9月15日の朝日新聞「語る 人生の贈りもの」、グラフィックデザイナーの松永真さん第9回「負けてもいい、作り替えたロゴ」から。
―1986年にはティッシュ「スコッティ」のパッケージをリニューアルするための国際コンペティションに参加しました。
このコンペには二つの条件がありました。花柄であることと、指定のロゴを使用することです。納得できずに大いに悩みました。
―コンペの条件なのに。
ティッシュといえば生活必需品の最たるものです。狭い家の小さな部屋ごとに置かれるものがなぜ花柄でなければならないのか。白い箱に小さくロゴがあればいいじゃないかと。でも「ロゴを作り直していいですか」と聞いたって、どんなロゴを作るか分からない相手にオッケーしてくれるはずがない。僕は負けてもいいから自分の信じる通りにやろうと決断し、半年かけてロゴを作り替えました。そして花柄をストライプに置き換えたデザイン案を提出しました。
―ルールを無視したのに、国際コンペで優勝したんですよね。
担当者が電話で「あなただけ花柄がない」と言うので、「このストライプが私の花です」と答えました。後で聞くと、1次、2次、3次と続いた審査では毎回得点が低かったようですが、「ここでは落としたくないので、次の段階で」と結局、最終段階まで残ったそうです。必須条件を二つとも無視したのですから大学の試験だったら0点で不合格ですよね。最後に社長決裁で優勝となりました。
当時「山陽スコット」だった会社は合併で名前も変わりました。うれしいことに、コンペから34年経った今もこのデザインは健在です。微調整を続けて進化させていますけどね。