二種類の「がんばる」

8月10日の朝日新聞文化欄「荒井裕樹の生きていく言葉」「「がんばる」には二つある」から。

その時々の社会状況に応じて、どんなふうに使われるかを観察し続けている言葉がある。「がんばる(がんばれ)」だ。
二〇一一年の東日本大震災の時、被災者の心中を慮ってか、多くの人がこの言葉を自粛したように記憶している。対して、コロナ禍ではむしろ積極的に使われてきた節がある。がんばる医療従事者、がんばる飲食業界、がんばる観光業者、といった具合に。

私見では「がんばる」には「はつらつ系」と「忍耐系」がある。前者は、当人が好きなことや望ましいことに打ち込む様子を肯定的に捉える際に使われる。後者は、当人が不幸な出来事に巻き込まれた際、くじけそうな気持ちを鼓舞するために使われる。
もちろん、両者の区別は曖昧で、普段は意識されることもない。だが、私はこの違いに自覚的でいたい。でないと、本当に必要な区別が付かなくなってしまうように思うのだ。