3月3日の日経新聞経済教室「社会保障 次のビジョン」中、鈴木亘・学習院大学教授の「非常時対応、既存制度改革で」から。
・・・問題は今後もショックが起きるたびに、今回のような大規模な財政出動を繰り返すのかということだ。コロナ前には、国の一般会計歳出額は年間100兆円前後で推移していた。だが2020年度の3回の補正予算を含む歳出額は175.7兆円、21年末に成立した補正予算を含む21年度の歳出額は142.5兆円と、空前の規模に達している。
高齢化による社会保障費増が続くなか、こうした大盤振る舞いを何度も続けていては、いずれ日本の財政は立ちいかなくなる。そろそろウィズコロナにふさわしい効率的な経済対策を検討し、現在の「非常時体制」から脱する必要がある。
コロナ経済対策を振り返ると、大部分は生活支援の給付金、雇用対策、休業支援、弱者・貧困対策、医療・介護の補助金などに費やされており、広義の社会保障にほかならない。社会保障ならば失業給付や生活保護などのセーフティーネット(安全網)が用意されているが、今回はそれらがあまり使われず、現金給付や特例措置などの新施策が次々と創設された。まるで既存制度を使わないことが政策目標であるかのようだ・・・
・・・結果をみると、特にコロナ禍の初期時点ではパニックによる解雇や廃業を防ぐため、新施策がよく機能したことは評価できる。問題は泥縄式の急ごしらえで作った制度なので、救済すべき対象以外にもバラマキがなされ、財政規模が大きくなりすぎたことだ。国民全員に10万円ずつ配った特別定額給付金が典型例だ。
その後も、ひとり親世帯や子育て世帯への臨時特別給付金などとして、継続的にバラマキが実施され、もはや財政のタガが外れてしまったかのようだ。また休業支援金についても、支援金の方が得だからと不必要な休業を選択する本末転倒な使い方がされることや、持続化給付金のように不正受給が横行する例もある・・・
・・・今後、コロナ経済対策をどう変えていくべきだろうか。新施策はあまりにも財政浪費的だ。大幅に整理したうえで、必要な部分は既存の社会保障制度の中に取り入れて、次のショックに備えるべきだ。長年の風雪に耐えた既存制度は、さすがに完成度が高く効率的でもある。もっとも、新施策が作られた背景には、既存制度では非正規労働者や被害を受けた業界への迅速な救済が難しかったことがある。その意味で、既存の社会保障制度もコロナ禍の反省に立って見直すべきだ・・・
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