砂原教授、政治学の新著紹介

砂原庸介・神戸大学教授が帰国され、ブログも活発になっています。
最近出版された政治学関係の著作を、紹介してくださっています。

単なる紹介(インターネット書店のような)ではなく、意見が書かれているので、参考になります。例えば、『農業保護政策の起源』では。
・・・日本の農業政策といえば,政治家・農協・農水省が作る「鉄の三角形」が重要だと言われたり,農業補助金を増やすことを志向する農水省が国際交渉を梃子に省益を拡大する,などと言われることがしばしばあります。それに対して本書では,そのように大雑把なかたちでアクターの選好を決めて分析を行う方法はとりません・・・

・・・本書を読んで改めて思ったのは,強い強いと言われてきた日本の政府はホントはずっと弱かったんじゃないかなあということです。私の方はもともと自分の住宅の研究でそう思ってたのですが,佐々田さんの農政の話を読んでその思いをより強くしたといいますか。何ていうか現状に働きかけて大きく変更しようというのがずっと難しくて,一応議論としては出るんですが結局採用されることはない,という感じ。官僚の方は,そんなに強く権利義務を変更するようなことはできないという前提のもとに,feasibleな中で一番望ましい政策を選好するようになるというか,そういう理屈を編み出していくような気もします。もちろん強い強いと言われてきたのは産業政策が本丸なのわけですが,その辺に新たな研究が生まれてくるとまた違う話が出てくるのかもしれません・・・

そうですね。官僚の議論が採用されるのはサービスを拡大する場合と、方向変換で成功したのは占領軍を背景にした戦後改革でしょうか。

たくさんの新著が紹介されています。こんなにもたくさんの本が出ているのですね。研究者も、追いかけるのが大変でしょうね。
私も本屋に行っては、政治学や社会学の棚を見るようにしているのですが。先生のブログで見て、初めて知る本もたくさんあります。
問題は、興味を引かれる本がたくさんあるのですが、なかなか読む時間を作れないことです。買っては積んどく本が増えます。そのうちに、買ったことも忘れています。もちろん、読んでも内容を忘れるのですが。

ヨーロッパ、政治の両極化

12月8日の朝日新聞オピニオン欄「蒸発する欧州の中道」。詳しくは、原文をお読みください。

イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズ氏の発言から。
・・・欧州の中道左派の政治理念は、既存の政府機関と協力しながら、富の再配分や福祉政策を重視して、より人道的な政策にしていく考え方に基づくものです。1990年代から20年、欧米で大きな成功を収めてきた中道左派勢力ですが、いまや蒸発しつつあります。

デジタル革命が起きていることが最大の理由です。産業革命よりも急速かつ地球規模で広がり、個人生活を含めてあらゆるものに本質的な変化が起きている。通貨の大半は電子マネーになった。製造業は海外移転によって急速に衰退した。ドイツ車の製造工場では自動化されたロボットが車を造っています。英国でいま製造業に従事しているのは全人口の8%、農業は1%に過ぎない。残る大半の人はサービス業に従事しています。

ツイッターなどSNSを通じて直接民主主義的な動きが広がったことも極めて注目すべき点です。トランプ米大統領がどれだけツイッターを使っているか。デジタル的な直接民主主義の広がりで、旧来型の民主主義の手続きが回避されるようになった。高齢者や貧困層が変化に取り残されて社会への帰属意識が失われ、国の行く末が見えなくなっている・・・。

・・・旧来の社会民主主義的な考えを持つ人たちが「不平等を減らそう」と言って、グローバル資本によって生み出された不平等に立ち向かおうとしても非常に難しい。国家にもはやそのような力は備わっていないからです。現代の政治が抱えているジレンマの多くがここにあります・・・

ベルリン自由大学研究員クリストフ・ニューエン氏の発言から。
・・・一方で、中道の政治システムは、左右の中道政党が経済の基本政策で一致しています。このため連立の有無にかかわらず、有権者には政策を選ぶ余地がほとんどありません。有権者にすればCDUに入れても、中道左派の社会民主党(SPD)に入れても、実施される政策はあまり変わらないことになる。「新たな中道」を掲げたSPDのシュレーダー政権(98~2005年)は、市場経済を擁護しながら、弱者も保護する政策を目指しました。経済は潤ったが、弱者たちは十分に保護されたとは感じなかった。こういう有権者をどう取り込むかは、CDU、SPD双方の課題となってきました・・・

・・・根本的な問題とは何か。これまで労働者ならSPD、比較的裕福で保守的な有権者はCDUに投票してきた。ところが産業構造の変化で、多くの人は自分が労働者階級だと感じなくなりました。同じ企業内でも高い給与を得る正社員と、不安定な派遣労働者がいるからです。人々は経済的な格差より、移民や同性婚の是非など社会的な価値観をより重視するようになってきた。富の再分配に賛成し、経済的にはリベラルな志向を持つ労働者が、移民受け入れや同性婚に賛成とは限りません。

「経済格差」問題を軸に対応してきた大政党は、「社会的価値観」という新たな対立軸に対応しきれていません。もし私が移民に反対なら、新興右翼政党AfD(ドイツのための選択肢)に、開かれた社会を望むなら「緑の党」に入れるでしょう。有権者の関心に応じて政党が分裂すれば、自分の意見が反映されると、より多くの人が感じるかもしれません。でも、次の段階でその少数政党が連立政権をつくるには、政策の妥協が必要です。人々は再び不満を感じることになります・・・

復興、今後の課題

復興庁が、「復興・創生期間後も対応が必要な課題の整理」を、とりまとめ発表しました。「概要」に簡潔にまとめられています。その後ろに参考資料として、復興の現状がついています。ご利用ください。

地震・津波被災地域は
・ 生活インフラの復旧はほぼ完了し、産業・生業の再生は着実に進展するなど、復興の総仕上げの段階。
・ 被災者の見守りや心のケア、コミュニティの形成、被災した児童生徒等への支援などについて、復興・創生期間後も一定期間対応が必要。

原子力災害被災地域は
・ 福島の復興・再生は中長期的対応が必要であり、復興・創生期間後も継続して、国が前面に立って取り組む。
・ 帰還促進のための環境整備、福島イノベーション・コースト構想を軸とした産業集積、事業者・農林漁業者の再建、風評払拭・リスクコミュニケーションなどについて、復興・創生期間後も対応が必要。

国会による行政の監視

12月17日の朝日新聞、国分高史・編集委員の「国会空洞化、「新たな専制」へ道」に、興味深い指摘があります。通常、法律で基本的な事項を定め、詳細は政省令に委ねることが多いです。しかし、単純に政省令に委ねるのではなく、国会がそれを監視するのです。

・・・法で大枠を定め、詳細は政府が定める政省令に委ねる政策が増えているのは各国に共通の傾向だ。ただ、欧米では議会が政省令を審査し、不適切と判断すれば拒否できる制度がある。一般に「議会拒否権」と呼ばれている・・・

・・・この制度に詳しい田中祥貴・桃山学院大教授(憲法)によると、その仕組みや経緯は次のようなものだ。
例えば、改正入管法には外国人労働者の受け入れ業種などを含め「法務省令で定める」との記述が約30カ所もある。議会拒否権制度のもとでは、法の根幹にかかわる政省令を発効させるには議会の承認が必要だとあらかじめ条文に書き込んでおく。重要度が低い政省令は、一定期間内に議会が否決しなければ自動的に発効を認める。

なぜこんな制度があるのか。英国では20世紀初頭から政府が定める政省令が急激に増加。これに伴う政府の権限拡大は議会制民主主義を形骸化させ、政府による「新たな専制」につながりかねないとの警戒感が議会に強まった。議会がこれを克服する工夫を重ね、第2次大戦後に制度として確立したという。

「改正法の関連省令を国会で審査するのは一歩前進だ。ただ、日本社会のありようや外国人労働者の人権にかかわる重要法であることを考えれば、省令を成立・発効させるには国会承認を要件とするなど、もう一歩踏み込むべきだった」と田中教授は話す・・・

相手の目を見て話すことが苦手

12月11日の日経新聞夕刊「Bizワザ」は、「視線耐性どうつける? 相手の目を見て話せない…」でした。
・・・相手の目を見て会話するのはコミュニケーションの基本だが、若い世代には苦手な人が多い。視線を合わさず自信がなさそうな印象を与えると、ビジネスではマイナスになることもある。どうすれば改善できるだろうか・・・

「視線耐性」とは、私は初めて聞きました。相手の目を見て話すことができる能力、相手の視線に耐えられる力のようです。
若い人が苦手なようです。採用面接の際に、緊張するようです。まあ多くの場合は、仕事を続けているうちに、乗り越えることができるようになるのですが。

最近は、パソコンやスマホを相手にしている時間が長いので、人とのコミュニケーション能力が低下するのだそうです。
なるほど。すると、解決策は、スマホの時間を短くして、人と会う機会を増やすことのようです。
詳しくは本文をお読みください。