仏教の変遷2

「仏教の変遷」の続きです。

なぜ、民衆はその宗教を信じたのか。その分析がないと、各宗教の社会における意義づけにはなりません。近代になって宗教が衰える以前においてもです、例えば、インドで仏教がはやり、そして廃れたこと。日本でも各宗派がなぜ起こり、また衰退したのか。教義を見ているだけでは、わかりません。よい書物があれば、お教えください。
失礼な言い方ですが、民衆に売れるように、商品である教義を変えていった(少しずつ変えた新製品を出した)と理解するのが、わかりやすいようです。

私たちの経験でも、教義まで知っている人は少なく、葬式と法事の際に行われる儀式と読経と説教くらいが仏教との接点です。昔は、おばあさんが朝夕仏壇に手を合わせていましたが。他には、古寺を訪れ古仏を鑑賞するとか。庶民側の宗教意識と、本に書かれている内容とには、大きな隔たりがあります。

教団についても、組織論としての分析を知りたいです。教団として持続するためには、職員(聖職者)の勧誘と生計維持、組織としての経営(お布施などの収入、支出)、そのための顧客の勧誘(信者の獲得)などが必要です。
信仰だけでは、僧侶や牧師さんも生きていけず、食べていく必要があります。禅宗や修道院は自活しますが、ほとんどの宗教は信者からの寄付で成り立っています。その経済的、経営的分析も知りたいです。

宗教学と言われる学問も、私の問には答えてくれないようです。例えば、岩波書店「いま宗教に向きあうシリーズ」も、さまざまな角度から現在の宗教を論じているのですが、私の知りたいことは書かれていません。関係者からは、不信心者とお叱りを受けそうですが。

連載「公共を創る」第42回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第42回「日本は大転換期―経済発展で「一億総中流」の社会に」が、発行されました。

前回に引き続き、昭和後期の社会の変化を、私の体験を元にお話ししています。村の暮らしが、豊かになる前と後でどう変わったかです。この60年間の変化は、私にとっては、ついこの間のことなのですが、若い人にとっては半世紀も前のことです。えらい昔のことだと、思われるでしょうね。

統計数字に続いて、私の体験を書いたのは、その時代を生きた者の「実感」を伝えたかったからです。豊かで便利になっていく実感、さらに豊かで便利になるであろうという期待です。それは、豊かさを実現した社会では、感じることのできない感覚です。そしてこれは、統計では表すことはできません。

私たちより年上、さらに私たちより少し下の世代の人までは、この実感を覚えています。そして、日本が元気で輝いていた時代を。そこからの転換、考え方の転換が遅れているというのが、次の話になります。

ソニー、採用を分け初任給から差をつける

4月21日の日経新聞「正社員って何だろう(2) 」は、「さらば平等 ソニーの覚悟 新人から給与格差 完全実力主義、逆転も可能」でした。
・・・デジタル革命が世界を揺らす21世紀。正社員のかたちって何だろう。ソニーがたどり着いた答えの一つが「初任給」は横一線でスタートという平等原則の見直しだった。その先には重い課題も待ち受けている・・・

・・・ソニーは昨年入社の新入社員から「新人の給与」は平等という原則を廃止した。能力や働き方が高く評価されると「I1」から「I9」までの等級が付き、階級に応じて給与が上がる。
従来は社員に等級を与えるのは最短でも入社2年目の夏以降だったが、昨年からは新入社員にも適用することにした。その結果、3カ月の見習い期間終了後の「初任給」に格差が出るようになった。松浦さんの「I3」だと月のベース給は5万円増え、賞与なども増額。年収は等級がない同期より100万円ほど多い。
いきなり給与に格差をつけるとやる気が失われるのでは? その心配はない。今後の働きぶりでは等級の降格もあるからだ。
「知識では院卒の同期にかなわないが製品化のアイデアでは負けない」。同じ技術職の大卒女性は早期の等級獲得を目指す。自らの働きで逆転可能な仕組みだからこそライバルも評価し、400人超の同期のやる気も失われない・・・

・・・日本の正社員は終身雇用と年功序列を前提に職務や勤務地を限定せずに働く「メンバーシップ型」が一般的だ。皆が同じ「ムラ社会」に帰属し教育するのも企業なので、初任給も平等であるべきだという考えだ。
一方、初任給に差をつけるソニーの取り組みは、責任や役割に応じて報酬を変える「ジョブ型」を意識する。能力などで個別に新人の給与を決める欧米型に近づけようという試みだ。
初任給見直しに先駆けて12年には採用も変更した。面接でゲーム開発、経理など職種ごとに70コースを提示。学生は第3希望まで選ぶ。人事部だけでなく個々の事業部門幹部も採否に関わる。採用からジョブ型を意識し横並びの初任給もやめる―・・・・

・・・ソニーの場合、等級の降格や剥奪はありうるが解雇に踏み切ることはしない。従来型の雇用関係とバランスをとることで激変を緩和している。経団連も「ジョブ型で採用された社員が特定の職務で能力を発揮できない場合、(解雇するのではなく)別の仕事をやってもらう日本的なジョブ型が望ましい」とする。
焦点は「賃金水準」かもしれない。解雇なしが原則のメンバーシップ型は突然の解雇リスクがない分、給与水準は解雇ありのジョブ型よりも低くなる。初任給を含む賃金で日本が見劣りする一因も、終身雇用を保証しているからだ。だが「薄給」のままで日本企業は高度人材を獲得できるのか。初任給平等原則の見直しは日本型の「正社員のかたちとは何か」を深く問いかけている・・・

わかりやすい図もついています。記事をご覧ください。
参考「働き方innovation 正社員って何だろう(1)

新型コロナと人間社会の行方

読売新聞、社会学者の大澤真幸さんと政治学者の宇野重規さんとの対談「新型コロナと人間社会の行方」から。
・・・最大の主題は、国民国家を横断するグローバルな連帯は可能か、という問いだ。感染症は一国だけで解決できず、国際協力への動きが出ている。他方で、一国的な利己主義も強化されている。人類は国民国家の枠を超えて連帯していけるのか。逆に、一国主義が決定的に強化されるのか。
第二の主題は、私たちは非常時の権力をどう容認すべきか、だ。法の枠を超えた権力が、今ほど求められたことはない。だが非常時の権力は日常の中にとどまろうとする傾向があり、民主主義を破壊しうる。私たちはこうした権力とどう付き合っていけばよいのか。
第三に、監視社会とプライバシーの問題。私たちは、IT技術を駆使した、個人の行動や身体への徹底した監視が、感染症対策に非常に有効であることを学ぶだろう。しかし、それは同時に、私たちの自由やプライバシーにとっての脅威である。私たちは、技術をどう活用すべきなのか・・・

・・・宇野 一見すると、国家主権が強化されたようにも見えます。各国の首脳がテレビなどで国民に語りかけ、存在感が増します。ただ、各国ともウイルスをコントロールできてはおらず、あくまで緊急対応にすぎません。結局は、国際的な協力体制を築いていくしかない。たとえ自分の国の感染拡大を何とか抑えても、他国で流行すれば、ブーメランのように自国にも感染の波が戻ってくるのですから。
大澤 人類は、国民国家の利益だけを追求してもうまくいかないと自覚し始めています。国家の利益とは矛盾する部分が出てきても、国家主権の一部を国際的な機関にゆだねることを目指すしかありませんね。ただ懸念もあります・・・

・・・宇野 感染の拡大防止策では、ヨーロッパと東アジアで違いが明確に出ていました。ヨーロッパは基本的にロックダウン(都市封鎖)などで、個人の行動を総量で規制しようとしています。他方、中国や韓国は、スマホの位置情報を追跡して濃厚接触者を割り出すなど、個人の行動をマイクロレベルで把握しようとしました。平時に戻った際、権力のあり方の違いにもつながっていくのではないでしょうか。
――かねて監視社会批判は情報化の便利さの前に、今一つ力を持たない感もあります。
宇野 自由と幸福は両立するというのが、近代リベラリズムの理想像でした。現在は二つが切り離され、どちらを選ぶか迫られていると思います。ですがどちらか一つを取ることはできず、両者のバランスをどう取るか、知恵が求められています・・・

・・・宇野 フランスの政治学者ピエール・ロザンヴァロンは、著書『良き統治』で、良い統治の条件として、決定過程を明確に説明できること、責任を取ること、国民への応答を挙げています。今回の危機で、権力側が個人の監視を強めるので、国民の側も統治のあり方をチェックできるようにしなければ、バランスが悪くなっていくと思います。
――そうした民主主義には適切な担い手が必要ですが。
宇野 短期的には、権力による個人情報の把握が、国民の要求の下で進むでしょう。ただ日本を含め、各国民は指導者や権力の説明を厳しく評価し、要求水準も高まっています。政治権力はきちんと応答しないと、統治が成り立たなくなり生き残れないと思います。長期的には、そうした国民の声に基づいた、良き統治の実現の可能性に期待したいです。もちろん国民の側も要求するだけではダメです。公共のために何ができるのか考えることが重要です。
大澤 現状だと有象無象の文句と捉えられてしまいますものね。ただ、それが組織化されれば、説明責任を果たさない政府は、その正統性を維持できなくなるでしょう・・・

詳しくは、原文をお読みください。

在宅勤務が変える仕事の仕方2

4月15日の日経新聞オピニオン欄、水野裕司・上級論説委員の「テレワークを阻む壁 時代遅れの時間管理」から。

・・・新型コロナウイルスの感染拡大抑制策として、会社に出勤せずに働くテレワークが広がってきた。自宅で仕事が進むかどうか不安だった人からも「実践してみると、意外にいける」という感想をよく聞く。デジタル技術を使い、会議や打ち合わせもオンラインでできるのは便利だ。
通勤が不要になる利点は大きい。総務省が5年ごとに実施する社会生活基本調査によると、2016年の通勤・通学時間(往復)は全国平均で1時間19分。首都圏の1都3県が1位から4位までを占め、トップの神奈川県は1時間45分にのぼった。これだけの時間を省けるうえ、通勤ラッシュで疲弊せずに済む。仕事の効率は上げやすくなる・・・

・・・しかし一方で、テレワークをやりにくくさせているものもある。労働時間を厳格に管理しなければならないというルールだ。
労働法上、使用者(会社)には労働者が働いた時間を把握・管理する責務があり、これはテレワークでも変わらない。自宅にいれば仕事を中断することがしばしばあるが、在宅勤務をする人は原則として、始業・終業時刻はもとより業務から離れた時刻や戻った時刻をその都度、記録する必要がある・・・
・・・こうした厳正な労働時間の管理は、労働といえば工場で働くことを指していたときから続く仕組みだ。
戦後間もない1947年に施行され、労働時間や賃金の制度を定める労働基準法は、働く時間と生産量が比例する工場労働を前提としている。働いた時間は賃金を決めるための物差しであり、その正確な把握は必要不可欠だった。
ところがデジタル化を中心とした産業構造の変化で、働いた時間と成果が比例しない仕事が急増している。定型作業を除けば、労働時間を賃金算定の基準にすることは理にかなわない。時間管理の意味は薄れているといえる。
労務管理が「集団」から「個」へと変化してきたこともある。工場労働なら、製造現場に集合した従業員を管理者が直接、指揮命令下に置け、労働時間の把握が容易だった。働き方が多様化し、働く場所が会社の中とは限らない現在は、時間管理を徹底しようとしても限界がある・・・

・・・働いた時間の長さでなく、どんな成果を出したかで賃金を決める仕組みを広げていくべきだろう。
労働時間の把握には働き過ぎを防ぐという重要な狙いもある。仕事の時間配分を自分で決める裁量労働制でも、会社が日々の就労状況を把握しなければならないのは、社員の健康管理のためだ・・・