自治体職員の心の不調

12月27日の日経新聞が「心の不調で休職2.1万人 全国の自治体職員「職場の人間関係」60%」を伝えていました。
・・・総務省は26日までに、全国の自治体職員のメンタルヘルス(心の健康)に関する初の大規模調査の結果を公表した。2020年度に精神疾患などで1週間以上休んだ職員は、全体(約96万人)の2.3%に当たる2万1676人。休職の理由は「職場の人間関係」が60%を超えた。結果を踏まえ、同省などが21年度中に対応策を取りまとめる・・・

・・・休職者がいた1562自治体に主な休職理由を3つ尋ねたところ、上司や部下との「人間関係」を挙げたのが60.7%と最多で、「業務内容の難しさ」が42.8%、「本人の性格」が30.9%だった。住民の苦情対応を含む「職場外の人との関係」も7.8%あった。
休職者を役職別に見ると、管理職ではない「係員」が1万5724人(72.5%)に上った。主に若手職員が、上司とのやりとりでストレスを感じたり、業務に不慣れなことで負荷が高まったりしたとみられる。
休職者が増加傾向だと回答した1399自治体に対し、その理由を複数回答で聞いたところ「業務の複雑化」「1人当たり業務量の増加」が60%を超えた。新型コロナウイルス感染症への対応に追われた都道府県や政令市などでは「新型コロナに伴う業務が増えた」との回答も目立った・・・

調査結果は「地方公務員のメンタルヘルス対策の現況-令和2年度メンタルヘルス対策に係るアンケート調査の概要-」(12月24日発表)です。
統計にも表れていますが、私の体験でも、心の不調の職員が増えています。
アンケートにも出ていますが、管理職の悩みは、そのような職員の増加とともに、どのように対応して良いか分からないことです。心の健康のための研修は受けているのですが、病人が発生した場合にどのように対応したら良いかは、研修で教えてもらうことが少なく、経験もありません。管理職が悩む事項の一つです。
私の推量では、組織には約3%程度、そのような病人が発生します。この調査では1週間以上休んだ職員が2.3%ですから、病人全体ではもっと多いのかもしれません。その人たちへの対応は、管理職にとって必須科目になりました。
人事当局にとっても、そのような職員が生じた場合の対応に多くの労力が取られ、欠員補充をどうするかも大きな仕事です。

組織がつく嘘、上司の責任

国土交通省の建設工事受注動態統計調査書き換え事件、三菱電機での品質不正、日立製作所子会社での検査不正・・・。役所や企業での嘘をつく行為が続いています。

日本人は正直だ、日本の組織は倫理観が高いといった、これまでの通説を覆す事案です。これまで行われていた不正が表に出たということで、現在が悪いのではなく、過去から悪いことをしていたのです。ということは、日本人の職業倫理観が高いという通説は間違いだったのか、どこかの時点で悪化したのでしょうか。

三菱電機の調査委員会報告書では、「ビジネスの根幹に関わる倫理観や規範意識が低下していた」と批判しています。読売新聞記事「三菱電機、不正5製作所29件…検証報告書「倫理観や規範意識低下」」(12月24日)には、次のようにも書かれています。
・・・調査委が全従業員向けに実施したアンケートの回答内容を、会社に提出するよう上司から求められたとの相談も複数寄せられた。「従業員が率直に声を上げることを良しとしない考えが表れている」として、厳重な注意を行ったという。
「不正をやめたい」と管理職に進言したところ、逆に 叱責 を受けた担当者もいた。管理職に相談しても問題解決が期待できず、「言ったもん負け」の文化があるとの指摘は、前回報告に続き、今回の調査対象の製造拠点でも確認された・・・

12月30日の朝日新聞は、1面でその原因を解説していました「繰り返される不祥事、声上げられぬ社員「上層部は自己保身に走る」」。
・・・大企業で不祥事が繰り返されるのは、社員が声を上げられず、経営陣の問題意識も低いためだ。各社の調査報告書は「上にものが言えない」問題を指摘する。
三菱電機の調査委員会の報告書は、不正を知っても通報できなかった社員の声を紹介している。「上層部が自己保身に走る」として信頼されず、組織にとって都合の悪い情報を吸い上げられなかった。
みずほ銀行では、2月に4千台以上のATMが停止した際などで顧客への周知が遅れた。藤原弘治頭取が障害を知ったのはネットニュースだった。調査報告のアンケートなどでは、経営陣に忖度する「内向きの姿勢」があったという。

東京電力ホールディングスでは再稼働をめざす柏崎刈羽原発(新潟県)で、社員が他人のIDカードを使って中央制御室に入っていた。侵入者を検知する装置の不備が放置されるなど、「核セキュリティー」の基本が守られていなかった。
東電の「核物質防護に関する独立検証委員会」が9月に出した報告書からは、社員の苦悩が伝わってくる。アンケートで「正直にものを言えない風土があったと感じるか」についてたずねたところ、柏崎刈羽の役職員の27%が感じている(「どちらかというと」を含む)と答えた。組織が責任を回避し個人に「丸投げ」していると感じている人もいた・・・
この項続く

仕事始め

今日は1月4日。多くの人が、仕事始めだったのではないでしょうか。知人の中には、出社して社内の挨拶はしましたが、新型コロナ対策で外回りは自粛しています、という人もいました。

市町村アカデミーも、今日から業務開始です。といっても、特段の儀式はありません。それぞれに挨拶をして、早速会議などをしています。
職員に「ゆっくりできましたか?」と聞くと、皆さんそのように過ごしたようです。新型コロナウイルスが怖いですからね。千葉に住んでいる職員の中には、成田山にお詣りした人も。結構並んだそうです。

学校の建物は暖房が入っているのですが、コートを着て膝掛けをしながら仕事をしている職員もいました。聞くと、年末から1週間暖房を入れていなかったので、鉄筋コンクリート造りの建物が冷え切っていて、暖房を入れてもしばらく効き目が少ないのだそうです。

私も学長室で、貯まった書類を決裁したり、目を通したり。夜の会合も始まりました。

コメントライナー目次

2022年1月から、時事総合研究所の「コメントライナー」に寄稿しています。コメントライナーは、時事通信社が契約購読者に毎朝配信する、署名入り解説記事です。官僚の経験を生かして、報道では見過ごされている事実や、報道とは少し違った分析を書くようにしています。

2022年
1月6日「若手官僚の不安と不満
3月1日「管理職の必須知識
4月19日「『コロナ禍』を『コロナ成果』に
6月7日「憲法改正は地方自治の規定から
7月29日「小さな政府論の罪
9月16日「最低賃金決定に見る政治の役割
11月7日「社風をつくる、社風を変える
12月27日「それは首相に質問すること?

2023年
2月13日「人事評価、職場と職員を変える手法
3月24日「首相秘書官の現実と課題
5月11日「「行政文書」は正確か
7月10日「一身にして二生を過ごす
8月10日「マイナカード問題と組織管理
10月12日「役所にも人工知能がやってくる
12月14日「日本型職場の功と罪

2024年
2月22日「工程表のない政治
4月26日「管理職を育てる組織へ
7月4日「転職自由社会が与える衝撃
9月10日「行政改革と縮み思考から卒業を
11月18日「日本を支えた意識の劣化

2025年
1月30日「現代日本特殊論
4月10日「選挙投開票にも「働き方改革」を
6月19日「日本の政治はなぜつまらないのか
8月18日「英語が国語になる日
10月27日「官製雇用格差を止めよ

巨大情報通信企業の情報開示

12月24日の日経新聞、ファイナンシャルタイムズ、ラナ・フォルーハーさんの「テック大手、広く収益開示を 個人情報の価値反映」から。

・・・米国のアルファベットやアマゾン・ドット・コム、メタ(旧フェイスブック)といったプラットフォーム大手や、マイクロソフトが利用者に関する多くの情報を追跡しているのは周知の事実だ。
ただ、検索から電子商取引、SNS(交流サイト)、クラウドコンピューティングまで、これら企業が運営するプラットフォームで得る情報からいかにして利益を得ているかはあまり明らかではない。彼らが握る情報量の多さに対し我々、利用者の知る量はあまりに少ない。この非対称性は、大手テックへの核心的批判の一つとなっている。
米欧の規制当局は、テック大手がこの情報の非対称性を武器に消費者や企業顧客に不利な状況を作り出している点を問題視し、調査している。

英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のイノベーション公共目的研究所(IIPP)が12日に発表した報告書は、テック大手への逆風をさらに強める内容だ。これによると、テック大手は米証券取引委員会(SEC)の年次報告書(10K)の開示規則を逆手にとって、本来なら提供すべき詳細な財務情報の開示を回避しているという。
米オミダイア・ネットワークが資金を提供したこの研究プロジェクトでは、UCLの研究者のイラン・ストロース氏、ティム・オライリー氏、マリアナ・マッツカート氏、ジョシュ・ライアンコリンズ氏がSECの開示規則がデータを収益化するIT大手の事業モデルに適しているかを調べた。結論はあまり適してないというものだった。
消費者物価を企業の独占力の尺度とする米国の現反トラスト法(独占禁止法)が、無料でサービスを提供する代わりに利用者のデータをテック企業が得る手法が横行する今の時代に不向きなように、SECの現在の開示規則も大量の個人情報を使って巨額の利益を稼ぐ監視資本主義には適さない。

根本的問題が2つある。第一は、今の金融規制当局は財務情報にしか目を向けていない点だ。テック大手は無料でサービスを提供し、利用者の増加がさらなる利用者増につながるネットワーク効果を発揮できる規模まで利用者を増やすことで自社のあらゆる製品やプラットフォームからデータを収集、それを収益化している。財務情報しか開示せずにすむおかげで、テック大手は市場を支配している実態を隠して利益率を上げ、様々な不公正な方法で自社プラットフォームの優位性を高めることが可能になっている。
第二にテック大手など多様な事業を抱える複合企業のセグメント開示に関するSEC規則は、プラットフォームで収集するデータに秘められた巨大な価値を認識していない。今の規則は収益を直接的に生む製品しか対象にしていない。テック大手を理解していれば誰でもわかるが、膨大なデータを集積し、それを収益化できる点に価値がある・・・