彼にとって正しいこと

社会には、「正しいこと」「正しい判断」には、いくつかの次元があるようです。自然科学の場合は、正しいことは誰が見ても、どの時代でも一つに定まります。(後世になって間違いが指摘される場合や、シュレーディンガーの猫はこの際おいておきます)

1つめは、彼にとって「いま正しい」ことです。
トランプ・前アメリカ大統領の言動は、しばしば「常識外れ、これまでのアメリカ政治の文脈から外れている、アメリカの国益にも世界の平和と繁栄にも反する」と指摘されます。しかし、彼にとっては、「正しいこと」をしていると判断しているのでしょう。
例えば、地球温暖化への取り組みや自由貿易の推進について、これまでと逆行する主張をします。それについては、「前任者のオバマ大統領のやったことの反対をする」とか、「トランプ大統領の支持者に受ける政策を打ち出す」と指摘されています。たぶん、そうなのでしょう。彼にとっては、中長期のアメリカの国益や世界の繁栄より、今目先の有権者(それも一部の)の支持、そして再選が重要なのです。
ジョンソン・イギリス首相も、かつては残留を支持する立場でしたが、キャメロン首相の後継争いで優位に立つために離脱派に加わった(そして僅差で負ける予定だった)と言われています。

トランプ・前大統領に限らず政治家は、まずは政権を取ること、そしてそれを維持することを目指します。いくら「中長期的に正しいこと」を主張しても、政権を取らないと、それを実行できません。
しかし、民主主義の場合は、有権者が「自分にとって正しいこと」を基準に政治家を支持します。トランプ・前大統領も有権者の支持があったからこそ、大統領になれたのです。有権者にとって正しいことにも、「当面目先に正しいこと」と「中長期的に正しいこと」があるようです。
もちろん多くの政治家は、「当面の支持を得るために正しいこと」だけではなく「中長期的に正しいこと」を意識します。それは、国民から間違いを指摘されないように、また将来に汚名を残さないためにです。

2つめは、その時代にとって正しい(と思われる)ことです。
なぜ、1917年のロシア人は、レーニンと共産主義革命を支持したか。1933年のドイツ人は、ヒトラーを支持したのか。今から見るとおかしいと思いますが、当時は多くの人がそれを正しいと思ったのです。当時は、経済危機にあり、社会が混乱していました。国民は、レーニンとヒトラーに、豊かさと安定を求めたのです。
1910年、日本の指導者は、韓国を併合することを決断します。ロシアや清と対抗し、日本の国益を守るために必要だと考えたのです。現在から振り返ると、植民地支配は後世に大きな禍根を残しました。当時は、それが正しいことと思われたのです。ヨーロッパ列強もたくさんの植民地を持っている。遅れて近代化し強国となった日本も、乗り遅れないようにすると。

3つめは、後世でも正しいことです。

この記事は、2年ほど前に書いて放置してあったのを発見しました。時代遅れにならないうちに、載せておきます。