付加価値をつける

内閣人事局の幹部候補研修で、若い幹部候補たちに求めた一つが「付加価値をつけること」です。それは、2つの場面でです。

一つは、担当している仕事に、付加価値をつけることです。
引き継いだ仕事をこなす。そのまま次の人に引き渡すようでは、付加価値をつけたことになりません。それでは普通の職員です。
幹部候補なら、その仕事を改善してください。その仕事の問題点を改善する、不要な事務を見なおし簡素化する、生まれている周辺の問題を拾い上げるなどです。

もう一つは、自分に付加価値をつけることです。
与えられた業務をこなすようになることで、あなたの能力が上がります。しかし、これは普通のことです。
幹部候補なら先に述べたように、業務の問題点を見つけ改善すること、まだ取り組まれていない課題を見つけ解決策を考えることです。それが、あなたの能力を向上させます。あなたに付加価値がつくのです。

皆さん、毎日忙しいでしょう。でも、1年経ったときに、あなたは仕事にどのような付加価値をつけましたか、自分にどのような付加価値がつきましたか。今年を振り返ってみてください。

政と官の役割分担

11月26日の日経新聞1面連載「ニッポンの統治 危機にすくむ5」は「本末転倒の政治主導 無気力と無責任の連鎖」でした。
・・・日本の政治主導に綻びが目立つ。細かな政策に固執し、国を揺るがす危機への判断は先送りする。
菅義偉内閣だった7月、政府が緊急事態宣言下で酒を出さないよう金融機関から飲食店への「働きかけ」を求める通知を出したのが典型例だ。
銀行が飲食店に圧力をかけるのは独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」にあたりかねない。それを知りつつ発出した理由を担当の官僚に聞いた。
答えは「やらないと閣僚に怒られるから」。内容を和らげる提案はしたが、当時の西村康稔経済財政・再生相に「弱すぎる」と一蹴され、抵抗を諦めた。
通知は世論の反発で撤回された。この官僚は「政治不信を招き酒を出す店が増えてしまった」と通知を止めなかったのを悔やむ・・・

・・・戦後の経済成長を支えた官僚は1990年代、業界との癒着や不祥事で批判を受けた。その官僚のお膳立てに乗るだけの政治家のふがいなさも責められた。
冷戦終結やバブル崩壊後の変化に対応すべく官僚の情報を基に政治家が判断を下す政治主導の流れが生まれた。それ自体は間違った選択ではなかったはずだ。
ところが四半世紀たち、省庁幹部の人事を内閣人事局が握っても、閣僚は国会答弁を官僚に頼りがちだ。地元会合の挨拶文をつくらせる議員さえいる。こんな政治主導の下で発言権が弱まった官僚はやる気を失い、無責任がまん延する。
国のかじ取りを任されたはずの政治が思考を止め、将来ビジョンを描くはずの官僚は気概を失った。政治も官僚も動かない本末転倒な状況に日本はある・・・
・・・政治家が役人の知恵をくみ取り、責任は引き受ける土壌は失われて久しい。官とのあるべき役割分担を踏まえて政治主導を立て直さなければ、次の危機でも同じことが繰り返される・・・

政治家を動かす方法

11月26日の朝日新聞経済面「国際課税、新ルールへ:4 崩壊寸前の議論、コロナ禍で一変」に、麻生副総理がイギリスの財務大臣を動かす話が載っていました。この記事は「日本の官僚、国際貢献」の続きの連載です。

・・・とはいえ、各国の利害が鋭く対立する課税問題での合意は一筋縄ではいかない。いよいよ議論を主導してきた主要先進国の政治的な合意が必要な時期だった。
今年6月にロンドンで開かれた主要7カ国(G7)財務相会合。久しぶりの対面会合では新ルールの詰めの協議が続いた。

議長国・イギリスのリシ・スナック財務相に、麻生太郎財務相(当時)が「(英国の)首相になりたいんだろ? ここは勝負をするべきだ」と裏で発破をかけ、実績づくりのために踏み込んだ合意をまとめるよう促す場面もあったという。

会合最終日。「一番大事なのはG7が一致したメッセージを出すことだ」。スナック氏が具体的な合意内容を盛り込んだ共同声明への賛同を呼びかけると、麻生氏は真っ先に拍手。米国と対立したフランスのルメール氏も拍手の輪に加わった。ついに主要先進国が新ルールの大枠で合意に至った瞬間だった・・・

ネットいじめを防ぐ

ネットでのいじめが、大きな問題になっています。11月16日の日経新聞夕刊に、ネットリテラシー専門家の小木曽健さんによる「ネットいじめ、我が子を守るには」が載っていました。
・・・SNS(交流サイト)などでいじめ被害に巻き込まれる子どもが後を絶たない。我が子を被害者にも加害者にもしないため、保護者が普段から心がけるべきことは何か。「ネットで失敗しない方法」をテーマに講演活動を続ける小木曽健氏に寄稿してもらった。
「親に話すつもりはありません、小木曽さんも親には言わないでくださいね」――。先日、私のSNSアカウントに寄せられた、悪質ないじめ被害に遭っている中学生の言葉だ。親に言うどころか、私はあなたがどこの誰かも分からないのに……。それでもその子は「言わないで」と何度も念押しをした。
ネットリテラシー講師という仕事柄、子どもからネットで悩み相談を受けることが多い。大半は匿名で、親にもいじめを打ち明けられていない。「心配をかけたくないから」ではない。理由はもっと切実だ。
考えてみてほしい。いじめ被害者にとって「家の外」は、加害者に囲まれ神経を擦り減らす、心が休まる暇もない戦場だ。その戦場を抜け、やっとの思いでたどり着いた我が家。そこは唯一のリラックスできるオアシスだろう。
もしいじめの事実を親に知られたら……。その瞬間、オアシスが汚染されてしまう。「いじめ以前」の時間に戻れる貴重な場所を失う。だから親には言わないという子が少なからずいるのだ。心身を削るほどの深刻な状況でも親に相談しなかった子に「なぜもっと早く言わなかったの」と問うのは時に残酷だ・・・

・・・だが実際に親がネットいじめに気付けるかといえば、正直かなり難しい。むしろ気付けないかも、という前提での備えが必要だ。例えば、ネットいじめのニュースを見る度に「私はネットいじめとの戦い方を知っている」と口癖のように言い続ける。これはかなり効果がある。
実はネットいじめとの戦い方は決して難しくない。SNSでの匿名の誹謗中傷には、「URL」を含む画面のスクリーンショットが客観的な証拠になる。その画像を添えて「法的措置を検討している」と投稿するだけで、すぐに削除されるだろう。「なりすまし」(自分の偽物)アカウントが作られた場合も同様だ。警告すればたいていは消えていく。
これらの知識を事あるごとに子どもの前で口にすることで、いざという時に相談しやすい空気をつくっておきたい。大人が本気で戦おうとする姿勢を見せることは、被害者にも加害者にも響く・・・

11月23日の日経新聞教育欄には、原清治・仏教大教授による「ネットいじめ対策急げ 高校生8%経験、ゲームが主舞台」も載っていました。

産業支援のジレンマ

11月14日の日経新聞に「中小支援拡充、もろ刃の剣 倒産少なく、革新には足かせ 専門人材の育成課題に」が載っていました。

・・・中小企業の経営が正念場を迎えている。倒産件数は50年ぶりの低水準で推移するが、長引く新型コロナウイルス禍で稼ぐ力が衰えている。政府が19日にまとめる経済対策にも3兆円程度の給付金が盛り込まれる見通し。手厚い支援策はイノベーション(革新)を阻害する副作用もあるだけに、コロナ後を見据えて中小支援のあり方も軌道修正する時期に来ている。
「給付金はないよりはありがたいが、経営を浮上させる効果は期待できない」。富士国際旅行社(横浜市)の太田正一社長は話す・・・

コロナの影響で大幅な減収となった事業者に、政府は給付金を配って支援をしています。これによって、企業の倒産、失業者の増加を抑制しています。企業倒産件数は、1972年以来最小です。
ところが、このような支援は、競争に生き残ることができない企業を存続させる、革新や新陳代謝を阻害する場合もあります。すると、平時に戻った際に、これらの企業は生き残ることができません。難しいところです。