旧統一教会、社会との関係

8月10日の朝日新聞オピニオン欄「旧統一教会、社会との関係」、紀藤正樹・弁護士の発言から。

旧統一教会は、1980年代から90年代に大きな社会問題になりました。当時と比べて、教団の活動自体にあまり変化はない。大きく変わったのは社会の視線です。
90年代には、70~80年代に勃興した新興宗教が統一教会以外にも多くあり、社会がカルトを見る目も厳しかった。特に95年のオウム真理教事件の後は、カルト問題の報道が非常に多くなされました。
ところが、2000年代半ば以降、新興宗教についての報道が明らかに減ります。オウム真理教事件が風化し、社会の視線も厳しさを失った。カルトへの厳しい視線や社会的規制が続いていれば、政治家も安易に統一教会とは関われなかったはずです。

法的な規制の問題もあります。1987年、統一教会と関係があり、高額なつぼなどを販売する会社の霊感商法に被害者から提訴が相次ぎ、警察も摘発に動きますが、会社が霊感商法の自粛を宣言してうやむやになってしまった。
2000年代後半には、警察が摘発に乗り出し、09年に統一教会系の企業「新世」の社長らが逮捕され、有罪判決を受けました。しかし、教団本部への家宅捜索までは行かず、統一教会が「コンプライアンス宣言」を出すというあいまいな決着になりました。

メディアの変質もあると思います。7月8日に安倍晋三元首相が殺害された後、容疑者と旧統一教会の関わりについて、新聞やテレビは教団側が記者会見した11日まで報道しませんでした。いくら選挙期間中だといっても、全社横並びで旧統一教会の名前を伏せていたのは異様です。
法的な規制は信教の自由に抵触するといわれますが、カルトすなわち反社会的な宗教団体と、一般の宗教団体を一緒に考えるべきではありません。欧米では、カルトがカルトであるゆえんは、違法行為をすることだと見なされています。脱税、詐欺、脅迫、性加害や児童虐待もある。既存の法律を厳格に適用し、違法行為を摘発していけば、おのずとカルトはなくなっていくはずです。

95年にオウム真理教事件があり、今度は元首相の殺害事件が起きた。30年間にカルトに関わる大事件が二つも起きる異常な事態を招いたのは、国会や政府がオウム真理教事件の総括をきちんとしなかったことが一因だと思います。今からでも遅くないので、カルト問題全般について、原発事故調査委員会のようなものを国会内に設置し、対策を考えるべきです。