かつて買ってあった本

執筆中の連載「公共を創る」第4章2(2)で、いくつかの本や新聞を紹介、引用しました。

デービッド・A・モス著『民の試みが失敗に帰したとき―究極のリスクマネージャーとしての政府』(邦訳2003年、野村総合研究所)、マリアナ・マッツカート著「起業家としての国家ーイノベーション力で官は民に劣るという神話」(邦訳2015年、薬事日報社)。もう、本屋には並んでいないでしょうね。
政府の役割の再検討が、私の勉強の主題なので、気になって購入してあったものです。その時は、目次とあとがき、冒頭部分を少々読んだだけで、本棚に置いてありました。原稿執筆の途中で思い出して、斜め読み(正確には、気になったところのみ飛ばし読み)しました。ゆっくりと全文を読むべきなのでしょうが、それだけの余裕がなく。
この本が出てきただけでも、良しとしましょう。たぶん、買ってありながら、山の中に埋もれている関係書物もあるのでしょう。

新聞記事は、日経新聞経済教室2013年4月1日付、岡崎哲二・東大教授執筆「産業政策を問う。新産業育成、世界的潮流に」。4月2日付、大橋弘・東大教授執筆「産業政策を問う。競争促進の視点が不可欠」です。
これも、かなり古い記事です。読んだときに気になって切り抜いて、半封筒に入れてありました。執筆に当たって本棚から半封筒を取り出し、その中から選び出しまし、後は捨てました。
こちらも、半封筒を忘れていなかったことを、褒めてやりたいです。

連載「公共を創る」は、さまざまな角度から、現在日本の行政と社会のあり方を論じているので、いろんな本や記事が参考になります。これまでの行政学の範囲に収まらないのです。
私の40年の公務員生活、その前の学生時代を含めると半世紀の勉強と体験が、反映されています。忘れていることも多いのでしょうが、それは頭に浮かんでこないので、数えようがありません。

3年を見通す経営

12月22日の日経新聞夕刊「こころの玉手箱」、志藤昭彦・ヨロズ会長の「3年手帳」から。
・・・3年間のスケジュールを書ける手帳が重宝している。最近は、日本能率協会マネジメントセンター(東京・中央)の「NOLTY」ブランドで3年連用のタイプを使っている。経営を担う中で最も重要なもののひとつは「3年先」を見通す力だ。社長になってから身にしみて感じている。
1998年6月に社長に就任したが、早々に経営危機を迎えてしまった・・・
・・・日産リバイバルプランは3年間で20%の調達コストの削減も示した。当社からすれば2割値引きで利益がごっそりなくなるが、最大顧客の危機だから協力せざるを得ない。2002年3月期から2期連続で最終赤字になったが、私は3年先の黒字転換を考えていた・・・

・・・04年3月期には最終損益が19億円の黒字に転じた。会社経営において「3年」という時間軸が重要であることを身をもって経験した。一般に企業の中期経営計画も3年間でつくることが多い。3年は会社が変わるために必要な年月ともいえるのではないか。
3年連用手帳は1年ごとに繰り返す「年中行事」を把握しやすく、月単位のスケジュールを組みやすい。3年先を見通す経営のために、この手帳は欠かせない・・・

討論にならない国会の仕組み

12月21日の朝日新聞オピニオン欄、山本龍彦・慶応大学教授の「「政治オペラ」の構造、切り込んで」から。
・・・先の衆院選以降、野党のあり方に関する議論が熱い。読者からも、「野党は批判ばかり」論に賛同する声、批判ばかり論を批判する声など、多くの意見が寄せられている・・・

・・・私が専門とする憲法学の観点から見ると、野党のあり方、野党と政府との関係性は、国会の統治構造によって強く規定されている。もちろん議員個人の性格にもよるが、審議手続きなど、現在の国会の統治構造上、野党は批判や対決に傾斜せざるをえない事情があるのだ。
例えば、国会運営に長く関わった元衆院事務局議事部長の白井誠氏は大日本帝国憲法下から形成されてきた、(1)内閣が提出した法案を野党が質疑で追及する「質疑応答型」の審議形式(2)与党事前審査制(法案提出前に与党が法案内容を審査し、承認を与える制度)(3)厳格な党議拘束、という「三位一体の統治構造」が党派を超えた議員間の自由な討論を妨げてきたという。審議は、構造上必然的に、与党多数派の承認を既に得ている法案の、「政府の都合による野党向けの説明会」となるから、野党議員は結論を承知のうえで「批判ぶり」を国民に向けアピールするほかない。また、会期中に議決に至らなかった議案は次の会期に継続しないという「会期不継続の原則」もある。この原則により、与党は会期中の法案成立を急ぎ、野党は会期切れの廃案を狙うという、およそ熟議からはかけ離れた政治が常態化する。

こう見ると、実質的で協働的な議員間の「討論」ではなく、硬直的で党派分断的な、さらに言えばショー化した政府・野党間の「対決」が行われるのは、国会が帝国議会だった時代から議事堂の内部で構築されてきた強固な統治構造のためでもあるわけだ。とすれば、仮に立憲民主党が「政策提案型」を取り込もうとしても、「構造」自体を変革しない限り、結局は「対決型」、それも劇場的対立型へと逆戻りする。
衆参各院と政府による内輪の取り決めや先例などから成る、こうした統治構造は、もちろん日本国憲法には書かれてはいない。しかしそれらは、わが国の議会制民主主義のあり方を根底において拘束してきた実質的な「憲法」といえる。しかしわが国の新聞は、このインフォーマルな「憲法」を明るみに出そうとせず、岩盤化した舞台の上で延々と繰り広げる「政治的オペラ(人間劇)」ばかりを報じてきたのではないだろうか・・・

外交文書の公開

12月22日に外交文書が公開され、各紙が取り上げています。朝日新聞読売新聞日経新聞。今回対象となるのは、湾岸危機といった、1990年前後の外交案件です。

あれからもう30年が経つのですね。湾岸戦争での日本の対応が、国際社会から「笑いものになった」ことに、私は大きな衝撃を受けました。「湾岸戦争での日本の失敗
世界でも最も多くの原油をその地域に依存している日本が、イラク軍から油田を取り返す戦争に、「日本は危険なことはしないので、お金を出します」と答えたことです。巨額の戦費を負担しながら、クウェートが出した感謝の新聞広告に日本の名前はありませんでした。

私は当時の講演などで、いかに日本の常識が世界の常識とずれているかを示すために、次のような例え話をしました。
・・・あるところに、水が乏しい村がありました。村に、一つだけ共同井戸がありました。ところが、外からならず者がやってきて、その井戸を自分のものにして使わせてくれなくなりました。村人は集まって、井戸を取り戻すために、悪者をやっつけに行こうと決めました。
一番多く水を使っている大地主の岡本さんにも、「お宅の息子も一緒に行ってください」と声をかけました。ところが、岡本は「わが家には、危ないところには息子を出さないという家訓があるので、息子は参加させない」と返事しました。村人は「でも、あの井戸から一番たくさん水を汲んでいるのは、岡本さんですよ」と言うと、岡本は「では、お金はたくさん出しますよ」とお金を出しました。
みんなで危険を顧みず悪者と戦い、追い出しました。終わった後で、お祝いの席がありました。岡本の息子も近くまで来たのですが、村人は「これは、参加したものだけの打ち上げですから、あんたは呼ばれてないよ」と言いましたとさ・・・

佐々江賢一郎・元外務次官の発言(読売新聞)
・・・湾岸危機当時、外務省北米局で日米関係の実務に携わった。率直に言えば、日本外交は失敗だった。戦争をする米国が同盟国の日本に期待するのは当たり前だが、日本は「米国が日本に何を求めるか、それにどう応えるか」と考え、受け身だった。90億ドルの支援でも大蔵(現・財務)、外務両省の連携が取れず打ち出すタイミングも悪かった。
ただ、この経験は2001年の米同時テロ後に生かされた。小泉首相は「出来ることをやる」と、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を提案した。そこからテロ対策特別措置法や15年の安全保障法制の制定へと続くプロセスは、自衛隊の力を積極的に使うことに意味があるという方向に日本の意識が変わる過程だ・・・

進まない男女共同、男もつらいよ

12月12日の読売新聞、田中俊之・大正大学准教授のインタビュー「男性視点で見直す男女格差」から。
・・・政治、経済分野での女性の進出が、先進国で最低レベルの日本。政府が「女性活躍」の旗を振るのに、なぜ進まないのか。田中俊之・大正大准教授は、男性が抱えがちな悩みや葛藤を研究する「男性学」の視点から、その背景を読み解く。男性の長時間労働を見直し、育児参加を促すことが、女性の社会進出の推進につながるからだ。自らも2児の子育てに奮闘しながら考える「男女がともに働きやすい社会」への道筋とは・・・

・・・男女雇用機会均等法の施行から35年。女性の採用は増えましたが、指導的立場に就く割合は、欧米諸国に遠く及ばない状況です。賃金格差はフルタイム勤務でも女性が男性の約7割で、非正規で働く割合は男性の2倍以上。出産後も働き続けることのハードルも解消されていません。
共働きの家庭でも、男性は社会から「一家の大黒柱」とみられる傾向は変わっていないのです。女性に比べて地位向上の機会に恵まれる一方で、弱音を吐くのは男らしくないという呪縛もあり、孤独に陥りがちです。男性の自殺率が女性を上回るのは、社会的な重圧が関連しているのでしょう。
近年は低成長時代に入って非正規で働く男性が増え、男性間の格差も拡大しています。50歳時点での男性の未婚率は2割を超え、収入の低い人ほど未婚の割合が高い傾向もあります。結婚は本人の自由ですが、希望しても選択できない状況は深刻です。
「女性は収入の高い男性を好む」と言われる背景には、女性の賃金が低く、性別の役割分担を前提にした社会の設計があります。男女の生きづらさは、お互いに「人ごと」ではなく、コインの裏表のような関係なのです・・・

・・・高度経済成長期以前は、家族で農業などに携わる働き方が主流でした。男性が雇用されて定年まで働き続け、妻は専業主婦という家庭が一般化したのは、それほど昔のことではないのです。近年はフルタイムで働く女性が急増し、独身の人も多い。それなのに、依然として男性の方が社会での競争を意識せざるを得ないのは、学校教育の影響もあるようです。
大学生に聞くと、いまだに高校では部活動の片付けを女子だけが担い、男子が教室の掃除をさぼっても許される、といった風潮が一部に残っているようです。女子は他の人の世話をする「女子力」を求められ、大学進学率が上昇しても理系に進む生徒は限定的です。学校や家庭でも、男女の役割の固定観念に縛られず、将来を自由に描けるような教育が必要です・・・

12月11日の日経新聞読書欄、山田昌弘・中央大学教授の「男らしさの呪縛を解こう 生きづらい男性のための4冊」も参考になります。
・・・近年、「男性弱者」に関する議論が盛んになっている。男性弱者とはおおざっぱに言えば、「稼げない男性」のことである。グローバル化、格差社会の進展によって、「稼ぐ」という従来の男らしさを実現できない「男性弱者」が増加していると言われている。
女性抑圧からの解放を目指すフェミニズム運動に触発されて出てきたメンズリブ運動や、「男らしさ」について研究する「男性学」の論客も、男性弱者を積極的に取り上げるようになってきた。そこでは、稼げない男性が結婚できなかったり、稼ぐ役割を強要され過労や自殺に追い込まれるなど、男性であることの「生きづらさ」が強調されるものが多かった。これらの論考を、社会学者の江原由美子氏は「男はつらいよ型男性学」と呼び、男女平等がけしからんといった反動的な思想や運動につながる危険性について指摘している。
しかし、従来型の男性学を日は敵に乗り越え、新しい男性のあり方を模索する論考が最近相次いで出版されている・・・