顧客志向文化と製品志向文化

「業績を左右する社風」の続きにもなります。8月17日の日経新聞経済教室、若林直樹・京大教授「顧客志向文化が企業を救う」から。

・・・市場で複雑かつ急激な変化が起きたとき、企業が顧客のニーズと将来像を中心に考える企業文化を持っていれば、経営者や社員が対応しやすくなる。米ハーバード大学教授だった故クレイトン・クリステンセン氏は自らのジョブ理論の中で、企業のイノベーション(革新)において、顧客の短期的なニーズだけでなく未来の生活や活動に求める将来像(ジョブ)を考える視点の重要性を主張した。
顧客志向的な企業文化は経営者や社員にこうした視点を意識させる。米国最高マーケティング責任者(CMO)協議会の2014年調査では、米国企業のマーケティング担当役員の53%が企業文化を顧客志向的に変革することを経営課題として挙げた(図1参照)・・・

・・・顧客志向的な企業文化が強いと、経営者や社員の思考方法、意思決定や行動はそれに影響され、市場や外部を意識したものとなる。ここでいう顧客志向的な企業文化は、製品志向的なものとは異なる。米メリーランド大学教授のローランド・ラスト氏らは、製品志向的な視点をとる企業組織は内向きの視点をとり、経営目標でも新製品開発でも、ライバルと数を競うことや市場占有率の増大を重視すると指摘した。
それに対して、顧客志向的な企業では視点が外向きとなり、顧客との関係が重視され、顧客忠誠心をもとにした収益力が重視され、顧客満足や顧客価値の上昇が目標となる。従業員も顧客の考えを代弁するようになる。そして、環境が変わり、従来のやり方がうまくいかず、ビジネスが混迷したときに、顧客に沿って考えるようになる・・・

社会の意図した変化と意図しない変化

連載「公共を創る」の一つの主題は、昭和後期と平成時代に社会が大きく変化したのに、行政と私たちの意識がそれに追いついていないことです。それが、社会の不安を大きくしていると考えています。では、社会は、誰が、どのようにして変えるのか。
それを考えると、しばしば「社会の変化」と言いますが、その中に二つのものがあることが分かります。私たちが意図して変えたものと、意図しないで変わったものとです。

丸山真男先生は、「自然と作為」と表現されました。
人が意図しなくても変化した場合に、「自然に変化した」と言います。例えば、核家族化が進んだ。少子高齢化が進んだ。高学歴化になったなどです。しかし、このような社会の変化は、各人が選択し行動した結果の積み上げですから、この表現は不正確です。
では、「自然に変化した」社会の変化を、どのように表現するか。対になるのは、「意図して変えた」です。すると、「自然に変化した」は「意図せずに変わった」ということでしょう。この場合でも、各人はそれぞれに判断し変えてきたのですから、意図しています。しかし、社会全体でその方向に変えるとは意図していなかったのです。

「設計の思想」と「生る(なる)の思想」と、表現してもよいでしょう。設計の思想とは、あるモノや状態を意識して作り出すことです。デザインや計画とも言い換えることができます。これに対して、生るの思想は「放っておいたら変わっていた」です。設計者がいるのと、いないのとの違いです。 社会全体の変化について、設計していないのに、変化したのです。参考「社会はブラウン運動1 人類の進化は偶然の積み重ね」「デザイン思考、あるいは商品としての言葉
この項続く

職場で孤立させない

8月20日の朝日新聞ひと欄に、植田陽子さんの「学校看護師の「豊中方式」を全国に広げる」が載っていました。

・・・「学校で働く看護師が辞めないようにしてほしい」。そう上司から言われたのが20年前。大阪府豊中市立病院の看護師から畑違いの教育委員会に異動になった時だ。
豊中市では、人工呼吸器などの医療的ケアが必要な子どもを地域の小中学校で受け入れ、学校に看護師が配置されている。だが、その離職率が高かった。
「異質な環境で相談相手がいなくて孤独だった」と分析し、看護師を集めて意見を聴くことから始めた。どの子でも担当できるようにマニュアルを整え、日替わりで教委から学校に派遣するやり方に変えた。看護師の負担が減り離職率も低下。「豊中方式」として注目されるようになった・・・

なるほど、良い方法ですね。たくさんの人が働く職場でも、さまざまな職種がいてそれぞれの職員が少ないところもあります。その人たちを孤立させないことは重要です。
東日本大震災での復興の際に、地方の中小企業に採用された社員が、同期や同年齢の社員がいなくて孤独だという問題を聞きました。その問題に取り組んでいるところもあります。人手不足解消は、採用活動だけでなく、採用後の定着も重要です。「マチリク、町ぐるみで採用する

黒江・元防衛次官の回顧談6

「黒江・元防衛次官の回顧談5」の続きです。失敗だらけの役人人生、追補9は「信念岩をも通す(下)有事法制と平和安全法制」です。内容は本文を読んでいただくとして。政治主導と官僚の役割の実例が語られています。

基本的な政策で国内に意見対立がある、しかし差し迫った必要性がある、これまでの政策の方向を変える。このような場合には、官僚では結論を出すことはできません。準備をしつつも、政府与党で方針を決める必要があります。そして方向が定まったら、それに従い官僚が法案を用意し、与党の了解を得る。

さて、非常に興味深く勉強になった黒江・元防衛次官の回顧談。今回で終わりのようです。官僚の役割としても、重要な記録です。この連載が本になること、そしてまた続きが書かれることを期待しています。

・・・たまたま今年は、私が防衛庁に勤め始めてからちょうど40年の節目に当たるのですが、この間に我が国を取り巻く安全保障環境が大きく変化してきたことは追補版で紹介した通りです。特に昨今は、従来のようなOn o∬がはっきりした活動ではなく、誤解を恐れずに言えば「常在戦場」的な活動が要求されているように思います。これは、例えば尖閣諸島をめぐってグレーゾーン状態が常態化していることや防衛省のHPや各種システムが日常的にサイバー攻撃の脅威にさらされていることからも明らかです。「平素は部隊の練成に努め、一朝事ある時に即応する」という考え方ではもう情勢に対応出来ないのではないかと感じます。このような難しい状況に対応するためには、常に情報収集・分析を怠らず、政策決定権者と状況認識を共有し、適切なタイミングで選択肢を提供し、必要な命令を即座に得ることが必要不可欠です。不断の改善は必須だとしても、これらの業務に必要な制度や組織などの基本的なインフラは既に整備されています。これかりま、こうしたインフラを最大限に活用して日々の事態に対応して行くことが求められているのです。運用部門での仕事について紹介した際に「結果を出す」ことの重要性を強調しましたが、今はさらに「スピーディに」結果を出さなければなりません。若い皆さんがこなさねばならない仕事は、私の現役時代よりもはるかに複雑で難しくなっていますが、結果を恐れずにスピード感をもつて取り組んで頂くことを切に祈念します・・・

「富士山噴火 その時あなたはどうする?」

鎌田浩毅先生が、また新著を出されました。『富士山噴火 その時あなたはどうする?』(2021年、扶桑社)。早速、アマゾンでは、防災分野でベストセラー第1位になっています。

なかなか刺激的な表題です。しかし、歴史を見ても、避けられない災害です。その時あなたはどうするか。本書では、最初に漫画が出てきます。わかりやすいです。
小規模な噴火と火山灰は、私は鹿児島で桜島の火山灰を経験しました。たぶん、富士山噴火とは比べものにならない量なのでしょうが、生活に支障を来します。
東京が被災地になることは、これまでの災害とは違った影響を持ちます。
一読をお勧めします。

鎌田浩毅先生は、相変わらず精力的に活動しておられます。