4月26日の日経新聞経済教室、山口広秀・日興リサーチセンター理事長と吉川洋・立正大学長による「コロナ後のあるべき政策 消費回復へ賃金デフレ脱却」から。
・・・戦後最悪の経済の落ち込みを前に、財政支出は拡大せざるを得ない。所得低下は低所得家計で大きい。就業形態別にみると、パート労働者(特に飲食店)で現金給与総額の落ち込みが大きい。不況は常に逆進的だが、コロナ禍では特に著しい。従って格差の緩和が財政政策の大きな役割となる・・・
・・・しかしコロナショック後に採られた諸政策は、個人消費の明確な増加にはつながっていない。コロナが収束しない限り、消費の盛り上がりは期待できない。しかも日本の個人消費には構造的な弱さがある。
それは近年の消費性向の一貫した低下に端的に表れている。消費性向は14年の75%から20年には61%まで低下した。消費性向の高い65歳以上の高齢者ですら、11年の94%から20年には72%まで低下している。内閣府「国民生活に関する世論調査」をみても、人々が現在より将来への備えを重視する割合は、この20年間調査のたびに上昇している。
金融広報中央委員会の世論調査では、世帯主が60歳未満の世帯に老後の生活について尋ねると06年以降、「心配である」という人が約9割に達する。この10年余りは4~5割が「非常に心配である」と答える。家計の貯蓄目的としては「老後の生活資金」の割合が年々上昇し、13年以降は貯蓄の最大の目的となっている。
図は、消費者の経済や所得への見方をアンケート調査して指数化した経済協力開発機構(OECD)の消費者信頼感指数を国際比較したものだ。日本は14年ごろまでは米欧とほぼ並ぶ水準にあったが、その後低迷が続き、コロナショック後の回復も弱い。財政・金融政策は大同小異にもかかわらず、日本の景気回復が米国に比べ著しく弱いのは、日本の消費者心理が好転しないことが大きな原因だ。
漠然とした将来不安の背景は2つある。一つは政府の財政再建の展望が開けないなか、社会保障の持続性への懸念が強いこと、もう一つは消費者の所得上昇期待が低下していることだ・・・
・・・もう一つの賃金・所得上昇が期待できないことについては、名目賃金の上昇率(年収ベース)は、20年6月以降マイナス幅が拡大しており、足元ではマイナス1.5%となっている。世界的に低インフレが指摘されるなかでも、名目賃金の上昇率(19年)は米国が3.7%、ドイツが2.7%だ。日本の賃金デフレは異常な状態だ。賃金・所得の低迷は経済成長の問題にほかならない。経済成長は財政再建にとっても、十分条件ではないが必要条件だ。
先進国の潜在成長率(直近5年の平均)をみると、米国が2.0%、ユーロ圏が1.3%に対し、日本は0.6%と低さが際立つ。労働人口の減少もあるが、より大きいのは労働生産性の伸び悩みだ。1人当たり実質GDPの年平均伸び率(購買力平価ベース)は、1990年から2019年までの間、米国が1.5%、ユーロ圏が1.2%の一方、日本は0.9%にとどまる。生産性は、サービス業はもとより、製造業を含め幅広い業種で米欧より低い・・・
参考「最低賃金の引き上げ」