転職しない日本の労働者

9月7日の日経新聞「労働移動先進国の半分 生産性向上を妨げ」から。

厚生労働省は6日、転職や再就職などをテーマとした2022年の労働経済の分析(労働経済白書)を公表した。日本の労働移動の活発さは経済協力開発機構(OECD)平均の半分にとどまっていると分析した。生産性向上や賃金上昇に向け、働く会社や仕事内容を柔軟に変えることができる環境が大事だと訴えた。

国際的にみても、日本の労働移動は鈍い。新たに失業した人と再就職した人の合計が生産年齢人口に占める割合は日本が01年から19年の平均で0.7%と、OECD平均1.5%の半分程度だ。「失業プールへの流入出率」と呼ばれるこの指標は、労働移動の活発さを推し量る目安のひとつで、日本は低い水準が続いている。
日本は失業者が少ないため、同指標は低めに出やすい。雇用が安定しているというメリットがあるが、デメリットもある。白書は、この労働移動の活発さと技術進歩などを示す全要素生産性(TFP)の伸びを各国比較したところ「弱い正の相関がある」と分析した。労働移動が活発だと「企業から企業への技術移転や会社組織の活性化につながり、生産性向上にも資する可能性がある」と指摘した。

日本は勤続年数が10年以上の雇用者が45.9%と30%前後の米英などに比べ多く、同じ会社で長く働く。白書によると、特に役職のある男性が転職などに慎重だった。係長級の男性は37.7%が転職を希望するが、実際に転職活動をしている人は13.1%。2年以内に転職した人が11.3%にとどまった。課長級も、希望者35.0%に対し活動者が12.2%、2年内の転職者が13.3%だ。
終身雇用を前提とした人事制度では、中途採用者の社内でのキャリアパスが明確でないケースも多い。転職に踏み切っても新しい職場で能力が生かせなかったり、賃金が減ったりするリスクもある。
労働移動を促す手段の一つが学び直しだが、取り組みは広がっていない。職業能力を自発的に開発する自己啓発をしている人は男性正社員で20年度に43.7%と12年度の50.7%から減少した。女性正社員も41.1%から36.7%に減った。取り組めない理由は男女とも「仕事が忙しい」が多く、また「家事・育児が忙しい」と回答する女性も目立った。「費用がかかりすぎる」といった理由を挙げる人も男女ともにみられた。白書は「企業が費用面の支援や就業時間の配慮をしている場合、自己啓発をしている社員の割合が高い」として企業による支援の重要性を指摘した。