黒江・元防衛次官の回顧談4

黒江・元防衛次官の回顧談3」の続きです。
失敗だらけの役人人生(追補5)」「失敗だらけの役人人生(追補6)」は、平成以降のわが国を取り巻く国際安全保障環境の変化と、国内の政治経済状況が極めて流動化したことを、体験として書いています。それまでの通念、常識が通用しなくなったのです。

北朝鮮工作船との銃撃戦、北朝鮮のミサイル発射、中国の挑発、自衛隊のイラク派遣撤退といった事案への対処とともに、総理官邸、安全保障・危機管理室の様子、イラク現場の緊張感が書かれています。
日本の安全保障環境と防衛省の仕事が、急速に変化したことがよくわかります。また、政府内部でどのように対応されているかも。これらも余り活字になっていません。貴重な証言です。

ドルショックから半世紀

8月2日の日経新聞オピニオン欄、藤井彰夫・論説委員長の「1971年真夏の衝撃 米中とドル、教訓今も」が勉強になります。若い人には歴史でしょう。一読をお勧めします。

・・・新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下の東京五輪大会の開催。2021年の夏は日本人にとって忘れられない夏になるだろう。
今から50年前の1971年の夏もそうだった。キッシンジャー米大統領補佐官(国家安全保障担当)が極秘に中国を訪れ周恩来首相と会談。それを受けて7月15日にニクソン大統領は翌年の訪中を電撃発表した。1カ月後の8月15日、ニクソン氏は日曜夜の緊急テレビ演説で金・ドル交換の停止を宣言した・・・

あれからもう半世紀も経つのですね。私は高校生でした。キッシンジャー補佐官の極秘交渉で、ニクソン大統領が訪中することは、それなりの衝撃を持って受け止めました。
しかし、ドルショックの方は、それがもつ意味はわかりませんでした。まず為替相場の意味がわからず、「円高になると、1ドル360円が例えば200円になる」と聞いて、「なぜ円「高」といって、下がるの」という程度の認識でした。

この記事にもあるように、日本政府の関係者も何が起きるのか、よくわからなかったようです。
1ドル=360円で守られていた輸出産業が、変動相場の波に洗われることになりました。一つの経済的「開国」だったのですね。
現在では、定時のニュースで、円ドル相場と株式市場の動向が伝えられます。しかし、それまでは、1ドル=360円に固定されていましたから、円ドル相場のニュースはありませんでした。
日経平均株価を定時のニュースが伝えるようになったのは、いつからでしょうか。かつて気になって、NHKに問い合わせたのですが、「いつから報道するようになったかは、わからない」との回答でした。

別世界のようなスロベニア風景

今日は趣向を変えて、涼しげで雄大な風景をお見せします。
どこだと思いますか。スロベニアです。どこにある国か、ご存じない方も多いでしょう。中央ヨーロッパ、旧ユーゴスラビアです。イタリアのベニスの東といったら、位置はわかるでしょうか。しばし、日本の蒸し暑さを忘れてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真は、松島浩道・駐スロベニア大使の提供です。

人材育成、規範的判断力の重要性

8月3日の日経新聞、宮田一雄・元富士通シニアフェローの「ジョブ型時代の高度人材 規範的判断力こそ重要」から。

・・・データサイエンティストやデジタル部門責任者などのジョブ型雇用が始まり、人材の流動化が日本でも進み始めたことは喜ばしい。専門性が求められるデジタル部門責任者に、終身雇用下でゼネラリストとして育った人材が就く日本の現実は世界でも特殊だ。
既存企業がデジタル技術の急速な進化に対応していくには新卒一括採用後に企業内研修を経て職場で育てる時間はない。
経営陣には技術の重要性を的確に判断できる高度専門人材がいないと、正しい判断はできない。価値の重みがモノからサービスにシフトし、企業は技術を価値に転換する経営が求められているからだ。「GAFA」に代表される米ネット大手の経営陣の多くはコンピューター科学や心理学、経営学などを大学院で学んだ人々である。
といって、専門知識のみが大学教育に求められているわけではない。企業は、その根っことしてのリベラルアーツ教育に期待している。

リベラルアーツというと歴史や文学を思い浮かべがちだ。高度専門人材のためのリベラルアーツとして産学で合意したのは「人文学、社会科学、自然科学のどの分野であれ学生が一つの専門を深く学ぶとともに、他分野にも関心を広げ、幅広い知識と論理的思考力、規範的判断力を身につけること」という定義だ。
ここで規範的判断力が重要であるという指摘は新鮮だった。これからは「望ましい社会や企業とは」「公正な社会とは」といった判断が避けて通れない。それには一定のトレーニングが要る。
哲学・倫理学だけではなく政治学、法学、経済学、社会学などの規範に関する理論を学び、規範的な思考の枠組みを身につけなくてはならない。複雑な社会課題の解決や共通善に向けた新たな価値づくりのためには、論理的思考力に加え規範的判断力が必須なのだ。
ドイツでは大手企業の経営者の45%が博士号を持つ。大企業の役員・管理職に占める修士以上の割合は米国62%に対し日本は6%。日本の大学院進学率は理工系こそ40%前後だが、人文社会学系は5%以下だ。
こうしたデータを見ると、バブル経済の崩壊以来30年に及ぶ日本の停滞の原因は役員・管理職層の規範的判断力の不足、企業で活躍する文系大学院修了者の少なさにあるという仮説が浮かぶ・・・

益川先生、人は記憶を作る

ノーベル賞を受けられた益川敏英先生が、お亡くなりになりました。なかなか愉快な先生だったようです(失礼)。私のホームページで先生を紹介したことを、思い出しました。再度掲載します。
物忘れのひどい私が言うのではなく、ノーベル賞学者がおっしゃることで、説得力があります。「人は記憶を作る

・・大学の学生時代、友人たちと映画を見た後、感想を語り合った。登場した女性について、ある者は「黄色い色の服を着ていた」と言い、別の人は「赤い服だった」と言う。また別の者は「違う、青色だった」と、てんでばらばらな議論になった。
そこで、確認するために、もう一度映画館に行こうと提案した。ところがその映画は白黒映画だった。色がついているはずがない。みんなキツネにつままれたような表情だった。
人間というものは、記憶を作ってしまうものだということが、その夜の議論の結論だった・・