投資に向かわない家計資産

12月21日の朝日新聞「膨らむ個人マネー、偏る日本 株高・コロナ給付受け、家計資産2000兆円目前」から。
・・・家計の金融資産が膨らみ続ける背景には、老後への不安から目の前の消費を抑え、貯蓄に回そうという根強い傾向がある。
実際、少子高齢化が進み、年金支給額は今後大きく増やせない可能性が高い。そこで、政府は金融資産を金利がほとんどつかない預貯金ではなく、投資に回してもらい、個人で老後に備えた資産形成をしてもらおうと促してきた。株の配当や売却益などに税金がかからないようにする少額投資非課税制度(NISA)の拡充などはそのための政策だった。

だが、家計の金融資産のうち、株や投資信託の比率をみると、約15%でバブル経済崩壊後の30年間横ばいが続く。欧州の約30%、米国の約50%より大幅に低い。投資への動きはなぜ鈍いのか。三井住友DSアセットマネジメントの鈴木健也執行役員は「預貯金で高金利がついた時代に育った人は元本確保を好む傾向がある」と話す。
「難しい」(51%)、「ギャンブルのようなもの」(31%)、「なんとなく怖い」(31%)。日本証券業協会が今月発表した7千人対象の意識調査で浮かび上がる投資のイメージだ(複数回答)。投資が必要と考える人は全体の31%の一方で、必要と思わない人が69%を占めた・・・

・・・岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏は「バブル崩壊後の株安と円高で、円を現預金で持つことが身を守る方法になった。今の40~50代はバブル後のトラウマが解けていない。アベノミクス後に株高が進んでも身動きをとれていないことが資産構成に反映されている。一方で、20~30代はトラウマがほとんどない」と話す・・・

講義や講演後の質問

講義や講演の際に思うことです。
終わりに、質問の時間を取ります。そのときに、適確な質問が出るとうれしいです。「おお、よく聞いてくれて、理解しているなあ」とです。時に、私が直ちに答えられないような質問もあります。これは、私にとっても勉強になります。
時間を超過して、いったん閉講して質問者に残ってもらう場合もあります。これは(後の予定がないなら)うれしいことです。
逆に、何も質問が出ないと、がっかりします。「この人たちは、私の話を理解してくれたのだろうか」とです。

座席の埋まり方も、気になります。広い会場で後ろの席から埋まっていて、前の席に人が座っていないことがあります。
「こんなよい話を聞きに来たのに、なんで後ろに座るのか」と、腹立たしくなります。

学校の授業にあっては、先生が指導してはどうでしょうか。
・講義や講演について、質疑応答の時間があれば、質問するべき、あるいは感想を述べるべきであること。
・講義中には、「もし指名されたらどのような質問をするか、意見を述べるか」を考えながら聞くこと。
・講師は、講義中も、どの聴衆が良く効いているか、顔と表情を見ていること。適確な質問をした学生には、良い評価を与えること。
・採用面接なら、うつむいている学生や何も質問しない学生より、しっかり聞いて質問する学生を採用すること。

新型コロナ、自宅療養の問題点

12月16日の朝日新聞オピニオン欄、「自宅療養 その現実」から。
・・・病床が逼迫した新型コロナの第5波では、ピーク時に自宅療養者が全国で13万人に上り、命を落とす人が相次いだ。自宅療養の現場で何が起きていたのか。新たな変異株の脅威が迫る中、第6波に向けて何を教訓とすべきか。東京都内で約210人の自宅療養者を診察した「ひなた在宅クリニック山王」の田代和馬院長に聞いた・・・

――コロナ患者はそもそも自宅で療養できるものなのでしょうか。
「『自宅療養』への最初のイメージは、入院する必要のない人を自宅で治療すると、文字通りそういう意味だと思っていました。確かに患者全員の入院は、感染が爆発した状態では非現実的で、我々が家でできる治療をする必要が出てくるとは思っていました」
「だけど、現実は違った。第5波では、本来入院すべき人の多くが入院できず、『医療崩壊』としか言いようのない状態に陥りました。自宅療養ではなくて、言ってしまえば自宅待機でしたし、待機できているのかもわからない。『自宅放置』されていたのが現実です」

――実際に見た現場は。
「初診時に半数の107人が『中等症Ⅱ』でした。呼吸不全があり、酸素投与が必要な患者です。患者の中には息が吸えず、顔色が真っ青になっていく人がいて、本当に死をリアルに感じ続けた期間でした。あまりにもしんどくて動けず、汚物を漏らして尊厳が完全に失われた環境に身を置かざるを得ない人もいました」
「自宅療養は、軽症でリスクの少ない人が氷囊(ひょうのう)を載せて休んでいるというイメージです。呼吸が困難な中等症以上の人には、自宅療養との言葉は使うべきではない。重症化するタイミングが予見しにくく、治療は酸素とステロイドしかない。戦場に竹やりだけで挑むようなものです。入院できないのはある程度仕方ないと思う半面、十分な治療ができなかったことが一番の問題だと思います。コロナに感染した途端、医療体制から断絶されているという非常に逆説的なことが起こっていたのが、自宅療養の現場でした」

――今後の感染拡大に備え、何が必要ですか。
「コロナ病床として確保された病床に入院できない『幽霊病床』をなくすことです。コロナ病床を引き受けるのならば、とりあえず患者を受けてほしい。病院に『これ以上悪くなったら何もできないから、受けられません』と断られたこともあった。そうなれば結局、僕らが『入院先が見つかりません。もうだめです。すみません』と患者さんに自宅で伝えることになる。どんどん下請けに流れてきているだけじゃないですか」
――幽霊病床の背景として医師や看護師の不足が指摘されています。東京では確保病床の使用率が最も高い時でも71%でした。第6波に向けて、政府は病床の増床や「見える化」を掲げています。
「神奈川県や千葉県は第5波でも病床使用率が80%を超えていました。東京では最も厳しい8月中旬でも6割程度だったのに、どこへ掛け合っても『満床』と告げられていました。『マンパワー不足』だけで説明がつきますか。『助けられないかもしれないけど、連れてこい』と言って欲しかった。90%までいっていたら、医療崩壊なんて起きなかった。検証されるべきだと思います」
「使用率を上げるには、空床情報の可視化が必要です。リアルタイムで『どの病院でどの重症度の病床が何床』と具体的な数字を示し、医療関係者がオンラインで見られるようにしてほしい」

新しい試みに反対する人、後押しする人、実現する人4

新しい試みに反対する人、後押しする人、実現する人3」の続きです。
不思議なのは、明治の官僚、終戦直後から経済発展期の官僚は、進取の気風を持っていたことです。先進国に遅れた日本が追いつくために、敗戦で荒廃した日本を立て直すために、新しいことに次々と挑戦しました。それが、いつの間にか現状維持派に変質したのです。
たぶん、先進国に追いついたと思ったときから、制度を輸入し完成させたと思ったときから、この変質が進んだのだと思います。この問題を「制度を所管するのか、問題を所管するのか。」で解説したことがあります。

官僚志望者が減っていること、東大卒業生の優秀な人たちが官僚を選ばなくなっているとのことです。それは官庁にとっては困ったことですが、日本社会にとって喜ばしいことかもしれません。
現状維持だけなら、優秀な職員は不要です。新しいことに挑戦したい若者は、それが活かせる職場に行くべきです。他方で、優秀な職員を採用したいなら、官庁も彼らが能力を発揮できる職場に変える必要があります。

さて、どのようにしたら、改革派(変えてみよう派)を主流にすることができるか。
一つには、政治主導がその役割を果たすことでしょう。改革の方向を示し、官僚に案を考えさせ、一緒にそれを実現させる子とっです。
もう一つは、役所の上司たちが、改革の気風への転換を進めることでしょう。「このままでは、国民に評価されない」という危機意識を持つことです。改革案の問題点を指摘するのは必要ですが、そこで終わるのではなく、どうしたら改革案が実現するか、一緒になって考えてください。

マスメディアには、「日本は一流国でなくなった。官僚や公務員も改革を進めるべきだ」と、改革をあおってほしいです。
そして、少々の失敗にも、温かい目で見守ってください。新しい挑戦で問題が出ても、それを批判するのではなく、「その問題点を解決して、改革を実現せよ」と応援してください。最初から完璧な改革案はありません。それを求めていると、先送りになって、改革は進みません。
戦後日本の革新勢力と呼ばれた人や言論人は、「憲法を守れ」から始まって、現状維持派が多かったようです。このねじれも、現状維持を支援しています。そこから脱皮してほしいです。

もちろん、何でも改革すればよいという訳ではありません。すると、霞が関にとっても、日本社会にとっても、何を誰がどのように変えていくか。それを提示し議論する必要があるのでしょう。
しかし何にもまして、役所の前例踏襲の気風と先送りする体質は変えないと、官僚機構は社会の変化に遅れ、国民からの評価はさらに下がるでしょう。
この項、ひとまず終わり。

孤独を「解毒」するつながり

12月10日の日経新聞特集欄「超高齢化社会の課題を解決する国際会議」の、リンダ・フリード、アメリカコロンビア大学メールマン公衆衛生学部長の発言から。

・・・社会参加の対極に孤独がある。孤独は「親しい関係の人がいない孤独」「家族や友人との関係に不満足な孤独」「社会的な孤独」の3つに分類できる。社会的な孤独は、人々が社会へ貢献したいのにそのすべがないときに感じる。
「解毒剤」になるのが緩やかなつながりだ。高齢者が持つ社会的資本は多く、経験から培ったノウハウには大きな価値がある。
米国ではかつて「老いることは役割なき役割」といわれたが、状況が変わってきた。2900万人の高齢者がボランティアをし、30億時間に及ぶサービスを提供する。欧州連合(EU)と米国の調査では、高齢者のボランティア活動などによる労働市場への寄与率は国内総生産(GDP)の7.3%に相当する。
社会参加は、高齢者に対して健康状態の改善と幸福感の向上、孤立感の軽減をもたらす。健康になることで人々が活動に参加し、活動に参加することで健康が増進されるという好循環につながる・・・

・・・高齢者のために新しい社会的役割をどうつくりだすかが、引き続き重要な課題になるだろう・・・