12月7日の朝日新聞夕刊、金成隆一・ヨーロッパ総局記者の「首相を詰問 英メディアにみた、記者の役割」から。
英国で7月以降、3カ月ほどの間に2人の首相が相次いで辞任を表明した。ロンドンを拠点とする記者としてこの政治の混乱を取材したが、英メディアの記者らが首相にぶつける質問は厳しかった。
「まるでロビンフッドの正反対ですね」。トラス首相(当時)本人に向かってこう批判したのは、公共放送BBCの中部ノッティンガム放送局の司会者だ。
各地方局の司会者らが順に首相に質問するラジオ番組の中で、政権の減税案について「富裕層を利する」とデータも示しつつ指摘。富裕層から富を盗み、貧者に分けたとされる伝説的な義賊と比較し、あなたは「正反対だ」と断罪した。
財源の裏付けに乏しいまま政権が減税案を発表した直後から、通貨ポンドが急落するなど市場が混乱。そのさなかでの番組で、他の地方局からも「恥ずかしいと感じているか」「あなたのせいで困窮は悪化している」といった厳しい言葉が相次いだ。
きちんとした答えが返ってこなければ、再質問で問い詰める。市場の混乱について国民への説明がしばらくなかったことから、質問者は「どこにいたんですか?」と聞いた。首相が答えずに自らの実績を強調し始めると、「それは(市場を混乱させた減税案の)前の話です」と遮り、再び「どこにいたんですか」と質問した。