今時の若者 いい子症候群

7月26日の読売新聞夕刊、金間大介・金沢大教授の「今時の若者 いい子症候群」から。

金間 見た目はいい子が大半です。新入社員への印象を企業に聞いても、さわやか、まじめ、素直で、受け答えがしっかりして、いっけん前向きという。一方、突っ込んでもリアクションが少なく、意見を言わず、物足りない……。

——前向きに見えても前向きじゃない?
金間 この両面を見て大人は、「何を考えているのかわからない」と感じますが、各種データを分析すると、二つの特性は若者には矛盾ではなく、普通なんです。
基本、若者には目立ちたくない、他人の気持ちがこわいという思いがガツンと乗っかっている。だからこそ「大人が求める若者」らしい“お芝居”をして、「圧」をかけられないよう防御するんです。

——なるほど!
金間 就職でも安定志向が高まり、職場に働きがい、チャレンジを求める若者は減っています。賃金が上がらない状況下、リスクがあり、自分で創意工夫しないとできない仕事を振られる職場は希望しない。逆にいうとマニュアルがあり、上司の指示が的確で、研修制度がしっかりしている会社を希望する。そういう会社だと「圧」が少なく、メンタルが安定しますからね。

——変化は、いつ頃から?
金間 「ゆとり教育」の導入に端を発すると考えています。さらに、ちょうど20年前に導入された「総合的な学習の時間」がこの流れを加速させました。当時の学習指導要領では、個の尊重と同時に、他者とともに社会的課題を解決しようとうたった。この二つの両立を目指したことが、いい子の大量発生につながったと思います。
というのも、子供からすれば個性を発揮すると目立ち、和を乱す構造になる。実際、授業で変わったことを言うと、「どうしてそうしたの?」と「圧」をかけられ、「他の子の意見も聞きましょうね」と先生に誘導される。
すると子供は、どう個を伸ばしたら教室で○がつけられるのか、大人が欲する良いやり方を学習するようになる。つまり、若者の行動は大人社会のコピーでもあるんです。

——日本がこのままでよいとは思えませんが。
金間 はい。停滞が続けば、若者が求める小さな安定すら失われてしまうでしょう。
だからといって、安定志向のいい子症候群の若者に、成果を出そうとハッパをかけても心に響かないでしょう。
成果をどう分配したらよいか、という設問に対する日米の学生の意識の差を見れば、それは一目瞭然です。米国では実績や努力に応じた分配を求める意見が多いのに対して、日本の大学生は、一律な平等分配を求める意見が男女とも半数近くに上っています。
勝ち負けに興味のない日本の学生に競争を強いるという発想の転換が必要です。

——どうしたらよいか?
金間 大人が行動し、「自分はこれをやりたい。だから手伝ってくれないか」と若い人を巻き込むことです。若者は、過去の実績を自慢する大人には飽き飽きしていますが、現役として行動する大人の姿は尊敬するでしょう。
「社会は」とか「君は」と語り、他者に行動変容を求める大人に対しては若者は防御的になるけれど、「自分はこうする」と一人称で語り、素を見せる人のことは、たとえ挑戦が失敗したとしてもかっこいいと思うはずです。