8月2日の朝日新聞オピニオン欄、伊藤智章・編集委員の「戦災救済、民間置き去り 根底に「受忍論」、いびつさ見直しを」から。
・今の日本は原爆、沖縄戦などを除き、民間の戦争被害を救済する制度がない
・第1次大戦後から欧米は民間被害も補償した。戦時中の日本ですら制度があった
・国による慰霊や被害調査も不十分。当事者が存命のうちに救済立法を急ぐべきだ
・・・救済法は3月の参院予算委員会でも取り上げられた。政府は「すべての国民が何らかの戦争の犠牲を負った」(菅義偉首相)としたうえで、「政府は、雇用関係にあった軍人軍属らに補償の対応をしてきた」(田村憲久厚生労働相)と答えた。裏返せば、雇用関係のない一般国民の被害を補償する義務は国にはない、ということだ。
根底には、戦争という非常事態下、身体や財産の被害は、国民が等しく我慢しなければいけない、という「受忍論」がある。最高裁が68年の判決で打ち出した理屈だ。
実は戦争中の政府は、こんな非情は言えなかった。42年に戦時災害保護法を制定し、民間被害者に給付した。
「戦災者の栞 みなさん御存じですか こんな温い手があります」
45年6月8日付の朝日新聞記事が同法を紹介している。持ち家全焼は千円以内、遺族500円、救助中の死亡に千円を支給、とある。41年の国民学校(小学校)教諭の初任給が50~60円だった時代にそれなりの支給をした。
45年度支給額は7億8600万円。傷病軍人や遺族向けの軍事扶助法による支給額2億2800万円の3倍だ。
ところが戦後の46年、民間人の救済は生活保護などで対応するとして占領軍の指示で廃止され、それっきりだ・・・
・・・ 旧西ドイツは独立回復後に連邦援護法を制定し、軍民差別のない救済を進めた。英仏も同様だ。現地調査をした国立国会図書館元調査員の宍戸伴久さん(72)によると、欧州は国家総力戦になった第1次大戦を契機に、民間被害への支援を始めた。日本の多くの援護制度と違い、外国籍も救済する・・・