大嶽秀夫著『日本政治研究事始め 大嶽秀夫オーラル・ヒストリー』(2021年、ナカニシヤ出版)を読みました。「岡義達先生の政治学を分析する」で取り上げた、澤井勇海さんの論文で、「大嶽先生が岡先生の弟子であり、跡継ぎと目されながらそうならなかった」と書かれていたので、興味を持ちました。
大嶽秀夫先生の著作は、若い頃読んだことがあり、感銘を受けました。当時珍しかった現代の日本政治の実証分析を行うこと、そして切れ味鋭いことです。『現代日本の政治権力経済権力』(1979年)『アデナウアーと吉田茂』(1986年)『自由主義的改革の時代』(1994年)などです。政治学専門誌『レヴァイアサン』創設者の一人としても。
本書は、大嶽先生の学問の軌跡とともに、日本政治学の歩みと政治学界の内情を語ったものです。お弟子さんによる聞き書きで、かつよく整理されているので、読みやすいです。著名な学者である先生も、いろいろ悩むことがあったのですね。
大嶽先生と指導教官や先輩学者との関係は詳しく述べられているのですが、大嶽先生とお弟子さんとの関係は詳しく語られていないのが残念です。この本の性格上、それは無理ですね。
先生の業績の一つに、現代日本の政治を実証的に分析したことが挙げられます。私が大学生の頃までは、日本の政治学は現代日本政治分析よりも欧米の政治学の輸入か欧米の政治を扱い、日本を扱う場合は政治史が多かったのです。チャーチルは扱うが吉田茂は扱わない。それが変わった頃でした。日本の現代政治を扱う場合も、実証分析は少なかったと思います。
政治学もまた「配電盤」(司馬遼太郎さんの言葉。欧米の知識と技術を輸入し国内に普及させる役割)でした。