コロナ危機への政権対応

8月21日の日経新聞経済教室、谷口将紀・東京大学教授の「コロナ危機への政権対応 官邸主導の誤用、混乱招く」から。
・・・官邸主導とは、与党と官僚それぞれに対する首相のリーダーシップを意味する。もしかつての党高政低(与党の政府に対する優位)のままだったならば、族議員に押されて「お肉券」や「お魚券」が現実化したかもしれない。官僚主導が続いていたら、法務省の抵抗を前に、感染拡大国・地域に滞在歴のある外国人の入国拒否は遅れていただろう。むしろ官邸主導「にもかかわらず」、あるいは官邸主導の「誤用」に基づく不出来というほうが適切なように思われる。
筆者の見るところ、安倍政権の新型コロナ対応には3つのつまずきがある・・

第1に同じ危機対応でも自然災害のノウハウは蓄積されていたのと比べ、感染症対策については備えが不十分だった。
第2に政治決断にはやるあまり、専門的知見やエビデンス(証拠)に基づく政策決定を軽視するきらいがある。特に専門知識の活用方法、つまり有識者との役割分担に丁寧さを欠く。
第3にアベノミクス「3本の矢」を貫徹させられなかったツケだ・・・そして肝心のアベノミクス第3の矢、成長を軌道に乗せる社会経済構造改革については、少なくとも十分な成果を得られていない・・・

人事院、課長補佐級リーダーシップ研修

今日8月26日は、人事院の「課長補佐級リーダーシップ研修」で、公務員研修所(埼玉県入間市)に行ってきました。
二泊三日の研修なので、コロナの下で実施できるか心配だったのですが、いろいろ配慮して実施されました。

私の主題は、東日本大震災への政府の対応、原発被災地の現在とこれから、そしてリーダーに期待することです。話したい内容は山ほどあるのですが、そこをかいつまんで90分。残り30分は、質疑です。
皆さん熱心に聞いてくれ、さらに鋭い質問も。将来の日本を背負って立つ人たちなので、私も突っ込んで話しました。ああ、話したりない・・・。

補足。「麻生内閣の主な政策体系」は、ここに保存されています。

福島民友、農産物の風評を分析する

福島の地元紙「福島民友」は、精力的に、福島復興の特集を組んでくれます。もう一つの地元紙「福島民報」もそうです。ありがとうございます。
民友は、連載「風評の深層・豊かな大地」として、原発事故風評の農産物について詳しく分析しています。3月23日は「県産品に立ちはだかる見えない壁」でした。
紙面では、もっと詳しい分析が、図表を使って載っています。農産物の全品目が、価格が低いわけではないのです。キュウリなどは、高い値段がついています。記事でも書かれているように、消費者というより、流通の過程で「安く扱われている」ようにも見えます。

24日は「断たれた販路、店から消えた県産品」、26日は「ブランド産地苦悩…安全は数字」です。

ジョブ型雇用、日本への導入

このホームページでもしばしば取り上げている、日本と諸外国との雇用慣行の違い。メンバーシップ型とジョブ型との違いを、8月17日の日経新聞夕刊が、簡潔に説明していました。「働き方ジョブ型って何? 職務・報酬明示し適材適所

記事を読んでもらうとして、簡単にいうと。
メンバーシップ型は、雇用契約は会社の一員になる資格(メンバーシップ)を得るのに対して、ジョブ型は、ある職務(ジョブ)について雇用されます。メンバーシップ型は、会社が従業員に仕事を割り当てます。ジョブ型は、仕事に人を雇います。

かつて、世界から称賛された日本型経営の一つがこのメンバーシップ型雇用慣行でした。発展途上社会、目標とお手本が明確で、集団で取り組む際には、効果を発揮しました。また、ムラ社会から切り離され、家族労働から離れて一人になった労働者たちに、会社は第二のムラ社会として機能しました。
ところが、日本経済が停滞すると、この雇用慣行がやり玉に挙げられました。そして、日本企業でも、ジョブ型の導入が試みられています。日本企業でも海外に進出している会社は、現地ではジョブ型です。

私は、今後日本でも、ジョブ型が進むと思います。ただし、メンバーシップ型の長所もあります。すると、経営者や管理職にはジョブ型が適用され、一般社員にはメンバーシップ型が適用されるでしょう。そして一般社員も、「何をするか」職務と目標が明示されるようになるでしょう。「組織構成員の分類その3。階級の区別

変貌する国際秩序

8月16日の読売新聞言論欄、大塚隆一・編集委員の「国際秩序 行方を握る経済」が勉強になります。小さな本が必要なくらいな内容を、1ページにまとめてあります。政治学、特に国際政治を学んだ人にはわかる内容ですが、そうでない人には、よい入門になったと思います。
・・・第2次大戦の終結から75年。この間の世界は、総じて言えば、米国が主導する平和と繁栄の時代だった。日本もその恩恵を享受してきた。だが、異質の大国・中国の台頭や新たな課題の出現で国際秩序は揺らいでいる。今後はどうなるのか。戦後100年までを見すえて考えてみた・・・

・・・まず図をご覧になってほしい。
戦後75年間の秩序の変遷を時代と分野ごとに切り分けたものだ。
参考にしたのは、国際政治学者の高坂正堯氏(1934~96年)が唱えた「三つの体系」という考え方である。今も古さを感じさせない1966年の著書「国際政治」(中公新書)からポイントになる部分を引用してみる。
「各国家は力の体系であり、利益の体系であり、そして価値の体系である。したがって、国家間の関係はこの三つのレベルの関係がからみあった複雑な関係である」
私なりに要約すれば、「力の体系」は「軍事」、「利益の体系」は「経済」、「価値の体系」は「正義」に対応する。ここで言う「正義」は、国民が共有する理念や価値観、善悪の考え方を指す。
そして国家は、安全を守る「軍事」、生活を支える「経済」、社会のあるべき姿を示す「正義」で成り立つ。国家間の競争では「軍事」「経済」「正義」という「三つの力」が複雑に絡み合う。
こうした視点で世界の動きや大国の攻防を見直すと、どんな構図が浮かび上がってくるだろうか・・・

・・・戦後秩序の歩みを図にすると、改めて気づくことが二つある。
第一に、現代の世界の様々な仕組みやルール、理念や原則は、その多くが1945年に生まれた。つまり、私たちは今も「45年体制」の下で生きている。
第二に、「45年体制」のほとんどは米国の主導で作られた。他を圧倒する国力があったからだ・・・

・・・21世紀に入ると様相が変わる。
重要なのは三つの動きだ。
第一に、米国が次第に指導力を発揮しなくなった。「45年体制」の生みの親で、「軍事」「経済」「正義」すべての秩序の担い手でもあったのに内向きになった。さらに自国第一の姿勢を強めた。
第二に、台頭する中国が挑戦的になった。自由や人権、法の支配などの「正義」の秩序に公然と歯向かうケースが増えた。象徴的なのは南シナ海や香港の状況だ。
「経済」では「一帯一路」構想などで影響力を拡大させ、米国のドル覇権も崩そうとしている。
一方、安保理における特権や自由貿易の原則など、都合がよい秩序は守ろうとしている。
第三として、新しい秩序づくりが必要なグローバルな問題が出てきた。最大の焦点は、米中の覇権争いの主戦場にもなりつつあるデジタル革命への対応だろう。
国際秩序との関連で重要なのはデジタル革命が「三つの力」すべてに深く関わっている点だ・・・

原文をお読みください。