「マティス国防長官の辞任」の続きです。長官の書簡を見て、「進退伺い」と「辞表」の違いを考えました。
辞表は、組織を辞める時に、上司に提出します。自己都合だったり、問題を起こした際の責任をとってです。私も、政府から自治体に出向する際、あるいは戻る際に、何度も書きました。雇い主が替わるので、前の雇い主に辞表を出します。事務次官を退職する際も書きました。
それに対し、進退伺いは、多くの場合、問題を起こした際に、自らの処分を上司の判断に委ねるのです。
ところが、進退伺いを書くのに、もう一つの場合があります。それは、自分は間違ったことはしていない、しかし上司と意見が合わないので、自らの進退を上司に委ねるのです。マティス国防長官の書簡は、後者に当たると思います。もっとも、この書簡が出る前に、トランプ大統領が長官を首にすることを公表したので、厳密な「伺い」ではありません。
2018年12月26日の日経新聞オピニオン欄、秋田浩之・コメンテーターの「マティス氏退場 当たり前でなくなった同盟」に次のような文章があります。
・・・自分からは決して辞めないー米国防省省の元高官によると、マティス氏は今春以降、周辺にこんな決意を伝えていたという。「自分が辞めたら、大変なことになると分かっている。だから解任されない限り、政権内に踏みとどまる。修道僧のような覚悟を秘めていた」。元高官は明かす・・・
実は、私も一度、進退伺いを書いたことがあります。もう20年以上も前のことなので、書いても良いでしょう。私の場合は、国防長官ほど深刻な事態ではなかったのですが。その際に学んだことです。
困ったことは、見本がなかったことです。いまでは、インターネットなどにも、進退伺いの書式例が載っていますが。当時、人事課職員に尋ねたところ、「辞表はたくさん実例を保管していますが、進退伺いは残っていません」とのことでした。そこで、書いたことのある先輩を見つけて、指導してもらいました。
なぜ、進退伺いが残っていないか。それは、よほどのことがない限り、上司は進退伺いを受け取らない。あるいは、受け取って破り捨てるのです。だから、実例が残らないのです。
とんでもないことをしでかしたら、辞表を書くか、上司に直接お詫びして処分を待ちます。だから、そのような場合に、進退伺いを書くことはありません。
進退伺いを書くのは、マティス国防長官のように、「私は間違っていない」と主張するためです。すると、辞めることを覚悟で提出する場合と、辞める気はないけど提出する場合があります。マティス国防長官は前者です。
私が進退伺いを書いた際に、先輩に教えられたのは、「上司に受け取ってもらわないことが一つの方法だ」ということでした。それで、提出先でなく、その方の部下であり私の上司である中間の方に持って行きました。
「このようなものを持ってきては困る」とおっしゃいながら、受け取って引き出しにしまわれました。たぶんその後、提出先に相談に行ってくださり、私の書いた進退伺いは、破り捨ててくださったのでしょう。
私も、若かったですね。今なら、他の方法を考えるでしょう。