代替)を充実させる必要がある」