「明るい公務員講座」3部作の解説

「明るい公務員講座」3部作を、改めて紹介します。私の経験を基に、次のような3冊を出版しました。
明るい公務員講座』(2017年、時事通信社)
明るい公務員講座 仕事の達人編』(2018年)
明るい公務員講座 管理職のオキテ』(2019年)

趣旨は、公務員や会社員の仕事の「教科書」を作ることです。
本屋にはビジネスコーナーがあり、たくさんの本が並んでいます。文書の書き方やパソコンの使い方といった「技能」に関するもの、挨拶の仕方や電話のかけ方といった「作法」に関するもの、そして自己研鑽など「心構え」です。このほかにリーダーシップ論などがあります。それぞれに価値はあるのですが、肝心のことを書いた教科書がないのです。
すなわち、技能や作法の全体像であり、「仕事の仕方」です。「これだけは覚えておくように」という仕事の基礎です。

3部作を読んでいただくとわかりますが、びっくりするようなことは書いてありません。仕事ができる人や出世した人なら、みんなが知っていることです。ところが、若い人は初めてそのような事態に遭遇して、悩むのです。「この仕事をどのように片付けたらよいか」「課長の了解をどのように取ろうか」「毎日忙しいのに、なぜ仕事が片付かないのか」「私のいうことを、なぜ相手は理解してくれないのか」とです。このような「小さいけれど重要なこと」が、書かれた本がないのです。
多くの先輩たちは、本を読むことなく、また研修で教えてもらうことなく、身につけたので、当たり前のことと思っています。「先輩の仕事を見て覚えなさい」でした。それらは言葉にするのが難しく、引継書や手順書にも書かれていないのです。それらを本にしたのです。

本屋には、能力向上のための本が、さまざまな分野でたくさん並んでいるのですが、「仕事の仕方」「仕事の基礎」そのものを書いた本は、意外と見当たりません。
管理職についても、たくさんの指導者論やリーダーシップ論があります。しかし、役所や会社の課長に必要なのは、古典に学ぶ指導者論やナポレオンや松下幸之助さんのようなリーダー論ではなく、職場管理の基礎です。
また、先輩たちがさまざまな本を書いているのですが、それらは経験談であり随筆に近いのです。
私は執筆に当たって、教科書を作ること目指しました。教科書だと、必要な項目を網羅し、それを体系的に並べる必要があります。教科書を目指したとはいえ、読みやすい文章にしました。
ありがたいことに、版を重ねています。また、職員研修講師にも呼んでもらっています。聞くと、このような仕事の基本、課長職の基本を書いたものがないようです。

『明るい公務員講座』は一般職員向け、
『明るい公務員講座 仕事の達人編』は係長や課長補佐向け、
『明るい公務員講座 管理職のオキテ』はこれから課長になる人や課長向けです。

知らないことが書いてあったら、参考にしてください。知っていることばかりなら、安心してください。それが教科書の役割です。
経験豊富な方も、時々読み返してもらうと、「そうだよな」と改めて気づくことがあると思います。あなたは忘れていますが、部下たちはそんなことに悩んでいるのです。部下の悩みを知るためにも、読み返してください。

最低支店長から社長に

9月15日の日経新聞「失敗のススメ」は、「悔しかった「最低支店長」の烙印 井村屋G社長の挫折」でした。肉まんやあずきバーで有名な井村屋の中島伸子社長が、職員から最低の評価を受けながら、そこから立ち直り、社長になる話です。

・・・社会人にとって自分のマイナス評価につながる「失敗」はなるべくしたくないもの。しかし会社人生で致命的ともいえる失敗をしながら、それを糧に成長した経営者がいる。部下の離反、海外事業の撤退、巨額損失……。失敗から何を学び、どう立ち直ったのか。6人の失敗経験を振り返りながら、逆境をバネに成長するヒントを探る。
「会社にいない方がいい」。支店長時代に部下の大半からそのような烙印を押された・・・

関東支店長の時、約50人の部下に匿名でアンケートをした際のことです。自分への評価を5段階で聞いたら、約40人が1点「いないほうがよい」か2点の「たいしたことない」をつけました。落ち込んだ中島さんは、上司に辞表を提出します。しかし専務は「社員に聞いてどうする。評価はお客さんに聞くもんや。そんな辞表は受け取れない」と一蹴されます。
中島さんは、自分のやり方を見なおします。それまでは前任者のトップダウン式を踏襲していましたが、現場に社員と一緒に赴いて取引先の話を聞くようにしました。
自分視点の考え方を捨てると、見える風景が変わりました。関東支店を建て直し、その後は出世を続けて、社長になります。
ぜひ、原文をお読みください。

肝冷斎に学ぶ、権力争いと部下の道

中国古典の名詩や歴史を取り上げ、解説してくれる「肝冷斎日誌」。専門的で、門外漢には難解なことも多いのですが。9月17日の宋の宰相・秦檜の最後の場面は、わかりやすく勉強になります。

この話を深く理解するには、南宋と金との戦い、秦檜と岳飛との抗争を知らなければならないのですが。この場面だけでも、勉強になります。
政治は、政策(の提示と実現)と権力(の追求と争い)の二つの要素から成り立っていますが、権力(争い)が前面に出てくると、このようになるのですね。
シェークスピアをはじめ小説や劇としては権力争いが面白いのですが、国民にとっては政策実現が重要です。

あなたなら、どうしますか。
第3案、一度は辞退して、再度勧められた受け取る。日本でのお勧め。
第4案、「では、ひとまずお預かりして、秦檜さまがお元気になられたらお返しします」と言う。
第5案、それくらい親しくなっていたら、2人も秦檜のやり口や考えはわかっていただろう。また、秦檜の方も部下の気質を知っていただろう。よって、こんな方法で2人の部下を試すことはない。

ところで、肝冷斎は落とし穴にはまりつつ、元気がないと言いながら、元気よく野球観戦も続けています。

オンラインでの謝罪

9月14日の日経新聞夕刊Bizワザは「誠意伝わる服装や場所で オンラインで謝罪」でした。お詫びは対面でするのが基本ですが、コロナ下では、ビデオ会議システムでお詫びする機会も増えているようです。
といっても、私が経験したお詫びも、目の前には記者たちがたくさんいましたが、その向こうには県民がいました。カメラを見て話すのは同じです。オンラインでの謝罪は、相手の顔が見えるということです。

記事には、参考になる点が書かれています。和田裕美・ビジネスコンサルタントの「原因や対策、説明を明確に」も勉強になります。
お詫びの機会はない方がよいのですが、今やどの組織でも管理職に必須科目になりました。読んで勉強しておいてください。

連載「公共を創る」第93回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第93回「社会の課題の変化―「弱者発見」とその対応の拡大」が、発行されました。

今回から、「第4章1(3)個人の責任と政府の責任」に入ります。
第4章(連載第71回から)では、日本が成熟社会に入ったことで、社会の問題と行政の課題が変化したことを説明しています。新しく生まれた格差と孤立という不安は、これまでの行政の方法では対応が難しいものでした。
新しい弱者が発見され、行政がその救済を引き受けることになりました。これまで個人や家庭の責任だったリスクが、政府の責任になりました。それが、行政の在り方に大きな変更を求めています。この変更は、国の在り方や憲法の議論にも及ぶ、大きなものだと、私は考えています。

今回は、新しい弱者が発見され、その対応を拡充してきた歴史を振り返ります。
極めて簡単にまとめると、19世紀には労働者を発見し、次に働けない人たちを、20世紀後半に消費者を、21世紀には社会生活において自立できない人を発見したと言えるでしょう。
近代の行政の歴史は、弱者を発見し、それに対する救済の方法をつくってきた歴史です。国民みんなが必ずしも「自立した市民」ではないことを発見し、その人たちを支える手法をつくり出してきました。
そして今また、新しい種類の弱者が発見されました。その人たちを支援する手法は、これまでの社会保障を超えるものです。