年別アーカイブ:2018年

パワハラ、しごき。その2

2018年11月27日   岡本全勝

11月22日の朝日新聞オピニオン欄「人を導く力とは」の続きです。

松崎一葉さん(精神科産業医)
・・・企業の研修で、講師が一般的なパワハラ話をしても、管理職は「きれいごとに従っていたら契約は取れない」「今の若者は9時~5時で働くだけでは育たない」と話半分にしか聞いていません。彼らには、利益を上げるためには自分の指導方法は多少きつくても「善」であるという信念があるからです。
彼らが部下を指導する内容自体は無理難題ではなく、事実、若手が頑張ってもとれない契約が、課長がいくとまとまったりする。「こうしたらいい」という彼らの指導内容はおおむね正しいのです・・・

・・・しかも彼らは自分の出世目的というより、「国民にいい車を届けよう」とか「お客さんが満足するサービスを考えよう」と、本心から思っています。その目標がしっかり共有されているとき、私は上司と部下との間に「共感的関係」が成立していると言います。部下は「この人が言うのなら」と我慢して、自分から過重労働に耐えようとするのです。働き方改革が叫ばれても、こうした関係が会社の中に内在する限り、うつ病や過労死の危険がなくなることはないと思います。
昨今のレスリングや体操など競技団体でのパワハラ騒動も、同じように「金メダル」という崇高な目標を共有していた「上司と部下」の信頼関係がくずれた結果、とみることができるでしょう。
上司は結局、自分の成功体験を部下に押しつけ、自分のコピーをつくろうとしている。中にはうまくいき「育てられた」と思う部下も出ます。その部下は次の世代に同じ厳しい指導を課します。我慢して成し遂げた経験が無意味とは言いませんが、会社は次第に劣化するかもしれません。経済成長の鈍化でイノベーションが必要とされている現在、画期的な商品や新たなビジネスモデルは、商品を改良し量産すれば消費が伸び、売り上げが出た高度経済成長やバブル時代の「できる社員」からは生まれないからです・・・

社会史と政治史、喜安朗・川北稔著『大都会の誕生 ロンドンとパリの社会史』2

2018年11月26日   岡本全勝

社会史と政治史、『大都会の誕生 ロンドンとパリの社会史』」の続きです。

パリについては、喜安朗先生が19世紀の民衆運動を書いておられます。
フランス革命後、商工業の発展、市民層の台頭が、パリの風景を変えていきます。大通りが作られ、盛り場ができます。主役は、貴族から市民(金持ちとそうでない人と)になります。その盛り場を舞台にして、民衆の歓楽と騒ぎが出ます。それが暴走すると、1846年の2月革命となります。
歴史で学んだ2月革命が、より詳しく、その背景や民衆蜂起としての姿が描かれます。

この本を読むと、政治史がいかに狭い範囲を扱っているかがわかります。社会の変化を見るには、政治指導者たちの動きだけでなく、それを支えた、あるいは指導者たちが意識しなければならなかった民衆の意識や社会の問題を見る必要があります。
マルクス経済学は、経済という下部構造が社会と政治を規定しますが、これはあまりに短絡的すぎます。
これからの歴史学、政治史は、民衆と社会を対象としたものに変わっていくのでしょう。
関連記事「歴史の見方の変化」「加藤秀俊著『社会学』

パワハラ、しごき

2018年11月26日   岡本全勝

11月22日の朝日新聞オピニオン欄「人を導く力とは」から。

筒香嘉智さん(プロ野球横浜ベイスターズ選手)
・・・今年の夏、少年野球で暴力を振るう指導者の動画を見ました。あり得ません。罰はまったくいらない。他のスポーツや会社でも、怒鳴る、殴るという指導があると聞きますが、そのような指導者は、相手に聞いてもらえる言葉を選べていないわけで、言うだけで足りないから殴ったり怒鳴ったりしてしまうんですよね。
指導する際は、じっくり見守り、迷いがあるときなどに手を差し伸べる、というのが理想的です。答えをすぐに教えたくなる気持ちもわかりますが、それは子どものためにならない・・・
・・・コーチングというのは、本来は導くという意味です。しかし、日本ではティーチングをしていることが多い。怒鳴りつけるコーチは米国でもドミニカでも見ませんでした。会社でも、部下が仕事でミスをしたというだけで怒り、自己満足しているのは厳しさじゃないと思います。愛がないように感じます。共にする時間が長い上司として、部下が日ごろどう考え、どんな努力をしてきたのかをすべてわかった上での言葉ならいいと思いますね・・・

川人博さん(弁護士)
・・・元ラグビー日本代表の故・平尾誠二さんと、ノーベル賞を受賞した山中伸弥さんの物語を書いた「友情」という本に、「人を叱る時の四つの心得」が記されています。(1)プレーは叱っても人格は責めない(2)あとで必ずフォローする(3)他人と比較しない(4)長時間叱らない、とありました。
私が担当する東京大学のゼミで、(お好み焼き店チェーンの)千房の創業者である中井政嗣さんに話をしてもらったことがあります。元受刑者を積極的に採用し、上司が部下に接する際に大事なのは、「ねぎらい」と「励まし」だと指摘されていました。これこそリーダーシップだと思います。
この逆がパワハラで、相手のためではなく自分のストレス発散のために叱っています。誰でも加害者になる可能性があります。個人的資質も関係ありますが、環境や置かれた条件にも左右されます。社長から無理難題を課せられた部長や課長が、その部下に八つ当たりをするようになります。
長時間労働で肉体的にも精神的にも疲れると、他者への配慮を欠くことにつながります。抑圧は下へ下へと移っていき、最終的に家庭内での虐待などにもつながっていると私は考えています・・・
この項続く。

官民協働施策、神戸市の認知症事故対策2

2018年11月25日   岡本全勝

官民協働施策、神戸市の認知症事故対策」の続きです。

今回この施策を取り上げたのは、
1 神戸市が考えた新しい施策を、皆さんに紹介するとともに(たぶん他の自治体にも広がると思います)
2 表題につけたように、行政と民間企業との協働施策として、お話ししたかったのです。認知症事故対策といえば、普通は行政の仕事と想像します。しかし、今回は行政の役割と企業の役割を、うまく組み合わせたのです。

例えば、保険で官民が協働している代表例は、自動車損害賠償責任保険制度です。
法律により、車の所有者に加入が義務づけられている強制保険ですが、所有者が入るのは民間の保険会社の保険です。ひき逃げ事故や無保険車で、被害者が損害賠償を受けることができない場合は、政府が損害額を被害者に支払う仕組みになっています。
よく考えられた仕組みです。

年金制度は、かつて国の社会保険庁が運営していましたが、ずさんな管理で「消えた年金」が大問題になりました。社会保険庁は取り潰しになり、日本年金機構になりました。
年金制度も、自賠責と同様に法律で義務付けして、運営は保険会社に任せておけば、そんな問題は生じなかったと思うのですが。なにか不都合があるのでしょうか。

創造性の対語は生産性

2018年11月25日   岡本全勝

11月22日の日経新聞「やさしい経済教室」、鷲田祐一・一橋大学教授の「経営とデザイン」から。

・・・人工知能が普及し、複雑な意思決定も機械に任せられる未来が来るとすれば、人間は何をすべきでしょうか。漫然とベーシックインカムを受け取って怠惰な生活を送るような未来を望む人は少数派でしょう。空いた時間や手間を使い、創造的なことをして人生を豊かなものにしたいと考える人のほうが多いと思います。では創造的とはどのようなことを指すのでしょうか。

英語では創造性の対語は生産性です。日本企業は生産性が低いことが大きな課題になっており、政府は働き方改革などによって改善を促しています。数字の上では単位あたりの労働量を減らせば生産性は向上します。しかし、日本企業に今最も求められているのは、創造性の発揮によってもたらされる生産性の向上でしょう。

生産性の算出式を簡単に言えば、分母が労働量、分子が付加価値ですが、分母を減らそうと四苦八苦するよりも、分子を拡大することにもっと力を注ぐべきだということです。そして、分子の付加価値を拡大する有力な方法が創造性の発揮です。創造性と生産性は相反するものではなく、等式の右辺と左辺のような関係と見ることができます・・・