行政の評価、努力と結果

東日本大震災から10年が過ぎ、たくさんの評価や検証がされました。私も出番があり、考えたことをこのホームページに書いておきました。「大震災10年目に考えた成果と課題、目次

全体を見るには、『総合検証 東日本大震災からの復興』が良くできています。そして、阪神・淡路大震災の検証と比較すると、東日本大震災復興政策の特徴がわかりやすいと考えました。
阪神・淡路大震災復興政策の検証としては、兵庫県が作成した「復興10年総括検証・提言事業」があります。学識者54名による検証報告を元にとりまとめた、全4千ページ以上の検証報告書です。目次を見ると、さまざまな分野で詳細な検証がされています。ただしあまりにも大部で、読み物としては不向きです。いわば「辞書」としての機能と言ってよいでしょう。

もう一つ残念ですが、私の関心とは少々ズレています。阪神・淡路大震災の検証報告書には、新たに取られた施策がたくさん列記されています。しかし、復興政策を検証するには、目的がどの程度達成されたのか、どこが足りなかったのかを、見てみたいのです。
東日本大震災復興政策での目的は、安全な町を復興することと、住民の暮らしと街のにぎわいを再建することだったと言えるでしょう。安全な町づくりは、高台移転と現地かさ上げで達成できたと考えます。住民の暮らしと街のにぎわい再建は、取り戻せたところとまだ不十分なところがあります。
その目的のために、行政は十分なことをしたかどうか。これについては、これまでにない政策をたくさん打ちました。これも高く評価されているのですが、これは目的達成の手段でしかありません。

すると、行政の評価としては、どれだけ達成したかという成果の評価と、そのためにどれだけ政策を実行したかの、二つの面があります。阪神・淡路大震災の検証報告書は、後者の面が強いのです。それに対し、『総合検証 東日本大震災からの復興』は目次を見ていただくとわかるように、研究者が6つの分野で23の項目に分けて、やったこととその評価を分析しています。

M・ウェーバーの責任倫理と心情倫理の対比を利用すると、結果評価と努力評価でしょう。学生の勉強の評価でも、どれだけの点数を取ったかと、どれだけ努力したかの2つがあります。
大震災復興政策検証に限らず、行政の評価の際に役所が行うと、しばしば「これだけのことをしました」という項目が並びます。それは、役人にとって「産出量・アウトプット」であっても、現場では「投入量・インプット」でしかありません。現場での評価は、どれだけできたかという「成果・アウトカム」で行うべきです。

目立たないこと、成長がない時代の時流に乗る

5月1日の朝日新聞オピニオン欄、真山仁さんの「いまの時代」から。

・・・根本は変わらなくとも、一方で、時代の影響を受けやすいのが人間という生き物である。
高度成長はとっくに過ぎ去り、「日本の未来は、墜ちていくだけ」と感じている国民が確実に増えている。
これぞまさに「分断の時代」だと、軽はずみには言いたくないが、「みんな」で一緒に幸せになろうとか、一緒に頑張ろうという時代は終わった。自分だけが得をするために、うまく抜けがけする知恵を巡らせる。そんな殺伐とした世界の中で、自分に自信のない弱気な人は、目立たずおとなしく、少しはおこぼれにありつけそうな大きな船に乗ろうとする。

その結果、自分の立ち位置が分からなくなってしまい、うっかりしていると自身の存在意義すら見えなくなる。
だから、若い世代は、承認欲求を満たそうと必死だし、時流の中心にいたいと焦っているように見える。
「僕らの時代なら、人と違うことをすると、かっこいいという風潮がありましたけど、今は目立たない努力をしている。みんなと同じ色のランドセルを背負っていると、いじめられないという防衛本能がある気はしますね。言ってみれば、『個にこだわりすぎて迎合してしまう時代』ですね」
「個」の時代のはずなのに、「みんな」の空気を読まなければならない。だから、生きづらいのか・・・

広い視野と行動力、岡本行夫さん

岡本行夫JICA特別アドバイザー追悼記念シンポジウム」(4月29日)を見ながら考えました。今も、録画を見ることができます。行夫さんを見ていて感じることは、その広い発想と行動力です。それとともに、多彩な趣味です。基にあるのは、熱い男でした。

まず、課題への取り組みです。自らの所管業務について、視野を広げて考えます。それは、将来という軸と、現時点での広がりとの両面です。それには、持っている付き合いの広さ(人脈)、持っている場所の多さ(異業種交流)が物を言います。
そして、課題解決のために、所管を超えて行動されます。この思考は、外交官という職業にも由来するのでしょうか。予算や制度を所管するのではなく、日本が世界で位置を占めるためには、どのようにするのがよいかを考えておられました。「今、それをしなくても」と考えられることでも、検討し行動に移します。
そして、それを実現するために、関係ある人を巻き込んでいかれます。ひとりではできないことですから。相手を動かすには、言葉(論理)とともに、信用される人間関係が必要です。そこにあるのは、憂国と情熱でしょう。

しかも、仕事だけでなく、多彩な趣味をお持ちです。その一つ、エジプトでの海中写真が、『フォト小説 ハンスとジョージ 永遠の海へ』(2021年2月、春陽堂書店)として、小説となって本にまとめられています。きれいな写真とともに、人の悲しみへの共感、人間の野蛮さへの怒りが書かれています。
私も、いくつもの場に誘っていただきました。私には縁のない分野が多く、楽しみでした。それをここで紹介するのは、行夫さんが喜ばれないでしょうから、書かないでおきます。
「全勝さんも熱いから」と言って、10年後輩の「内政官」をかわいがってくださいました。

技能実習生の実態

商売と人権」の続きです。佐藤暁子さんの「人権とビジネス、企業のあり方は」には、次のような指摘もあります。

・・・人権侵害は日本にもある。弁護士として案件に向き合ううち、日本の貧困や格差にもより敏感になった。
「『技能実習生』として海外から受け入れ、日本で働く人々の人権に、どう対応しているでしょうか。自らの基本的な権利は、必死で守らなければ権力者から奪われかねないという緊張感はあるでしょうか」・・・

これについては、5月2日の朝日新聞が1面「失踪村 ベトナム人技能実習生」でも取り上げています。「失踪村、お金も仕事もない 元実習生たち 過酷な労働、夢砕かれて」
・・・途上国への技術移転の名目で、安い労働力として働かされていると指摘されてきた技能実習生。その半数以上を占めるのがベトナム人だ。劣悪な労働環境などから失踪する例が後を絶たない。「失踪村」にたどりついた元実習生たちから何が見えるのか・・・
詳しくは、原文をお読みください。

砂原庸介教授による政治研究新刊書紹介

最近載せていなかった、砂原庸介・神戸大学教授による、政治研究新刊書紹介を取り上げます。しばらく取り上げていなかったので、たまっています。

5月3日 政治参加
4月3日 地方自治・日本政治
3月15日 民主主義/権威主義
2月11日 日本の行政学/地域衰退

たくさんの新刊書が出ているのですね。政治・行政研究の最先端を、このように説明してもらえるのは、ありがたいです。
参考「現代日本政治、新しい研究成果