11月7日の読売新聞言論欄、歴史家のサンジャイ・スブラマニヤムさんの発言「インド 西洋への遺恨と打算」から。
・・・国民会議派は80年代以降、長期政権の腐敗と疲弊、経済政策の失敗などで衰退し、90年代に入ると権力を掌握できなくなります。
権力の空白を埋めたのがポピュリズム(大衆迎合主義)をテコに伸長したインド人民党です。ヒンズー教の栄えた古代インドを理想郷とし、古代インドは飛行機を発明するなど全能だったという虚妄を吹聴している。同党によれば、インドの不幸は11世紀以降の中央アジアからのイスラム勢力の襲来で始まり、15世紀末のポルトガルの航海者バスコ・ダ・ガマ到来後の西欧列強の侵略で不幸が募り、18世紀半ば以降の英国の支配でどん底に落ちたのです。
ヒンズー至上主義には反ムスリム・反西洋という排他性がある。
インドは英国支配で歴史の断絶を被りました。古代インドは歴史をサンスクリット語やペルシャ語で記していた。英国はそれを「神話・空言」と断じ、インド社会に歴史の概念はないと決めつけた。統治を容易にするためでした。
大衆は過去との真のかかわりを失いました。そこから三つの反応が起きます。まず劣等感、その裏腹の過激な民族主義。次に歴史の忘却。そして冒頭で言及した、西洋に対する遺恨。ありもしない理想郷の再生を掲げるインド人民党が支持される社会心理です・・・